Novel

SHORT-SHORT
Lost General Thought

「よーう、何か欲しい物ねーかー」
 赤いロングコートを羽織った巨漢が、獣の耳の生えた少年を肩に乗せながら白い馬鹿でかい袋を引き摺る様は、さながら異国の偉人のようだ。
 それは唐突な出来事だった。

 外気に触れる格納庫は酷く冷えていて、外にいるのとほとんど変わらない室温を保っている。息を吐けば白く映る場所で、巡回から戻ってきたばかりの軍人を捕まえて金髪を束ねた男は得意げに言う。
「さァ欲しい物を言ってみろ」
 整備の終わった機体の前で仁王立ちで待ち構えていた彼は、魔法軍事国家レブナンスの誇る特殊部隊第12旅団所属の団長、ブラッド・バーン・ブレイズ。普段の楽観さはそのまま、やたら楽しそうに副団長ヌクリアと遊ぶ。
 気になるとすれば、羽織っているのがいつもの薄灰の軍服ではなく、まるで色違いにしか見えない赤いコート。一体どこから持ってきた物なのか。
 突然の質問もあって、団員誰も自ら口を開こうとはせず、空気が澱む。
「なんだァ、皆遠慮深いな」
「いや、団長……ちょっ……」
「はい! そこー! リキ!」
 状況を問い質そうとした人間から早速餌食にして行く。
 空気が読めていないのはどちらだ。早速捕まった理紀を一瞥し、周囲が安堵している様子が見て取れた。言葉に詰まった理紀は、ぐっと息を飲みフローズを一瞥した。
「僕はー団長から貰えるならなんでもい」
「はい、次ー」
「さり気なくスルーですか団長」
 途中で遮られた理紀の反撃に、クイーヴまでもが溜め息をついた。
 次なる餌食はフローズか。その場にいた団員一同の視線が彼女の方へと注がれる。ブラッドの期待と好奇の視線に晒されたフローズがそれとなく苦い表情を浮かべていたのは、同じ団所属の人間なら当然だと思うだろう。
 外の冷たい空気が流れ込んでくると共に、ホバーの停止音が室内に響く。ブラッドの注意はすぐにその方に向けられた。
「おー、いいとこに来たな」
 ミルクティー色の髪から覗く紫紺の眼光が揺らいだ。黒のラインの入った軍服を着た大男の後ろに乗っていた青年――一見る人当たりの良さそうな好青年ととれる――が笑む。
 ヌクリアが跳ねながら彼の方へ駆け寄って行く。
「団長、サンタさんなんだってー」
「ああそうか、クリスマスですか」
 青年リブレの言葉に、大男は心底嫌そうな顔をした。
「サンタだァ? 馬鹿かお前、そんな余裕がウチの団のどこにあるってンだよ」
 カードキーを抜き、大男はブラッドの横を通り過ぎる。彼の言葉は尤もだ。他の団員が敢えて口にしなかった単語を軽々と提示してくる。だからこそ団長である彼とあまり仲が良くないと見えるのか。
 殴り合いになるか、巻き込まれなければ別にどうって事もないのだが。
「夢がないなーヘイズ。夢がない悪い子にはやるモンなんてねえよー、リブレは何がいいんだ?」
「そうですねェ」
 短く唸り、青年は明るく答えた。
「この団における僕の実績を」
 辺りが静まり返る。
 ブラッドは深く溜め息をついて切り返した。
「自分で作れ」
「えー」
「はい、フローズはなァにー!」
 手をパンパンと叩きながら仕切る様は、最早強制だ。不服そうにリブレは苦笑する。
「ちょっとしたジョークなのに、団長。つれないなあ」
「お前のはジョークでもなんでもねぇだろうが」
 事実、団を異動してきてからの彼は前の団にいた時の噂とは大違いで大人しい。いつ化けて出るかと内心冷や冷やしているのが馬鹿みたいに思える程だ。
 ただ、時々棘のように刺してくる毒が痛いのが難だが。
「じゃあ、私は」
 いい加減に観念したのかフローズが呟く。
「今。この場で。仕事しないどこかのヒヨコ頭を制止させる術を下さい」
「っておい! マジそれ痛いから! やめてフローズ!」
 淡々と取り出したのは彼女の得意とする氷系のマナ。早速唱える準備に入っていた。
 氷系のマナは殺傷力が高く、いくら鍛えてる身とはいえそれは彼女も同様だ。精神力の高い術者の魔法に当たればただでは済まないのは目に見えている。
「うん、だから団長。仕事したら良いんですよ」
 にっこりと笑いながら青年は人差し指を立てた。
「リブレ! お前も敵か!」
「だってー今の団長、明らかに仕事の事忘れてるフリしてるじゃないですか。その脳波形……」
「人の数値覗き見るな!」
 ヘイズもクイーヴも同意の表情を浮かべている。理紀は全く眼中にない様子だ。
「裏切り者ーお前らなんてもう知るかー」
 叫びながら、小柄の少年を抱きかかえて赤服の男は走り去る。
「あーあ、いじけちゃった。マナじゃ脳波形の解析なんてできないのは、ちょっと考えれば団長にも分かるだろうに」
 その様子を見送りながら、リブレは苦笑を浮かべた。

「そーれであたしンとこ流れてきたってワーケー?」
 だるそうな声を上げて藍色の髪の少女は唸る。今度こそはと言わんばかりにブラッドは嬉々とした表情を浮かべていた。近くにいた白髪の無言の男は相手にするつもりはない。
 というよりは、どう話し掛けて良いのか戸惑う、というのが本音だ。いまいち掴めない。
 唸っていた少女がぽんと手の平を叩く。
「ああーあるわあるわ、今欲しい物」
「なに!」
 肩に乗っていたヌクリアがバランスを崩してずり落ちる。
「んー、資本主義思想かな」
 期待していた物とはまた180度違う物だ。開いた口が閉まらない。
「それはお前さんが望むモンか」
「あたしじゃなくって国民に」
 ブラッドががっくりと肩を落とす。はっきりと見て取れる落胆振りだ。
「もういい、お前らなんてー」
 金髪の男が再び走り去っていく様を、藍羅はただ呆然と眺めていた。
 傍に控えていた蛮猫の少年ジャスカに視線を傾け、男の影を指差して尋ねる。
「何だったの、アレ」
「さあ、なんでしょうね……」
 少年もただ首を傾げながら答えるだけだった。

2005/12/26

2005年クリスマス合わせでネタ一本。