Novel

SHORT-SHORT
Fair or Unfair?

「姫様、折り入ってご相談があります」
 いつになく真面目くさった顔で自分の元にやって来た旅団員の少女。
 真面目なのは別に大して不自然な事じゃない。確かに、相手によっては真面目すぎて空回りしているようなところもあるが、彼女はそういう人間だ。
 が、それでも今日の彼女はどうも不自然だった。
 態度は真面目でも普段の表情は比較的和み易いのだ。が、今日はその表情ですらどこか真剣で。
「……いきなりどうしたの、理紀?」
 何とも言えない不安を抱きつつ、藍羅は問い掛けた。

GUNBLAZE Valentine Edit - Fair or Unfair?

「で、わざわざこんな所まで呼び出して……しかも揃いも揃って一体何事?」
 有無を言わさぬ顔で「付いて来て下さい」と引っ張られ、そのただならぬ雰囲気に逆らう事など藍羅には出来なかった。立場上断る事など幾らでも出来るのだが、こんな些細な事で第12旅団のメンバーを敵に回す事などはしたくなかった。断る理由が無いのなら尚の事。
 つれて来られたのは第12旅団の溜まり場化している一室。こじんまりとした部屋には珍しく旅団のメンバー全員が揃っていた。
「姫様、折り入って相談が……」
 一番先に口を開いたのはリブレだった。が、
「それならさっき理紀にも言われたけど、一体何なのかしら?」
 と、戻って来た返事に思わず苦笑を浮かべつつ口を閉ざす。言いたい事は容赦無く言って来るリブレにしては珍しい。
「その、だな……」
 今度はブラッドだ。どうも話し辛そうな顔をしているものの、続けるよう促した。
「今憲法改正案出てるだろ?」
「ええ」
「その中に『バレンタインの贈り物は公平に』っての入れられないか?」
 先程まで躊躇ってた割には随分とストレートに言いたい事を言って来た。
 …のはいい、が。
「……はぁ?」
 呆れを通り越して、感心してしまう。
「いや、その……」
「何かやたら真面目な顔してるから、よっぽど大事な話かと思えば何よソレ」
「し、仕方ないだろ! そうでもしなきゃどっかの誰かが無駄にチョコ集めてたり、どっかの誰かが全然貰えなかったりとか!」
 何をどう考えても前者はリブレ、後者はブラッドだろう。
 当然だ、あげる相手を二人の中から選べと言われれば誰もがリブレを選ぶだろう。見た目だけならどこからどう見てもリブレの方が好青年だ、見た目だけなら。
「いや、でも僕も一理あると思うんですよ。欲しくも無いのにドッサリ渡される方の身にもなってみて下さい、姫様」
「さり気に随分と酷い事言うわね、アンタも」
 そう、誰もが見た目に騙され、リブレの本性には気付かないのだ。
 まぁリブレ本人も慣れていない相手の前では多少気を遣っているのだろうけれど。
「とにかく、団長のためにもここは一つお願いします!」
 そう言って頭を下げる理紀。
 団長がモテていないという事を認めていると言っている事に気付いていないのだろうか、彼女は。
「そ、そう言われても……幾らなんでも年一度のイベント、しかもこんなマイナーなのに」
「どこがマイナーなんだ姫さん!」
 叫ぶブラッド。もうこの際無視して他の団員達の方に向き直る。
「気持ちは分かるけど、だからって何も法案に入れなくても…」
 思わずそこで言葉が止まってしまう。
「団長の言う通りにして下さい、姫」
「旅団の士気にも影響するんだよな…」
 目の前には刀を手にしたフローズと、指をボキボキと鳴らすヘイズ。最早脅迫も同然だ。
「お、落ち着いてってば! 法案に入れる事が出来なくても、何か策考えてみるから!」
 ロイヤルの威厳と権限はどこへ行ったのやら、藍羅は泣きそうな声で叫んだ。
 
 そして、バレンタイン当日。
「……姫さんよ」
「なぁに、ブラッド」
「コレは本当に全部俺のモノなのか?」
 ブラッドが指差す先に一瞬視線を向け、
「ええ」
 と、一言。が、ブラッドは腑に落ちない顔付きのままで、
「本当にコレは全部俺宛なのか」
 と藍羅の方を見る。
「……ええ」
「何だよ今の間は」
「気の所為よ。それより要らないの?」
「……有難く頂戴して行きます」
 そうして、段ボール箱いっぱいに詰まったチョコレートを、それはもう嬉しそうな顔で抱えて歩き出した。
 ブラッドが去ったのを確認し、重い溜め息を吐く。
 すると、
「上手い事を考えましたね姫様」
「ひぃっ!」
 背後からの冷ややかな声に思わず飛び上がる。この際威厳云々などどうでも良かった。相手が相手である以上尚更だ。
「なっ、何の事かしら?」
「おや、僕が気付かないとでもお思いでしたか?」
 いつも通りのリブレの声に再び溜め息を吐く。
「申し訳無い事したわね、リブレ」
「いえいえ、処分の手間が省けて助かってますよ」
 二人の視線は廊下に並んでいる金属製の箱に向けられていた。一見郵便ポストのように見えるのだが、それよりも投入口が多く、投入口の下には旅団員の名前が書かれている。
「頼むからブラッドには……」
「言いませんよそんな事、その代わりと言ってはなんですが……」
「予算増やすぐらいなら多少は何とかなるわよ」
「話が早くて助かりますよ、姫様」
 そう言ってリブレが立ち去ろうとしたその瞬間。
「あっ! 何だよコレ!?」
 さっきまで上機嫌だったはずのブラッドが大声を上げる。
「『親愛なるリブレ・アナレス様に、ハッピーヴァレンタイン』って…オイコラ何だよコレは!?」
 怒鳴りつつ近づいて来るブラッド。思わず顔を引きつらせる藍羅とリブレ。
「オイコラ、どういう事か説明しろ!」
「な、何かの間違いでしょ!」
「間違いですよ、団長」
 ぎこちない調子で応える藍羅とリブレを疑るような目で睨むブラッド。
「アレ、団長。こんなに沢山の人が入れてらっしゃったんですか?」
 傍にやって来た理紀の言葉に更に顔が引きつる。
「ああ?」
「アレ、しかもリブレさん一個だけって……しかもコレ僕が団長に……」
「あーいや、何かの手違いでしょう。ね、姫様」
 いつに無く慌てた様子のリブレを見つめる理紀の視線が突き刺さる。
「そ、そりゃそうに決まって……」
「ンなワケあるかぁ! さてはお前ら俺とリブレのを入れ替えて……」
「いやいや、そんな姑息な手を僕らが使うわけが」
 そう言いつつも逃げ腰になっているリブレ。
「だったらあのポストの中身見せろ中身!」
「それはちゃんとあたし達が…」
「信用出来るか!」
「ちょっと待ちなさいよブラッド!」
 必死になってブラッドを止めようとする藍羅とリブレ。それを唖然とした顔で見つめる理紀。
 そして。
「……アレが解決法ですか?」
「らしいな」
 少し離れた所に居たフローズとヘイズは呆れ顔で一部始終を見ていた。
「いっそバレンタインなんて廃止してしまった方が平和的だと思うんですが」
「いや、そうするとレイジに殺されるだろ、アイツ甘党だから」
「渡して来る人居るんですか?」
「……」
 今日もレブナンスは平和だった。

2006/02/15

(原案:亜積が勝手に補足)
亜積の落書きに桐がネタを一丁やってくれました。
レイジは普段から餌付けされてるので、皆無意識下だと思うます。