GUNBURST

ACT09 BreakDown [ burst_09 ]
No. キャラ 台詞、状況
001 ヴィヴィ

「サージェ・クライナ、ですか。ええ、いるにはいますけれど。ちょっと待ってて下さい」

002 サージェ

「どうしたヴァージニア、こんな時間に客か?」

 店の奥から顔を覗かせ、サージェは怪訝そうな表情を浮かべた。昼間の酒場に酔客はなく、喫茶店代わりに寄る客がいるだけだ。それでもこの不況では、日に日に減って行く一方だ。

 丁度奥へ戻ってきた同居人、ヴァージニア・オルディスが困り果てた顔をして外を指差し、肩を竦めて見せる。

003 ヴィヴィ

「外に客を待たせてるのだけれど、店の客ではなくて貴方の客だそうよ」

004 サージェ

「私の? 私を訪ねて来る人なんて……」

005 ヴィヴィ

「サージェ、貴方がここを医局代わりにしてからどれだけ経つと思ってるのかしら?」

006 サージェ

「いや、それはそうなんだが」

007 ヴィヴィ

「でも患者には見えないから、どうしたものかと思って」

008 サージェ

「はあ……急患じゃなければ、正直助かるが。なんてったって、薬が足りない」

 中央の人口が減り始めた時期もつい最近なんてものではない。物資の供給も追いつかない状態で、どうしろというのか。それでも患者は減らない。

 歩みを進めて疲労した様子を見せるサージェの隣に、ヴァージニアは立つ。

009 ヴィヴィ

「店の酒を勝手に消毒液代わりに使ってる人が、よく言うわ」

010 サージェ

「言わないでくれ、仕方がないだろう。――待たせたな、客とは……」

011 ヴィヴィ

「あら、何故奥に戻るのサージェ。待ちなさいって、『貴方のお客さん』でしょう?」

 外に待つ客を見るなりサージェは踵を返す。すかさず襟首掴んでヴァージニアは笑んだ。

 あまりに含みのありすぎる笑みに、サージェは弱気になって、悲鳴じみた叫びを上げる。

012 サージェ

「冗談じゃない、離してくれヴァージニア。そいつは私の客などでは」

013 ヌクリア

「あ、ジョイさんだ! ヌク、ジョイさんをおむかえにきたの」

 ぴこぴこ跳ねながら子供が手を振る。この時程その子供を嫌悪した事はない、とサージェは後に思う。何も知らないヴァージニアは微笑で促した。

014 ヴィヴィ

「ね。迷子には見えても、とても患者には見えないでしょう?」

015 サージェ

「……くそう、あの馬鹿男……」

 子供に弱い事を知っていてヌクリアを寄越したであろう男を、サージェは心底恨んだ。

016 サージェ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT9「BreakDownブレイクダウン

017 藍羅

「父様、藍羅です。お話があります」

 大きな扉の前に立ち、返答を待たずに藍羅は続ける。

018 藍羅

「付き添いもいます、通して貰えませんか」

019 理紀

「……返事、ないですね。閣下、第12旅団所属の理紀・グラヴィットです。姫様が……」

020 アイザック

「今更、無駄な足掻きだな。藍羅」

 硬質な足音と共に端的な言葉が降る。返答に安堵したのも束の間、予想を裏切る言葉に藍羅は溜め息をついた。

021 藍羅

「父様こそ、何故このような事をされたのですか」

022 理紀

「姫様……」

023 アイザック

「お前は、もう後戻りできないところまで来てるのが分からないのか」

024 藍羅

「今ならまだ軌道修正ができるじゃないですか」

025 アイザック

「簡単に言ってくれるな……些細な事で、信念を曲げるわけには行かないのだよ……」

026 藍羅

「これだけの犠牲の上に成り立つ信念なんて……民のいない王なんて、馬鹿げてるじゃないですか」

 扉に手をついて額をぶつける。冷えた温度が妙に冷めた頭には丁度良かった。理紀は何も言わずに黙って聞いている。心配していそうな顔でこそあれ、口を挟む事はない。

 扉の向こうで立ち尽くしているであろうアイザック・レブナンスは、いつになく覇気がなかった。

027 アイザック

「私はな、藍羅。正当化するしかなかったのだよ。好奇心には誰も勝てなんだ」

028 藍羅

「マナを作った事ですか」

029 アイザック

「全てだ。一回の研究員がのし上がりここに至るまで、どれだけの苦労があったと思うかね。ブライガを飲み込み、貧しい国はここまで大きくなったではないか」

030 藍羅

「それは否定できませんが」

031 アイザック

「どこで踏み間違えたのかな……後悔は許されないだろう」

032 藍羅

「卑怯だ。ここまできてそんな事言うなんて、父様は卑怯だ」

033 アイザック

「藍羅。ブラッドに伝えてくれ、悪い事をしたと。身内に向けられる牙が、あれ程肝の冷えるものだとはな……」

034 藍羅

「レイジは。レイジには悪いと思ってないんですか」

 挙がらなかった名前を告げ、藍羅は握った拳に力を入れる。

035 アイザック

「サンプルに意思があるものとは思っていなかった。意思はいらぬ、排除しろと命令していたはずだからな」

036 藍羅

「担当研究員の勝手だと?」

037 アイザック

「そういう事だ。自分が作った物に殺されるのか、皮肉だな――いや、それも良いかもしれぬ。今までしてきた事の報いだと思えばな」

038 藍羅

「……あたしは、そんな事のために」

039 アイザック

「兵長、聞いているな?」

040 理紀

「あ、は、はい! います、何でしょうか」

 予想していなかった呼びかけに、理紀は慌てて敬礼した。

 アイザックは相変わらず淡々と告げる。

041 アイザック

「藍羅を連れて戻れ、もう用はない。死刑執行に変更はない。私は私の筋を通させて貰う」

042 理紀

「了解しました」

043 藍羅

「どうするつもりですか」

044 アイザック

「いずれ分かるだろうよ。私が気付いていないとでも思ったのか」

045 藍羅

「……そう、ですか。理紀、帰るわよ」

 傍らで浮かない表情をしたまま様子を伺っている理紀に向けて苦笑する。喉元ま出かかった言葉が、結局最後まで出る事はなかった。

046 理紀

「良かったんですか? 姫様。結局喧嘩別れみたいになっちゃって」

047 藍羅

「いいの、理由なく狂った訳じゃないって事は分かったから。これ以上話してたら迷う事になりそうで」

048 理紀

「こういう時は、迷っていいと思いますけど」

049 藍羅

「これでも結構怖いのよ。もし迷って、旅団を裏切るような事はしたくないの。それだけよ」

 やつれた笑みを浮かべて藍羅は歩き出す。来た時と同じ暗い通路は、今度は外へ繋がっている。廊下との温度差を感じながらも、一度振り返る。

050 理紀

「外は冷えますよ、姫様」

051 藍羅

「有難う、理紀。……ジャスカより、気が利くかもしれないわね」

 最後はぽつりと呟いて、藍羅は笑った。

052 リブレ

「朝、舎房しゃぼうの前で看守が立ち止ったら覚悟しろ――なんて言うつもりはありませんけど」

053 フローズ

「経験者曰く?」

054 リブレ

「君の死刑がいくら見せしめとは言え、ある程度普段と同じ手法が取られるんじゃないかと、僕は思ってます」

055 レイジ

「ある、程度? これが特例になるとでも言うのか」

 上着を着込んで丸くなるリブレの言葉は、言葉の重みと比べて異様にあっさりしている。彼の言う普段というものが理解できずに、レイジは反芻する。

056 リブレ

「特例も特例ですよ、今まで公開なんてやった事ないんですから。死刑が決まってから、この国では大体五日以内。ある朝突然宣告されるんです」

057 ブラッド

「これから死刑を執行する、ってな」

058 フローズ

「二人ともやけに詳しいですね」

059 ブラッド

「うっ。探るな、傷が抉られる」

060 リブレ

刑場けいじょうに入ればもう、弁護人もいません。そこまでは同じじゃないかと思うんですけれど」

061 レイジ

「見せしめが目的なら、いつも通りの方法じゃ意味がない、か」

062 リブレ

「そうなりますね。手が足りなくなると、師団も引っ張り出されてましたよ。最近だと、東の大飢饉とかで」

063 フローズ

「……あのう。先程から、団長がやけに静かなのが気になります。煩いのが黙ってると、何か良くない事があるっていうか」

 威勢の良いブラッドが比較的静かになってから、どれくらいが経つのか。うずうずしながら時間を気にするフローズを黙視しながら、レイジは手元に丸められた毛布を頭から被った。

064 リブレ

「あ、鎮痛剤が切れましたか? そうでなければ寝不足じゃないですか?」

065 レイジ

「静かで良いじゃないか」

066 ブラッド

「お前ら、人を何かの予報システムみたいに言いやがって、失礼だな」

 ばきと一つ破壊する音が牢内に響き、続けて物が落ちる音が重なる。その身体を固定していた拘束衣を破壊し、ブラッドは満足げに起き上がった。そそくさとアイマスクを外して眩しそうに周囲を見回す。

067 ブラッド

「んー派手に壊れたな。おう、久々に見たな、辛気臭い顔」

068 リブレ

「あーあ……また物壊したよ、この人。怪力にも程があるんじゃないですか?」

069 フローズ

「拘束衣なのにな……全然拘束できなかったな、なんでだろう」

070 ブラッド

「何言ってんだ、鎮痛剤と一緒に、俺にセロを投与したのはどこの誰だよ」

071 フローズ

「……この人に、そんな栄養剤を与えた馬鹿は誰だ。大体セロなんて、麻薬もいいところじゃないですか。ヘイズが聞いたらうんざりしそうだ」

072 ブラッド

「あれ、お前知らなかったのか。本物は、純度が違うんだよ」

073 レイジ

「チ、ドーピングか。道理で歯が立たないわけだ……」

 聞き覚えのある薬品の名前に、嫌悪を露わにする。三年前と、ここに連行されてくる前に徹底的に叩きのめされた忌々しい記憶が甦る。

074 ブラッド

「セロって言えば姫さんなわけだけどよ。姫さんも、周りもさ。何で皆、辛い時に泣かないンだろうな……」

 いやにしんみりしているブラッドに、リブレはいつもの笑みで追い討ちをかける。

075 リブレ

「泣いてもきっと、どうにもならなかったからじゃないですか? それにしても冷えてきましたね、地下だと時間が分かり辛くていけない。もう夜ですよねえ」

076 ブラッド

「うわ出たよ、経験者の言葉は重過ぎる」

077 フローズ

「もう日が沈むと思うんだけど、団長の処罰に関して何も連絡が入ってないな」

078 ヘイズ

「リブレ、フローズ。いるか?」

 上の階から呼び声が聞こえ、反射的に二人とも顔を上げた。無機質な牢に足音が木霊し、やがて主の姿が視界に入る。

079 リブレ

「団長の処罰に関して、連絡の一つでもありましたか?」

080 ヘイズ

「なんだ井戸端会議中か。二人とも起きてたなら話は早い。薄ら馬鹿、お前は明日の死刑執行、引き金を引けとよ」

 素っ気無い物言いに開いた口が塞がらない。ブラッドは心底呆れて口端を歪めた。冗談も性質が悪いと笑いを禁じ得ない。

081 ブラッド

「なんだって? この期に及んで馬鹿げたショーでもやる気かよ」

082 ヘイズ

「俺に怒るな。ようは、同士討ちをさせるつもりなんだよ。お前を殺せる奴がいない、お前に勝る武器がない。ひとまず服従させて、肝心の問題は後回し」

083 フローズ

「勝る武器がない……」

084 リブレ

「なんでそこで僕を見るんですか、フローズ。不意打ちと真っ向からは違うでしょう?」

085 理紀

「理紀・グラヴィット、ただいま戻りました! 姫様は仮眠室でお休みに……ってああッ、団長!? かつて無い程ぐったりしてるし!」

 勢い欲階段を駆け下りてきた栗毛の少女が、慌てて背を向け、床に転がり直したブラッドを一瞥するなり声を上げる。

086 レイジ

「それは死んだ振りなのか」

087 リブレ

「さっきまでピンピンしてたんですけどねえ」

088 理紀

「あれ、クイーヴ先輩は? 上にもいなかったんですけど」

089 ヘイズ

「先輩なんて呼ばなくていいぞ、あんなのは。ブツクサ言いながら出てったから、待機でもしてんじゃないか。いつまで反抗期なんだ、あのガキは」

090 フローズ

「冗談なのにホントに行ったのか、馬鹿正直だな。凍死と餓死、どっちが早いか賭けてみるか?」

091 クイーヴ

「寒い、畜生、ヘイズの奴何かと馬鹿にしやがって。あのドジ猫もどこか消えたし、結局僕だけ留守番か」

 愚痴る。ライフルと防寒コートを手に外に出たものの、外は冷え切っていて居るに耐えない。その上こういう時に限って平和なのだから、手に負えない。

092 クイーヴ

「騒ぎがないのは良い事だけど、嫌がらせのように静かだな……巡回よりも射撃場の方が良かったか」

093 ヌクリア

「あ、そげきのひと」

094 クイーヴ

「……あ、猫又……じゃなかった、副団長。何やってるんだ、こんなところで。抜け出したら皆に怒られるだろ、僕が」

 背後から指を差され、振り返る。二本の尻尾を揺らしながら幼い子供が一人、こちらに向かって駆け寄ってくる。

095 ヌクリア

「だいじょうぶだよ、おうじょさまにもヌク、いったもん。そげきのひとも、いいの?」

096 クイーヴ

「クイーヴだ、いい加減覚えてくれ。なんだよその代名詞、あだ名にもなってないじゃないか」

097 ヌクリア

「くいーぶ、なにしてんの?」

098 クイーヴ

「暇だから巡回に……って、後ろの女は誰だ。保護者か?」

 日没時の子供に気を取られ、今更にして背後に立っていた赤髪の女に気がつく。視線を逸らされた所為で雰囲気は気不味くなったが、全く見覚えがない訳ではない。

099 ヌクリア

「ヌクのおかあさん」

100 クイーヴ

「ちょっと待て」

101 ヌクリア

「じゃないよ。ヌク、みんなのおてつだいしてるの」

102 クイーヴ

「変なところで区切るな、紛らわしい。赤い髪にオッドアイ……どこかで見たような……アンタどこかで会った事ないか?」

103 サージェ

「さあな。覚えがない」

104 クイーヴ

「こいつに何言われたか知らないけど、アンタわざわざ悪かったな。こいつうちで預かってる子供みたいなもんで」

105 ヌクリア

「くいーぶ! ヌクまいごじゃないもん!」

106 クイーヴ

「馬鹿、売り飛ばされなかっただけ良かったと思え。今時子供が一人でうろうろしてたら危ない事くらい、分かってるだろ」

 親切に迷子を連れて来た通りすがりの人間だと判断して、クイーヴは無理矢理ヌクリアの頭を下げさせる。しかしいっかな礼を言おうとしないヌクリアに腹を立て、溜め息をつく。

 赤髪の女は苦笑した。

107 サージェ

「いや、違うんだ。彼の言ってる事は本当だから」

108 ヌクリア

「ヌク、うそつかないよ!」

109 クイーヴ

「ええと、よく分からないんだけど」

110 サージェ

「私は彼に呼ばれて軍を尋ねようとしてる者だ。君、白い軍服を着ているけど、12旅団の人間かな」

111 クイーヴ

「そうだけど、副団長に呼ばれた……? あ、思い出した、アンタのそのオッドアイ」

112 サージェ

「……なんだ?」

113 クイーヴ

「アンタ、アルフィタで怪我人を治療して歩いてたろ。スヴェル……あ、いや、レジスタンスの人間でも捨て子でも構わずフラフラと」

 サージェは暫くぽかんと口を開いた後、思い当たった様子で人差し指を突き出した。

114 サージェ

「私を知ってるのか、お前アルフィタで治療を受けた子供か? レジスタンスに預けられてるとか何とか、子供が。そうかもうこんなに大きくなって」

115 クイーヴ

「……何か違ってるような気がするけど、でも場所は間違ってもないような……頭撫で回すな!」

116 ヌクリア

「くいーぶ、ジョイさんしってるの?」

117 クイーヴ

「流れの医者だよ、前仲間が世話になった」

118 サージェ

「ん? ちょっといいか、お前腕章見せてみろ」

119 クイーヴ

「アンタさっき12旅団って、何で知って……」

120 サージェ

「うん、間違いないな。君を第12旅団所属の人間だと見て尋ねたいんだが、ブラッド・バーン・ブレイズに会わせて貰えないか?」

121 クイーヴ

「え……」

 唐突な申し出に戸惑い、ヌクリアの表情を伺う。当のヌクリアは辺りをきょろきょろと見回しながら、呟いた。

122 ヌクリア

「あれ、ジャスカいないの?」

123 フローズ

「帰ってきた、ヘイズ」

124 ヘイズ

「帰ってきたな。凍死もしてない餓死もしてない、残念だ」

 隔離棟の扉を通過し、格納庫まで来たところでクイーヴは殺意を覚えた。今にも銃を構えて撃ってやりたくもなったが、敵いそうにもないので諦める。

125 クイーヴ

「聞き捨てならない言葉を聞いた気がする」

126 フローズ

「気の所為だろ、後ろの保護者っぽい人は誰だ?」

127 クイーヴ

「うう、デジャヴ……覚えてろよ、お前ら僕で賭けしてただろ。その様子じゃ、やってたよな絶対。趣味の悪さは相変わらずだよな」

128 ヘイズ

「誰って聞いてるんだが、役に立たないな。おい女、お前アルフィタにいたろ」

129 サージェ

「ふむ、そっちの娘とお前には見覚えがあるな。レジスタンスの連中だろ? ブラッドに保護されてたのか」

130 ヘイズ

「色々あってな。アンタ、前に軍を嫌ってたようだが、何故ここに?」

131 サージェ

「ブラッドと名乗る軍人に呼ばれてここに来た。会わせてくれ」

 怖気づく様子もなく、淡々と告げるサージェとヘイズを見比べフローズは肩を竦める。状況が把握できずに、近くにいたクイーヴに声を掛ける。

132 フローズ

「どう思う? 誰も思い当たらないんだろ? 悪戯じゃないみたいだし」

133 クイーヴ

「お前が僕の意見訊くなんて珍しいな。拘束されてるんだから団長なわけないし、リブレか理紀じゃないの?」

134 フローズ

「あ、そうか。ちょっと訊いてくる」

 言うなりフローズは奥へ引っ込む。様子を伺っていたサージェは、予想していただろう事態に苦笑しながら、ヘイズの方を仰ぎ見た。

135 サージェ

「あの馬鹿が、何かやらかしたらしいな。街の方は公開処刑があるのと落書きとで大騒ぎだ」

136 ヘイズ

「落書きか。なんて?」

137 サージェ

「蛮猫の少年がな、壁に落書きして歩いてたな。"救いを待つな、動け、明日あすの公開処刑にて"って。気になって見に行く奴はいるだろうな」

138 ヘイズ

「あの坊主、正体バレてちゃ意味ないじゃねーか……」

139 フローズ

「ヘイズ、犯人が分かった! 今、会議室空ける。そっちの……貴方もどうぞ、そこは寒いですから」

140 リブレ

「犯人って言わないで下さいよ、人聞きが悪いなあ。ヘイズ、何ですか。やっぱりな、みたいなその顔は」

141 ヘイズ

「事実だろ。よく周りが納得したな、お前の裏切り行為。どんな手使ったんだ?」

 にやと興味深そうに笑って、ヘイズは会議室を使える程度に片付けるフローズの後を追う。

142 リブレ

「皆して酷いなあ。なんだかんだ言って、本気で疑ってないだけじゃないですか? ねえ、団長。彼女は何者です?」

143 ブラッド

「あとで言う。確かに俺の名前使えって言ったけど、お前ホント凄いな。あんなフラフラしてる姐さん呼び戻すなんて、あの人どこにいたんだ?」

144 リブレ

「データバンクがどこにあると思ってるんですか。前に言ったじゃないですか、僕は優秀ですから」

 その返答は、ブラッドの曖昧な態度に掻き消された。

 必要最低限にしか片付けられていない会議室は、今だ書類が散乱したまま放置されている。ある程度除けて場所を確保すると、真っ先に口を開いたのはサージェ当人だった。

 表情はなく、嫌味を吐く。

145 サージェ

「最初に訊きたい。何故、復隊推薦なんてしたんです、ブレイズ団長。これでは貴方も私と同じ、愚か者じゃないですか」

146 ブラッド

「そらァどーも。けど、わざわざこのためだけに一時的にでも戻って来てくれた姐さんも素敵だ。恩に着る」

147 サージェ

「着るな気持ち悪い。茶化すな。普通ならこんな形での復隊、銃殺刑ものだ」

148 ヌクリア

「ダンチョ、みんなジョイさんのことしらないみたいだから、おしえてあげてー」

149 クイーヴ

「そうだ、聞かされてないぞ」

150 ブラッド

「元、うちの団員だ。明日医官を担当して貰いたい。姐さん以外にできる奴がいない」

151 サージェ

「研究チーム……は、私が最後の一員だったか……。医者じゃ駄目なのか?」

152 理紀

「研究……? 何がなんだか僕にはさっぱり」

153 ブラッド

「姐さんが辞めた後、どれだけ関係者が減ったと思う? 閣下の親友だったはずの宰相マクベスもやられちまったんだ、考えてくれ」

154 サージェ

「……分かった。やろう、気は進まないが。しかしお前が決めていいことなのか? いつもなら監察がやってるだろう?」

155 リブレ

「その監察が相手が相手だからと嫌がってるってんで、僕に回ってきたんですよ。過去の色々をネタに、ね」

156 フローズ

「色々ってお前……やっぱり腹真っ黒なんじゃないか」

 呆れ気味に呟く。周囲の空気にブラッドは笑いを堪えた。

157 ブラッド

「ま、残虐非道ならお手の物だわな。うちに隔離されるくらい」

158 サージェ

「なるほど、君がリブレ・アナレス大尉か。大尉も焼きが回ったな、こんな奴の部下になるなんて」

159 リブレ

「ご存知でしたか。あまり目立たないでいたつもりなんですけど」

160 サージェ

「優秀な大尉は有名だったよ、特にここは悪い噂が一番入るところだったから」

161 クイーヴ

「悪い噂……悪い、ねえ」

162 リブレ

「皆して僕の評価落として面白いですか」

 にっこりと笑んでブラッドの方へ向き直る。当時いた人間であれば知られていてもおかしくない情報だが、レジスタンスにいた三名と理紀は当然知る由もない。

 ブラッドは慌てて修正をかける。

163 ブラッド

「おおお怒るな、そういうつもりじゃない、怖いからマジで! その笑顔が怖い!」

164 サージェ

「時にブラッド、その目はなんだ。そう、その包帯」

165 ブラッド

「ああ、これ? ちょっとポカしてさ。大した事ねェから気にすンな」

166 リブレ

「団長……それは」

167 サージェ

「お前はまた……額の傷だっていつぞやの騒ぎが原因じゃないか。仕方ない奴だな」

 呆れた口調のサージェに構わず、ブラッドは苦笑する。構っていたら夜が明けてしまうと判断し、無理矢理話をまとめようと言葉を選んだ。

168 ブラッド

「……時機に夜が明ける。理紀とヌクは後方、ヘイズとクイーヴはジャス坊が絡まないように備えてくれ、フローズとリブレは俺と処刑場に来い。全員肝据えてけよ」

169 理紀

「ラジャりました!」

170 ヘイズ

「寝とけよクイーヴ、ミスされたら堪らない。そういや、蛮猫の小僧がいないんだが……」

171 クイーヴ

「探しに行くか? どうせどこかで迷子になってるんだろ、副団長にも探されてたし」

172 リブレ

「団長、姫君に何も言わなくていいんですか?」

 部屋を出て行く数人を見送って、何気なく装って問う。腕を組みながら窓の外を眺める様子は、まるで現実逃避のようにも思われた。

173 ブラッド

「騙すなら味方からってな。お前のアレと同じだろ」

174 リブレ

「……団長。変なところで庇わないで下さいよ。何で本当の事を言わせてくれないんですか、恨みますよ」

 半ば強めに言うと、一度だけ視線を戻し、ブラッドは自嘲気味に呟いた。

175 ブラッド

「恨めよ。俺は長い事、皆を騙してるんだから」