No. | キャラ | 台詞、状況 |
夜明けから暫く、寝付けずに浅い眠りを繰り返していたところ頭上を通過したのが微笑の絶えない優男だった。 牢の前にしゃがみ込み、いたって真面目に告げる。 |
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001 | リブレ |
「これから死刑を執行する。立て、クロガネレイジ」 |
002 | レイジ |
「……お前が執行人か」 |
003 | リブレ |
「まさか。執行人はハウンド中将が勤めるそうですよ。あ、っと目隠し」 |
004 | レイジ |
「分からん、誰だ」 |
聞いた事のない名前を出されても理解できない。レイジがうんざりしながら答えると、リブレは苦笑交じりに答えた。 |
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005 | リブレ |
「僕の前の上司です。引き金を引くのは、団長になりそうですけどね」 |
006 | レイジ |
「……そうか。あの男、いつの間に牢から出されてたが、あの目で距離感掴めるのか?」 |
007 | リブレ |
「そのために僕が補助につくんですよ」 |
008 | レイジ |
(タイトルコール) GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT10「 |
009 | ヴィヴィ |
「寝不足みたいだけど、大丈夫?」 |
010 | ジャスカ |
「なんのこれしきー……結局誰も探しに来てくれなかったよ」 |
011 | ヴィヴィ |
「行き倒れてるの見た時は吃驚したけどね」 |
012 | ジャスカ |
「ホント何度お礼言っても足りないくらい……はあ、これで僕も行き倒れの仲間入りか……」 |
しょんぼりした口調に合わせるように、耳と尻尾が垂れる。ジャスカは周囲を見回しながら中央広場を練り歩いていた。隣を歩く金髪の女性に助けられていなければ、今頃凍える羽目になっていただろう。 夜の慣れない場所で周囲を見ずにうろついた結果が、この有り様だ。 |
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013 | ヴィヴィ |
「まあ失敗なんて誰にでもあるものでしょう、気にする事はないもんだわ」 |
014 | ジャスカ |
「それと同じ事を姫様が言ってくれたら、どれだけ救われる事か……! ああー姫様どこにいるんだろ……」 |
015 | ヴィヴィ |
「護衛がついてるもんじゃないのかい?」 |
016 | ジャスカ |
「ついてそうだけど、うーん」 |
017 | ヌクリア |
「ジャスカー、こっちこっち」 |
018 | ジャスカ |
「あっ、チビ助! お前よくも勝手にスタスタ先に行ってくれたな、このやろっ」 |
ぶんぶんと手を振って居場所をアピールするヌクリアに向けて、ジャスカは悔しげに叫ぶ。自分の半分しかいかない子供に馬鹿にされている気がし、虚しくなって怒鳴るのをやめた。 |
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019 | ヌクリア |
「みんな、さがしたんだよー。どこいたの、ジャスカ」 |
020 | ジャスカ |
「探された実感がないわい、どこ探してたんだよお前ら!」 |
021 | ヌクリア |
「んとね、ひろばとか」 |
022 | ヴィヴィ |
「広場ねえ、惜しいなぁ。少し奥へ進んだ通りの酒場前にいたよ、この子は」 |
023 | ヌクリア |
「ふうん。ジャスカ、いつものばしょ、おぼえてないの? あっ。おせわに、なりました」 |
ぺこりと頭を下げてヌクリアは再び顔を上げる。ヴァージニアはあまりの温度差に噴出した。 |
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024 | ヴィヴィ |
「しっかりしてるよ、この子は。おや、あれはサージェじゃないかしら」 |
025 | ブラッド |
「胃が痛ェー、俺ヤダよこんな雰囲気。何だ野次馬ばっかりさあ、入場料まで取っちゃって」 |
026 | フローズ |
「何言ってるんですか、団長にはしっかりして貰わないと困ります。練習は命中するのに実践ではノーコンな銃は、大丈夫なんですか?」 |
027 | ブラッド |
「お前段々リブレに似てきたな。時々リブレが二人居るみたいな錯覚が……」 |
028 | フローズ |
「なっ……なんでですか、褒め言葉に聞こえませんが」 |
029 | ブラッド |
「照れるな、そこ照れるところじゃないから。頼むから緊張感持ってくれ」 |
030 | リブレ |
「不謹慎ですよ、団長。折角の制服が形無しじゃないですか、珍しくぴしっとした格好してるのに」 |
031 | ブラッド |
「ほらな、似てるだろ。こうなっちゃいけねェや、フローズ」 |
笑みながらどつくリブレに対して苦々しく呟く。気乗りするはずもない死刑執行に、人は集まる。ブラッドはうんざりしながら襟を正した。 |
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032 | リブレ |
「しかしまあ、抑圧で娯楽をなくした人がこれだけいる、ってことですかね。周囲見て下さいよ」 |
033 | ブラッド |
「軍法会議もろくに開けないのに軍法は重視するのな。保留食らってるとは言え、俺も銃殺刑もんだな、こりゃあ」 |
034 | 中将 |
「クロガネレイジ、国家叛逆を画策、及び国王閣下暗殺未遂。軍法会議の判決に基づいて、死刑の厳罰に処す」 |
035 | フローズ |
「始まった……理紀、首尾はどうだ」 |
無線越しに声をかける。モニターの文字と格闘しているのか、理紀は唸る。 |
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036 | 理紀 |
『順調ッスよー、検死に合わせれば良いんですよね』 |
037 | クイーヴ |
『こっちも今のところ暴動は起きてない。……でも、姫が見当たらないんだけど』 |
038 | フローズ |
「姫が? 何で目を離したんだお前」 |
039 | クイーヴ |
『僕に言うな、僕に』 |
040 | 中将 |
「これより摘発された犯罪者への公開処罰を始める」 |
041 | アイザック |
「ブレイズ少将、銃を」 |
言われてブラッドは前へ出る。手渡された銃は、回転式リボルバーだった。後ろ手に拘束されたまま、視界を奪われた状態で立ち尽くすレイジを確認し、何とも言えない気分になった。 足下を冷たい風が吹く。脇に控える中将の向こうに、暴君の姿が見えた。 |
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042 | レイジ |
「公開銃殺か」 |
043 | ブラッド |
「……運が良かったのかもな、お前」 |
044 | レイジ |
「外すな。多分俺は、平気だ」 |
045 | 中将 |
「被刑者、口を慎め」 |
銃口が向けられる。相手がいるであろう位置を一瞥し、レイジは前方へ向き直る。数発撃たれた程度で死ねるなら、地下研究棟を出てきた時にとうに駄目になっている。 確信を持って独白する。 |
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046 | レイジ |
「……俺が悩んできたのは、この程度で駄目になる |
047 | アイザック |
「射撃準備。――ブラッド、忘れるなよ。お前にはもう逃げ場所がない、最後のチャンスだ。よく考えて引き金を引け」 |
048 | ブラッド |
「分かってるって、しつけェな。悪ィな、ヤな思いさせて」 |
049 | アイザック |
「撃て」 |
050 | 藍羅 |
「やめて、ブラッド! 銃を降ろして!」 |
悲痛な叫びが割り込み、照準が揺らぐ。ブラッドは舌打ちして声の主を視線で追う。民衆の影に紛れて、藍羅の姿があった。 一度中将の表情を読もうと覗き見たが、彼も同様に驚いているようにしか見えなかった。 |
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051 | ブラッド |
「ッ……何でいンだよ、姫さん!」 |
052 | 藍羅 |
「駄目、撃っちゃ駄目! 処刑は取り止めよ! これは意味のない単なる虐殺だわ!」 |
053 | ジャスカ |
「姫様、なんでこんなところに!」 |
054 | ブラッド |
「馬鹿、出てくるな! 俺がお前を撃たないといけなくなるだろ! これは、俺がやらなきゃいけねェんだよ!」 |
055 | 藍羅 |
「大人の事情持ち出すなんて卑怯よ、臆病者! アイザック・レブナンス! 私は貴方に言いたい事がある!」 |
国王を指差し、名指しで呼ぶ。人だかりに混じって藍羅を追って出てきたジャスカが、必死に止めようとしたところで簡単に止まるはずもない。 |
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056 | フローズ |
「リブレ、どうする。姫はこちらの都合は知らないんじゃないか」 |
057 | リブレ |
「構いません、続けましょう。フローズ、姫を抑えて」 |
058 | ブラッド |
「くそ、照準が合わねえ」 |
微かに震える銃口が、ここに来て致命的なまでにブレる。両手で押さえ込み、必死で冷静を保とうとブラッドは頭を左右に振るう。 |
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059 | レイジ |
「俺を的だと思えば、撃てるはずだろう。いつもと同じだ」 |
060 | ブラッド |
「無茶苦茶言ってくれるぜ、全く」 |
061 | リブレ |
「団長、もう少し右。弾数が決まってるので外さないように――それじゃあレイジ君、殺されて下さい」 |
冷的で、淡々とした声が降る。藍羅の制止も虚しく、誰も気に留める様子もなく、ただ体力ばかりが消費されて行く。 歪む対象が少しずつ平常に戻り始め、ブラッドは引き金を絞る。頭に二発、残弾は全て手足、臓を狙い撃つ。 |
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062 | 藍羅 |
「レイジ! 駄目、死ぬなァアア!」 |
063 | フローズ |
「姫様、落ち着いて下さい。今騒ぎを起こされては……」 |
064 | 藍羅 |
「ブラッド、あたし許さないからね!」 |
ブラッドを睨みつけ、藍羅はそれでも前へ踏み込もうと膝に力を入れた。民衆を掻き分け、旅団の待機するブースまで近寄る。 話を聞こうとしないブラッドに対し、必死の形相で掴み掛かった。 |
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065 | ブラッド |
「聞き分けのない子供は嫌いだ」 |
066 | 藍羅 |
「アンタ、またあたしの事裏切った! アンタだけは何があってもそんな事しないって思ってたのに!」 |
067 | ブラッド |
「煩い、黙れ、俺は自分の身を守っただけだ、なんとでも言え。離れろ、血の臭いが移る。姐さん、15分後に検死だ」 |
068 | サージェ |
「分かった。断続的に細胞を殺し続ける毒が必要になるな……面倒だ」 |
069 | ブラッド |
「暫く、退がる……気分最悪だ……」 |
070 | 藍羅 |
「なんてこと……」 |
071 | フローズ |
「姫様、足下冷えますから、こちらに」 |
ずるずるとその場に崩れ落ち、地面に膝を付いた。腕を引くフローズの力が僅かに篭る。雪の残る足場は酷く冷たく、澱んだ気分にはもってこいの温度だった。 脇を通り抜けるブラッドを捕まえて、リブレは苦笑する。 |
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072 | リブレ |
「顔色悪いですよ、いやな役回りさせましたか」 |
073 | ブラッド |
「そりゃ俺の台詞だ。姫さんな……、レイジのあの淡白なとこ見習ってみたけど」 |
074 | リブレ |
「似てませんよ。検死結果は通信を介して皆に聞こえるようになってます。僕はちょっと中将と話があるので、席外しますね」 |
075 | サージェ |
「本当に殺したんだな、お前。お前の銃が人に当たったのは初めて見た。的が人になるといきなり外すからな、分かり易い奴だ」 |
076 | ブラッド |
「死んだフリ、じゃねェかンな。心臓と呼吸停止と瞳孔だっけか、判定方法」 |
077 | サージェ |
「お前がそんな心配しなくても、検死するのは私だぞ」 |
078 | アイザック |
「ブラッド」 |
声を掛けられ、視線だけを返す。とてもすぐに立ち上がれるような具合ではなかった。そんな不敬も気にせずアイザックは苦笑を浮かべる。 |
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079 | ブラッド |
「……なんですか、何か言いた気じゃないですか」 |
080 | アイザック |
「別に。妙に懐かしいものを、見た気がしてな」 |
081 | ジャスカ |
「頭撃たれてた様に見えたけど……ホントに死んじゃったの……?」 |
082 | ヌクリア |
「ダンチョ、げんきなさそうにみえるの」 |
083 | ヴィヴィ |
「処刑人も気の毒に……民衆も歓声一つ上がらないなんて、逆に驚きだわ」 |
084 | ヘイズ |
「そこの子連れ、騒ぎに巻き込まれないように少し下がった方がいいかもしれないぞ」 |
支給品のライフルを肩に、ヘイズは営業用の笑みを浮かべる。姿に気がついたヌクリアが顔を上げ、しがみ付いていたジャスカの頭から離れた。 |
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085 | ヌクリア |
「へいず、ダンチョへいき? ダンチョげんき?」 |
086 | ジャスカ |
「騒ぎ? って、何か起きるの?」 |
087 | ヘイズ |
「クイーヴ、理紀、こっちは問題ない。始めてくれ」 |
きょとんと頭二つは高さのあるヘイズを見上げて、ジャスカは首を傾げた。通信越しにキーを弾く音がノイズと一緒に届く。 |
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088 | 理紀 |
『はーい始めまーす、クイーヴさん万が一に備えて下さいッス』 |
089 | クイーヴ |
『了解、管制塔からは死刑場が見渡せる』 |
090 | ヘイズ |
「管制塔の連中、よくお前に場所開けてくれたな」 |
091 | クイーヴ |
『機械の調子がおかしいって様子に見に行ったのが一人、静観してるのが一人だよ』 |
092 | ヘイズ |
「何だ、理紀のおかげじゃねえか」 |
093 | 理紀 |
『始めます。リブレさん、スクリーンが変わったらすぐお願いしますね』 |
094 | ヴィヴィ |
「医官が検死を始めたよ……」 |
遠巻きに様子を見守りながら、ヴァージニアは見慣れた同居人の顔を伺った。医官として検死を始めるサージェの表情は曇ったまま晴れる事がない。 ジョルジュ・ハウンドは周囲の様子を確認し、サージェに指示を出す。周囲がぽつぽつと暗くなり始めているのを見、辺りを見回す。 |
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095 | 中将 |
「医官、検死を。……ん? 閣下、これは一体」 |
096 | アイザック |
「……なんだ? どうした」 |
097 | 中将 |
「電気系統がやられたようです、辺りが暗くなってませんか」 |
098 | アイザック |
「まさか……ブラッド、また貴様か!」 |
椅子から立ち上がり、アイザックは咆哮する。周囲のスクリーンが次々と起動し、音を立てる。 |
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099 | 中将 |
「スクリーンが勝手に……電波ジャックをするつもりか」 |
100 | リブレ |
「おっと、動かないで下さいねお二方。これ、誰の銃か分かります?」 |
国王と中将、双方に銃口を向けてリブレは笑う。二人の驚く様子など、なかなか見られない物を見たと内心思った。 周囲のスクリーンが一様に処刑場を映し出したのを確認し、無線の向こうの理紀は楽しそうに告げる。 |
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101 | 理紀 |
『はァい、リブレさんどうぞ! 存分に言っちゃって下さい』 |
102 | アイザック |
「大尉、お前の仕業か!」 |
103 | リブレ |
「静粛に。 |
104 | 藍羅 |
「これは……最初からこのつもりで? ちょっとブラッド、またアンタあたしを騙したわね!?」 |
105 | リブレ |
「ははは、公共の電波を私物化するのはあまり気が乗りませんねえ」 |
106 | 中将 |
「第5師団が勝手に動いている……? どういうことだ、これは。大尉か?」 |
周囲を取り囲む戦車の影に、目を丸くする。己の指示がなければ動かないはずの団が全て稼動している。ジョルジュはリブレを一瞥し、犯人と悟る。 |
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107 | リブレ |
「弾圧、粛清、虐殺。アイザック・レブナンスの恐怖統治による現政権は、国民に不満と不信をもたらした」 |
108 | ブラッド |
「オイオイ、師団がよく動いたな。けしかけたのか?」 |
苦笑しながらブラッドは立ち上がる。頭の硬い連中ばかりが揃う優秀部隊が、中将以外の命令に従うはずがない。どう動かしたのか気になるところだが。 視線を後方へ移して、未だ横たわるレイジを確認する。 |
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109 | リブレ |
「現政権の即時解散を要求する。僕の出番はこれまでです、主権は皇女にお返しします」 |
110 | 藍羅 |
「え、あたし?」 |
111 | レイジ |
「勝手に使うな。20分以上も放置されるとはな……死後硬直するかと思った」 |
肩を回し、レイジは溜め息混じりに呟いた。呆気に取られる藍羅の前を通過し、リブレから銃を受け取ろうと手を伸ばした。 薬莢が復元を始めた皮膚に押し出され、地面へ転がる。衣服はすっかり血で染まっていた。鈍痛の残る体を引き摺って、差し出された銃を手にする。 |
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112 | リブレ |
「お返しします、これは貴方の銃ですから」 |
113 | レイジ |
「さっさと片付けるぞ。不愉快だ、傷も塞がってない」 |
114 | ブラッド |
「悪かったって、隙が欲しかったンだよ。姫さん、ホレ銃を取れ」 |
115 | 藍羅 |
「あ、あたしが撃つの?」 |
116 | ブラッド |
「姫さんがやらないと意味がねェだろ。お前さんが後継するしかねンだからさ」 |
117 | 藍羅 |
「あたしが、父様を……」 |
118 | アイザック |
「フン、良からぬ事を企んでいそうだとは思っていたが……こう来るとはな。サンプルの特性を理解していたか」 |
119 | ブラッド |
「俺と同じだからな。皮肉な結果だろ? ああ駄目だ姫さん。そんな震えてたら撃てねェだろ、やっぱ寄越せ」 |
苦笑し、藍羅の手から銃を奪う。即座に銃口を国王へ移し、構える。 |
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120 | レイジ |
「お前が引くのか」 |
121 | ブラッド |
「やっぱ任せらんねェわ、親殺しだぞ? 俺なら迷わず引けるからな」 |
122 | フローズ |
「中将はどうしますか」 |
123 | 藍羅 |
「立て直すにしても人手が足りないわ……、解答次第と言う事にしてくれないかしら」 |
124 | アイザック |
「……私は先に地獄で待ってよう、そこで様子を見ていてやる」 |
地面に膝を付き、国王は嘆息する。 |
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125 | 中将 |
「後に私もそちらに向かうでしょう。極上のワインでも持って行きますよ、閣下。――暫くの別れを」 |
126 | アイザック |
「そうだな、それもいい。ご武運を。さらばだ、藍羅・レブナンス」 |
引き金が絞られた。数発の乾燥した発砲音に続き、国王の体が地面へ雪崩れる。銃口からは硝煙が上り、辺りは静まった。 |
||
127 | リブレ |
「……終わりましたね」 |
128 | レイジ |
「終わったな。問題はこれからだが」 |
129 | フローズ |
「肝心の問題はまだ解決してないしな」 |
130 | 藍羅 |
「皆御免、あと、有難う」 |
喉元に突っ掛かった単語を順番に吐き出し、藍羅は頭を垂れた。その様子を見て慌てたのは、ブラッドだけだった。 |
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131 | ブラッド |
「おっ、おいおいおい姫さん、泣くなよ」 |
132 | 藍羅 |
「そんなこと言ったって~」 |
133 | ブラッド |
「……まあいいや、今まで我慢してた分、泣きゃいいよ」 |
ぽんぽんと頭を叩く。苦笑するブラッドの軍服にしがみ付き、藍羅は嗚咽を漏らした。 |
||
134 | レイジ |
「依頼の分は、これで終わりだな」 |
135 | ブラッド |
「あれ、姐さんは? さっきまでそこにいたろ?」 |
136 | レイジ |
「俺が起きた時にはもういなかった」 |
137 | ブラッド |
「つれねえなァ、後で探し出して尋ねてやろっと」 |
安堵を浮かべる周囲の空気に馴染めず、レイジは一人独白した。 |
||
138 | レイジ |
「事実上、アイザック・レブナンスの恐怖政治はこれで終わった……か」 |
(ED) |
||
賑やかな会議室を駆け回る足音と、頭上を通過する影に眠りを妨げられ、レイジは酷く不機嫌だった。 |
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139 | 理紀 |
「こんなところで寝てたら、踏まれちゃいますよ」 |
140 | レイジ |
「……これは何の騒ぎだ」 |
141 | 理紀 |
「戴冠式があるから、準備みたいッス」 |
142 | ヌクリア |
「みんな、でるんだって。おいわいだって、いってたよ」 |
二人に覗き込まれ、嫌々身を起こす。 |
||
143 | ヘイズ |
「あの小僧を上手く処刑場から引き離せるとは、なかなかやるなお前」 |
144 | ヌクリア |
「だってジャスカ、"人質"にとられそうだったんだも」 |
145 | ヘイズ |
「言えてらァな。蛮猫差別も減ればいいが」 |
ヌクリアの頭をわしわしと撫で回し、ヘイズはどこか安堵した様子で呟いた。彼も同族であるのだから無理もない。レイジは左の方へ視線を移し、周囲を確認した。 |
||
146 | ブラッド |
「礼服なんて堅苦しくてヤなんだよなァ。こういう時ばっかりは、便利な階級も捨てたくなるな」 |
147 | リブレ |
「神聖な儀式ですよ、我慢して下さい。僕と団長はともかくとして、皆はどうします? 姫様は後方で護衛をと言ってましたよね」 |
148 | クイーヴ |
「僕に構うな、派手な表舞台は苦手なんだ。そこで転がってる奴もいることだし」 |
149 | フローズ |
「確かに表舞台でドジされたらたまらないからな、私も後方に回る事にする」 |
150 | ブラッド |
「姫さんもだけどよ、皆さあ、頑張りすぎじゃねェのー?」 |
151 | リブレ |
「団長は少しくらい頑張って下さいよ。レイジ君はどうします?」 |
不意に声を掛けられ、気がついていないようで見ているリブレに内心呆れた。理紀が興味深そうに視線を傾けていたが、それは一切無視する事にする。 硬直の所為なのか、精神的な疲労の所為か、体が思うように動かない。 |
||
152 | レイジ |
「断る、寝たい」 |
153 | ヌクリア |
「レイジ、たいへんだったもんね。ヌクはいっていい?」 |
154 | 理紀 |
「あ、じゃあ僕もいいですか?」 |
155 | ブラッド |
「うっ。勝手にしろよ、大人しくしてろよ」 |
156 | レイジ |
「ブラッド・バーン・ブレイズ……一ついいか」 |
思い立って声をかけた。怪訝そうな顔をしてブラッドが応じる。礼服仕様の軍服にまとめ上げられた髪は、普段のだらしなさを微塵も感じさせない。 |
||
157 | ブラッド |
「なんだ珍しい、何か言いたそうな顔してるな」 |
158 | レイジ |
「馬子にも衣装。まるきり別人だなその頭――黙っていればだが」 |
159 | ブラッド |
「うっせ、お前それちょっ、……ほっとけ! おい、行くぞリブレ。いつまでもここにいたら皆にいびられる」 |
160 | リブレ |
「ハイハイ、そうしますか。そうだ、レイジ君。旅団への嫁入り、考えておいて下さいね」 |
161 | レイジ |
「……なんで、俺が」 |
予想の斜め上から切りこんできた言葉に、驚いた。リブレの言葉を付け足すように、ブラッドは得意げに続く言葉を奪う。 |
||
162 | ブラッド |
「お前さんの腕を買って言ってンだ、行く宛てもないだろ?」 |
163 | レイジ |
「……考えておく」 |
164 | ブラッド |
「んじゃちょっと行ってくるか。逃げるなよ」 |
手をひらひらと振りながら、部下数名を伴って出て行く。その背を見送りながら、奇妙な違和感に襲われた。 残った面々と言えば、アルフィタの暴動で世話になったレジスタンスの連中ばかりだ。溜め息を真っ先に切り出したのはクイーヴだった。 |
||
165 | クイーヴ |
「あの人がいなくなると、途端に静かになるよな。残ったのがレジスタンス出身ばっかりで、何の嫌がらせかと思うけど」 |
166 | ヘイズ |
「そりゃお前だけだ」 |
167 | レイジ |
「……どうした、落ち着かない様子だな」 |
168 | フローズ |
「あ、いや、別になんでもないんですけど」 |
169 | クイーヴ |
「そう言えばフローズ、兄貴探してるんじゃなかったのか。軍内部にめぼしい人はいたのか?」 |
何気なくクイーヴが声をかける。レイジにはそれが不穏な言葉に思えてならなかった。様子がおかしいと気になったフローズも、それを感じ取っていたのかもしれない。 何かがおかしい。だが何がおかしいか分からない。 |
||
170 | フローズ |
「うん……いるにはいるんだけど」 |
171 | レイジ |
「アルフロスト、アルフロストな」 |
172 | ヘイズ |
「レイジ、お前もどうも軍絡みの人間ぽいよな。何か知ってるのか?」 |
173 | レイジ |
「心当たりはあっても確信がない」 |
174 | フローズ |
「色んなところに、奇妙な違和感があるような……気がして」 |
175 | クイーヴ |
「なんだよそれ、いつも通りだと思うんだけど」 |
奇遇だとは思わなかった。気がついている人間がどれだけいるのか、旅団内部の事情はレイジには分からない。本人が言わないのなら放っておくしかない。 フローズの視線に気がついて、肩を竦めて見せた。 |
||
176 | レイジ |
「旅団長の――アイツの目は、いつから緑になったんだ?」 |
フローズが微かに、反応した気がした。 |