No. | キャラ | 台詞、状況 |
001 | ヴィヴィ |
「サージェ・クライナ、ですか。ええ、いるにはいますけれど。ちょっと待ってて下さい」 |
002 | サージェ |
「どうしたヴァージニア、こんな時間に客か?」 |
店の奥から顔を覗かせ、サージェは怪訝そうな表情を浮かべた。昼間の酒場に酔客はなく、喫茶店代わりに寄る客がいるだけだ。それでもこの不況では、日に日に減って行く一方だ。 丁度奥へ戻ってきた同居人、ヴァージニア・オルディスが困り果てた顔をして外を指差し、肩を竦めて見せる。 |
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003 | ヴィヴィ |
「外に客を待たせてるのだけれど、店の客ではなくて貴方の客だそうよ」 |
004 | サージェ |
「私の? 私を訪ねて来る人なんて……」 |
005 | ヴィヴィ |
「サージェ、貴方がここを医局代わりにしてからどれだけ経つと思ってるのかしら?」 |
006 | サージェ |
「いや、それはそうなんだが」 |
007 | ヴィヴィ |
「でも患者には見えないから、どうしたものかと思って」 |
008 | サージェ |
「はあ……急患じゃなければ、正直助かるが。なんてったって、薬が足りない」 |
中央の人口が減り始めた時期もつい最近なんてものではない。物資の供給も追いつかない状態で、どうしろというのか。それでも患者は減らない。 歩みを進めて疲労した様子を見せるサージェの隣に、ヴァージニアは立つ。 |
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009 | ヴィヴィ |
「店の酒を勝手に消毒液代わりに使ってる人が、よく言うわ」 |
010 | サージェ |
「言わないでくれ、仕方がないだろう。――待たせたな、客とは……」 |
011 | ヴィヴィ |
「あら、何故奥に戻るのサージェ。待ちなさいって、『貴方のお客さん』でしょう?」 |
外に待つ客を見るなりサージェは踵を返す。すかさず襟首掴んでヴァージニアは笑んだ。 あまりに含みのありすぎる笑みに、サージェは弱気になって、悲鳴じみた叫びを上げる。 |
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012 | サージェ |
「冗談じゃない、離してくれヴァージニア。そいつは私の客などでは」 |
013 | ヌクリア |
「あ、ジョイさんだ! ヌク、ジョイさんをおむかえにきたの」 |
ぴこぴこ跳ねながら子供が手を振る。この時程その子供を嫌悪した事はない、とサージェは後に思う。何も知らないヴァージニアは微笑で促した。 |
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014 | ヴィヴィ |
「ね。迷子には見えても、とても患者には見えないでしょう?」 |
015 | サージェ |
「……くそう、あの馬鹿男……」 |
子供に弱い事を知っていてヌクリアを寄越したであろう男を、サージェは心底恨んだ。 |
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016 | サージェ |
(タイトルコール) GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT9「 |
017 | 藍羅 |
「父様、藍羅です。お話があります」 |
大きな扉の前に立ち、返答を待たずに藍羅は続ける。 |
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018 | 藍羅 |
「付き添いもいます、通して貰えませんか」 |
019 | 理紀 |
「……返事、ないですね。閣下、第12旅団所属の理紀・グラヴィットです。姫様が……」 |
020 | アイザック |
「今更、無駄な足掻きだな。藍羅」 |
硬質な足音と共に端的な言葉が降る。返答に安堵したのも束の間、予想を裏切る言葉に藍羅は溜め息をついた。 |
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021 | 藍羅 |
「父様こそ、何故このような事をされたのですか」 |
022 | 理紀 |
「姫様……」 |
023 | アイザック |
「お前は、もう後戻りできないところまで来てるのが分からないのか」 |
024 | 藍羅 |
「今ならまだ軌道修正ができるじゃないですか」 |
025 | アイザック |
「簡単に言ってくれるな……些細な事で、信念を曲げるわけには行かないのだよ……」 |
026 | 藍羅 |
「これだけの犠牲の上に成り立つ信念なんて……民のいない王なんて、馬鹿げてるじゃないですか」 |
扉に手をついて額をぶつける。冷えた温度が妙に冷めた頭には丁度良かった。理紀は何も言わずに黙って聞いている。心配していそうな顔でこそあれ、口を挟む事はない。 扉の向こうで立ち尽くしているであろうアイザック・レブナンスは、いつになく覇気がなかった。 |
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027 | アイザック |
「私はな、藍羅。正当化するしかなかったのだよ。好奇心には誰も勝てなんだ」 |
028 | 藍羅 |
「マナを作った事ですか」 |
029 | アイザック |
「全てだ。一回の研究員がのし上がりここに至るまで、どれだけの苦労があったと思うかね。ブライガを飲み込み、貧しい国はここまで大きくなったではないか」 |
030 | 藍羅 |
「それは否定できませんが」 |
031 | アイザック |
「どこで踏み間違えたのかな……後悔は許されないだろう」 |
032 | 藍羅 |
「卑怯だ。ここまできてそんな事言うなんて、父様は卑怯だ」 |
033 | アイザック |
「藍羅。ブラッドに伝えてくれ、悪い事をしたと。身内に向けられる牙が、あれ程肝の冷えるものだとはな……」 |
034 | 藍羅 |
「レイジは。レイジには悪いと思ってないんですか」 |
挙がらなかった名前を告げ、藍羅は握った拳に力を入れる。 |
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035 | アイザック |
「サンプルに意思があるものとは思っていなかった。意思はいらぬ、排除しろと命令していたはずだからな」 |
036 | 藍羅 |
「担当研究員の勝手だと?」 |
037 | アイザック |
「そういう事だ。自分が作った物に殺されるのか、皮肉だな――いや、それも良いかもしれぬ。今までしてきた事の報いだと思えばな」 |
038 | 藍羅 |
「……あたしは、そんな事のために」 |
039 | アイザック |
「兵長、聞いているな?」 |
040 | 理紀 |
「あ、は、はい! います、何でしょうか」 |
予想していなかった呼びかけに、理紀は慌てて敬礼した。 アイザックは相変わらず淡々と告げる。 |
||
041 | アイザック |
「藍羅を連れて戻れ、もう用はない。死刑執行に変更はない。私は私の筋を通させて貰う」 |
042 | 理紀 |
「了解しました」 |
043 | 藍羅 |
「どうするつもりですか」 |
044 | アイザック |
「いずれ分かるだろうよ。私が気付いていないとでも思ったのか」 |
045 | 藍羅 |
「……そう、ですか。理紀、帰るわよ」 |
傍らで浮かない表情をしたまま様子を伺っている理紀に向けて苦笑する。喉元ま出かかった言葉が、結局最後まで出る事はなかった。 |
||
046 | 理紀 |
「良かったんですか? 姫様。結局喧嘩別れみたいになっちゃって」 |
047 | 藍羅 |
「いいの、理由なく狂った訳じゃないって事は分かったから。これ以上話してたら迷う事になりそうで」 |
048 | 理紀 |
「こういう時は、迷っていいと思いますけど」 |
049 | 藍羅 |
「これでも結構怖いのよ。もし迷って、旅団を裏切るような事はしたくないの。それだけよ」 |
やつれた笑みを浮かべて藍羅は歩き出す。来た時と同じ暗い通路は、今度は外へ繋がっている。廊下との温度差を感じながらも、一度振り返る。 |
||
050 | 理紀 |
「外は冷えますよ、姫様」 |
051 | 藍羅 |
「有難う、理紀。……ジャスカより、気が利くかもしれないわね」 |
最後はぽつりと呟いて、藍羅は笑った。 |
||
052 | リブレ |
「朝、 |
053 | フローズ |
「経験者曰く?」 |
054 | リブレ |
「君の死刑がいくら見せしめとは言え、ある程度普段と同じ手法が取られるんじゃないかと、僕は思ってます」 |
055 | レイジ |
「ある、程度? これが特例になるとでも言うのか」 |
上着を着込んで丸くなるリブレの言葉は、言葉の重みと比べて異様にあっさりしている。彼の言う普段というものが理解できずに、レイジは反芻する。 |
||
056 | リブレ |
「特例も特例ですよ、今まで公開なんてやった事ないんですから。死刑が決まってから、この国では大体五日以内。ある朝突然宣告されるんです」 |
057 | ブラッド |
「これから死刑を執行する、ってな」 |
058 | フローズ |
「二人ともやけに詳しいですね」 |
059 | ブラッド |
「うっ。探るな、傷が抉られる」 |
060 | リブレ |
「 |
061 | レイジ |
「見せしめが目的なら、いつも通りの方法じゃ意味がない、か」 |
062 | リブレ |
「そうなりますね。手が足りなくなると、師団も引っ張り出されてましたよ。最近だと、東の大飢饉とかで」 |
063 | フローズ |
「……あのう。先程から、団長がやけに静かなのが気になります。煩いのが黙ってると、何か良くない事があるっていうか」 |
威勢の良いブラッドが比較的静かになってから、どれくらいが経つのか。うずうずしながら時間を気にするフローズを黙視しながら、レイジは手元に丸められた毛布を頭から被った。 |
||
064 | リブレ |
「あ、鎮痛剤が切れましたか? そうでなければ寝不足じゃないですか?」 |
065 | レイジ |
「静かで良いじゃないか」 |
066 | ブラッド |
「お前ら、人を何かの予報システムみたいに言いやがって、失礼だな」 |
ばきと一つ破壊する音が牢内に響き、続けて物が落ちる音が重なる。その身体を固定していた拘束衣を破壊し、ブラッドは満足げに起き上がった。そそくさとアイマスクを外して眩しそうに周囲を見回す。 |
||
067 | ブラッド |
「んー派手に壊れたな。おう、久々に見たな、辛気臭い顔」 |
068 | リブレ |
「あーあ……また物壊したよ、この人。怪力にも程があるんじゃないですか?」 |
069 | フローズ |
「拘束衣なのにな……全然拘束できなかったな、なんでだろう」 |
070 | ブラッド |
「何言ってんだ、鎮痛剤と一緒に、俺にセロを投与したのはどこの誰だよ」 |
071 | フローズ |
「……この人に、そんな栄養剤を与えた馬鹿は誰だ。大体セロなんて、麻薬もいいところじゃないですか。ヘイズが聞いたらうんざりしそうだ」 |
072 | ブラッド |
「あれ、お前知らなかったのか。本物は、純度が違うんだよ」 |
073 | レイジ |
「チ、ドーピングか。道理で歯が立たないわけだ……」 |
聞き覚えのある薬品の名前に、嫌悪を露わにする。三年前と、ここに連行されてくる前に徹底的に叩きのめされた忌々しい記憶が甦る。 |
||
074 | ブラッド |
「セロって言えば姫さんなわけだけどよ。姫さんも、周りもさ。何で皆、辛い時に泣かないンだろうな……」 |
いやにしんみりしているブラッドに、リブレはいつもの笑みで追い討ちをかける。 |
||
075 | リブレ |
「泣いてもきっと、どうにもならなかったからじゃないですか? それにしても冷えてきましたね、地下だと時間が分かり辛くていけない。もう夜ですよねえ」 |
076 | ブラッド |
「うわ出たよ、経験者の言葉は重過ぎる」 |
077 | フローズ |
「もう日が沈むと思うんだけど、団長の処罰に関して何も連絡が入ってないな」 |
078 | ヘイズ |
「リブレ、フローズ。いるか?」 |
上の階から呼び声が聞こえ、反射的に二人とも顔を上げた。無機質な牢に足音が木霊し、やがて主の姿が視界に入る。 |
||
079 | リブレ |
「団長の処罰に関して、連絡の一つでもありましたか?」 |
080 | ヘイズ |
「なんだ井戸端会議中か。二人とも起きてたなら話は早い。薄ら馬鹿、お前は明日の死刑執行、引き金を引けとよ」 |
素っ気無い物言いに開いた口が塞がらない。ブラッドは心底呆れて口端を歪めた。冗談も性質が悪いと笑いを禁じ得ない。 |
||
081 | ブラッド |
「なんだって? この期に及んで馬鹿げたショーでもやる気かよ」 |
082 | ヘイズ |
「俺に怒るな。ようは、同士討ちをさせるつもりなんだよ。お前を殺せる奴がいない、お前に勝る武器がない。ひとまず服従させて、肝心の問題は後回し」 |
083 | フローズ |
「勝る武器がない……」 |
084 | リブレ |
「なんでそこで僕を見るんですか、フローズ。不意打ちと真っ向からは違うでしょう?」 |
085 | 理紀 |
「理紀・グラヴィット、ただいま戻りました! 姫様は仮眠室でお休みに……ってああッ、団長!? かつて無い程ぐったりしてるし!」 |
勢い欲階段を駆け下りてきた栗毛の少女が、慌てて背を向け、床に転がり直したブラッドを一瞥するなり声を上げる。 |
||
086 | レイジ |
「それは死んだ振りなのか」 |
087 | リブレ |
「さっきまでピンピンしてたんですけどねえ」 |
088 | 理紀 |
「あれ、クイーヴ先輩は? 上にもいなかったんですけど」 |
089 | ヘイズ |
「先輩なんて呼ばなくていいぞ、あんなのは。ブツクサ言いながら出てったから、待機でもしてんじゃないか。いつまで反抗期なんだ、あのガキは」 |
090 | フローズ |
「冗談なのにホントに行ったのか、馬鹿正直だな。凍死と餓死、どっちが早いか賭けてみるか?」 |
091 | クイーヴ |
「寒い、畜生、ヘイズの奴何かと馬鹿にしやがって。あのドジ猫もどこか消えたし、結局僕だけ留守番か」 |
愚痴る。ライフルと防寒コートを手に外に出たものの、外は冷え切っていて居るに耐えない。その上こういう時に限って平和なのだから、手に負えない。 |
||
092 | クイーヴ |
「騒ぎがないのは良い事だけど、嫌がらせのように静かだな……巡回よりも射撃場の方が良かったか」 |
093 | ヌクリア |
「あ、そげきのひと」 |
094 | クイーヴ |
「……あ、猫又……じゃなかった、副団長。何やってるんだ、こんなところで。抜け出したら皆に怒られるだろ、僕が」 |
背後から指を差され、振り返る。二本の尻尾を揺らしながら幼い子供が一人、こちらに向かって駆け寄ってくる。 |
||
095 | ヌクリア |
「だいじょうぶだよ、おうじょさまにもヌク、いったもん。そげきのひとも、いいの?」 |
096 | クイーヴ |
「クイーヴだ、いい加減覚えてくれ。なんだよその代名詞、あだ名にもなってないじゃないか」 |
097 | ヌクリア |
「くいーぶ、なにしてんの?」 |
098 | クイーヴ |
「暇だから巡回に……って、後ろの女は誰だ。保護者か?」 |
日没時の子供に気を取られ、今更にして背後に立っていた赤髪の女に気がつく。視線を逸らされた所為で雰囲気は気不味くなったが、全く見覚えがない訳ではない。 |
||
099 | ヌクリア |
「ヌクのおかあさん」 |
100 | クイーヴ |
「ちょっと待て」 |
101 | ヌクリア |
「じゃないよ。ヌク、みんなのおてつだいしてるの」 |
102 | クイーヴ |
「変なところで区切るな、紛らわしい。赤い髪にオッドアイ……どこかで見たような……アンタどこかで会った事ないか?」 |
103 | サージェ |
「さあな。覚えがない」 |
104 | クイーヴ |
「こいつに何言われたか知らないけど、アンタわざわざ悪かったな。こいつうちで預かってる子供みたいなもんで」 |
105 | ヌクリア |
「くいーぶ! ヌクまいごじゃないもん!」 |
106 | クイーヴ |
「馬鹿、売り飛ばされなかっただけ良かったと思え。今時子供が一人でうろうろしてたら危ない事くらい、分かってるだろ」 |
親切に迷子を連れて来た通りすがりの人間だと判断して、クイーヴは無理矢理ヌクリアの頭を下げさせる。しかしいっかな礼を言おうとしないヌクリアに腹を立て、溜め息をつく。 赤髪の女は苦笑した。 |
||
107 | サージェ |
「いや、違うんだ。彼の言ってる事は本当だから」 |
108 | ヌクリア |
「ヌク、うそつかないよ!」 |
109 | クイーヴ |
「ええと、よく分からないんだけど」 |
110 | サージェ |
「私は彼に呼ばれて軍を尋ねようとしてる者だ。君、白い軍服を着ているけど、12旅団の人間かな」 |
111 | クイーヴ |
「そうだけど、副団長に呼ばれた……? あ、思い出した、アンタのそのオッドアイ」 |
112 | サージェ |
「……なんだ?」 |
113 | クイーヴ |
「アンタ、アルフィタで怪我人を治療して歩いてたろ。スヴェル……あ、いや、レジスタンスの人間でも捨て子でも構わずフラフラと」 |
サージェは暫くぽかんと口を開いた後、思い当たった様子で人差し指を突き出した。 |
||
114 | サージェ |
「私を知ってるのか、お前アルフィタで治療を受けた子供か? レジスタンスに預けられてるとか何とか、子供が。そうかもうこんなに大きくなって」 |
115 | クイーヴ |
「……何か違ってるような気がするけど、でも場所は間違ってもないような……頭撫で回すな!」 |
116 | ヌクリア |
「くいーぶ、ジョイさんしってるの?」 |
117 | クイーヴ |
「流れの医者だよ、前仲間が世話になった」 |
118 | サージェ |
「ん? ちょっといいか、お前腕章見せてみろ」 |
119 | クイーヴ |
「アンタさっき12旅団って、何で知って……」 |
120 | サージェ |
「うん、間違いないな。君を第12旅団所属の人間だと見て尋ねたいんだが、ブラッド・バーン・ブレイズに会わせて貰えないか?」 |
121 | クイーヴ |
「え……」 |
唐突な申し出に戸惑い、ヌクリアの表情を伺う。当のヌクリアは辺りをきょろきょろと見回しながら、呟いた。 |
||
122 | ヌクリア |
「あれ、ジャスカいないの?」 |
123 | フローズ |
「帰ってきた、ヘイズ」 |
124 | ヘイズ |
「帰ってきたな。凍死もしてない餓死もしてない、残念だ」 |
隔離棟の扉を通過し、格納庫まで来たところでクイーヴは殺意を覚えた。今にも銃を構えて撃ってやりたくもなったが、敵いそうにもないので諦める。 |
||
125 | クイーヴ |
「聞き捨てならない言葉を聞いた気がする」 |
126 | フローズ |
「気の所為だろ、後ろの保護者っぽい人は誰だ?」 |
127 | クイーヴ |
「うう、デジャヴ……覚えてろよ、お前ら僕で賭けしてただろ。その様子じゃ、やってたよな絶対。趣味の悪さは相変わらずだよな」 |
128 | ヘイズ |
「誰って聞いてるんだが、役に立たないな。おい女、お前アルフィタにいたろ」 |
129 | サージェ |
「ふむ、そっちの娘とお前には見覚えがあるな。レジスタンスの連中だろ? ブラッドに保護されてたのか」 |
130 | ヘイズ |
「色々あってな。アンタ、前に軍を嫌ってたようだが、何故ここに?」 |
131 | サージェ |
「ブラッドと名乗る軍人に呼ばれてここに来た。会わせてくれ」 |
怖気づく様子もなく、淡々と告げるサージェとヘイズを見比べフローズは肩を竦める。状況が把握できずに、近くにいたクイーヴに声を掛ける。 |
||
132 | フローズ |
「どう思う? 誰も思い当たらないんだろ? 悪戯じゃないみたいだし」 |
133 | クイーヴ |
「お前が僕の意見訊くなんて珍しいな。拘束されてるんだから団長なわけないし、リブレか理紀じゃないの?」 |
134 | フローズ |
「あ、そうか。ちょっと訊いてくる」 |
言うなりフローズは奥へ引っ込む。様子を伺っていたサージェは、予想していただろう事態に苦笑しながら、ヘイズの方を仰ぎ見た。 |
||
135 | サージェ |
「あの馬鹿が、何かやらかしたらしいな。街の方は公開処刑があるのと落書きとで大騒ぎだ」 |
136 | ヘイズ |
「落書きか。なんて?」 |
137 | サージェ |
「蛮猫の少年がな、壁に落書きして歩いてたな。"救いを待つな、動け、 |
138 | ヘイズ |
「あの坊主、正体バレてちゃ意味ないじゃねーか……」 |
139 | フローズ |
「ヘイズ、犯人が分かった! 今、会議室空ける。そっちの……貴方もどうぞ、そこは寒いですから」 |
140 | リブレ |
「犯人って言わないで下さいよ、人聞きが悪いなあ。ヘイズ、何ですか。やっぱりな、みたいなその顔は」 |
141 | ヘイズ |
「事実だろ。よく周りが納得したな、お前の裏切り行為。どんな手使ったんだ?」 |
にやと興味深そうに笑って、ヘイズは会議室を使える程度に片付けるフローズの後を追う。 |
||
142 | リブレ |
「皆して酷いなあ。なんだかんだ言って、本気で疑ってないだけじゃないですか? ねえ、団長。彼女は何者です?」 |
143 | ブラッド |
「あとで言う。確かに俺の名前使えって言ったけど、お前ホント凄いな。あんなフラフラしてる姐さん呼び戻すなんて、あの人どこにいたんだ?」 |
144 | リブレ |
「データバンクがどこにあると思ってるんですか。前に言ったじゃないですか、僕は優秀ですから」 |
その返答は、ブラッドの曖昧な態度に掻き消された。 必要最低限にしか片付けられていない会議室は、今だ書類が散乱したまま放置されている。ある程度除けて場所を確保すると、真っ先に口を開いたのはサージェ当人だった。 表情はなく、嫌味を吐く。 |
||
145 | サージェ |
「最初に訊きたい。何故、復隊推薦なんてしたんです、ブレイズ団長。これでは貴方も私と同じ、愚か者じゃないですか」 |
146 | ブラッド |
「そらァどーも。けど、わざわざこのためだけに一時的にでも戻って来てくれた姐さんも素敵だ。恩に着る」 |
147 | サージェ |
「着るな気持ち悪い。茶化すな。普通ならこんな形での復隊、銃殺刑ものだ」 |
148 | ヌクリア |
「ダンチョ、みんなジョイさんのことしらないみたいだから、おしえてあげてー」 |
149 | クイーヴ |
「そうだ、聞かされてないぞ」 |
150 | ブラッド |
「元、うちの団員だ。明日医官を担当して貰いたい。姐さん以外にできる奴がいない」 |
151 | サージェ |
「研究チーム……は、私が最後の一員だったか……。医者じゃ駄目なのか?」 |
152 | 理紀 |
「研究……? 何がなんだか僕にはさっぱり」 |
153 | ブラッド |
「姐さんが辞めた後、どれだけ関係者が減ったと思う? 閣下の親友だったはずの宰相マクベスもやられちまったんだ、考えてくれ」 |
154 | サージェ |
「……分かった。やろう、気は進まないが。しかしお前が決めていいことなのか? いつもなら監察がやってるだろう?」 |
155 | リブレ |
「その監察が相手が相手だからと嫌がってるってんで、僕に回ってきたんですよ。過去の色々をネタに、ね」 |
156 | フローズ |
「色々ってお前……やっぱり腹真っ黒なんじゃないか」 |
呆れ気味に呟く。周囲の空気にブラッドは笑いを堪えた。 |
||
157 | ブラッド |
「ま、残虐非道ならお手の物だわな。うちに隔離されるくらい」 |
158 | サージェ |
「なるほど、君がリブレ・アナレス大尉か。大尉も焼きが回ったな、こんな奴の部下になるなんて」 |
159 | リブレ |
「ご存知でしたか。あまり目立たないでいたつもりなんですけど」 |
160 | サージェ |
「優秀な大尉は有名だったよ、特にここは悪い噂が一番入るところだったから」 |
161 | クイーヴ |
「悪い噂……悪い、ねえ」 |
162 | リブレ |
「皆して僕の評価落として面白いですか」 |
にっこりと笑んでブラッドの方へ向き直る。当時いた人間であれば知られていてもおかしくない情報だが、レジスタンスにいた三名と理紀は当然知る由もない。 ブラッドは慌てて修正をかける。 |
||
163 | ブラッド |
「おおお怒るな、そういうつもりじゃない、怖いからマジで! その笑顔が怖い!」 |
164 | サージェ |
「時にブラッド、その目はなんだ。そう、その包帯」 |
165 | ブラッド |
「ああ、これ? ちょっとポカしてさ。大した事ねェから気にすンな」 |
166 | リブレ |
「団長……それは」 |
167 | サージェ |
「お前はまた……額の傷だっていつぞやの騒ぎが原因じゃないか。仕方ない奴だな」 |
呆れた口調のサージェに構わず、ブラッドは苦笑する。構っていたら夜が明けてしまうと判断し、無理矢理話をまとめようと言葉を選んだ。 |
||
168 | ブラッド |
「……時機に夜が明ける。理紀とヌクは後方、ヘイズとクイーヴはジャス坊が絡まないように備えてくれ、フローズとリブレは俺と処刑場に来い。全員肝据えてけよ」 |
169 | 理紀 |
「ラジャりました!」 |
170 | ヘイズ |
「寝とけよクイーヴ、ミスされたら堪らない。そういや、蛮猫の小僧がいないんだが……」 |
171 | クイーヴ |
「探しに行くか? どうせどこかで迷子になってるんだろ、副団長にも探されてたし」 |
172 | リブレ |
「団長、姫君に何も言わなくていいんですか?」 |
部屋を出て行く数人を見送って、何気なく装って問う。腕を組みながら窓の外を眺める様子は、まるで現実逃避のようにも思われた。 |
||
173 | ブラッド |
「騙すなら味方からってな。お前のアレと同じだろ」 |
174 | リブレ |
「……団長。変なところで庇わないで下さいよ。何で本当の事を言わせてくれないんですか、恨みますよ」 |
半ば強めに言うと、一度だけ視線を戻し、ブラッドは自嘲気味に呟いた。 |
||
175 | ブラッド |
「恨めよ。俺は長い事、皆を騙してるんだから」 |