GUNBURST

ACT08 Dreadnought [ burst_08 ]
No. キャラ 台詞、状況

 ブラッドを真っ先に牢へ放り込み、レイジが捕縛されてからかなりの時間が経過した。心配なのは自分だけではないはずだと言い聞かせ、藍羅は拳を硬く握る。

001 ヌクリア

「おうじょさま、ダンチョだいじょうぶ? ダンチョだいじょうぶかなあ」

002 藍羅

「大丈夫大丈夫、アイツの事だからピンピンしてるわよ。きっと今頃眠いとか言って……本当に言ってそうよね」

003 ヌクリア

「ダンチョね、つらくてもなにもいわないんだよ」

004 藍羅

「そうね、アイツはそう言う奴だわ」

005 ヌクリア

「……ダンチョ、だいじょうぶかなあ」

 繰り返す。今度はやや淋しげに。

 誰も何も状況報告する事もなく、各々の作業に没頭しているのだから性質が悪い。事情を知ったジャスカが怒ってリブレに掴み掛かったが、それももう数時間前の事だ。

疲弊した体を壊れたソファに埋め、藍羅は溜め息をついた。

006 藍羅

「なんとかなるわよ、大丈夫。そういう人でしょう?」

007 ヌクリア

「そうだったら、いいのになあ」

008 藍羅

「貴方がそんなにしょんぼりしてたら、戻ってきた時団長ガッカリするわよ?」

009 ヌクリア

「うん……でも、リブレのこと、おこっちゃダメだよ?」

010 ジャスカ

「姫様、無事でしたか!」

011 藍羅

「アンタこそ大丈夫なの?」

 見慣れた間抜け面に遭遇してほっとする。普段へばりついているブラッドがいなくて心細いのか、ヌクリアは先程から自分の周りをうろついていたし、理紀もまだ戻って来ていない。

012 ジャスカ

「それより姫様、レイジの処刑が決まったって話……」

013 藍羅

「ちょ、馬鹿!」

014 ジャスカ

「いって! 尻尾思いっきり握ったこいつ!」

015 ヌクリア

「ジャスカ、ひどいこといった」

016 ジャスカ

「事実じゃん、仕方ないじゃん!? 大体、チビ助のくせに生意気だぞお前!」

017 ヌクリア

「でもヌク、ジャスカよりおてつだいしてるもん」

018 藍羅

「空気読みなさいよ、ホントにもう」

 呆れで語尾が濁る。ジャスカの尻尾を握ったまま、今だしょげているヌクリアは耳を垂らした。

019 ヌクリア

「ダンチョひとりぼっちなんだよ。おうじょさま、これがおわればみんな『幸せ』? もうこわいことなくなる?」

020 藍羅

「これで終わりにするわ、だからもうちょっと我慢できる?」

021 ヌクリア

「うん、ヌク、がんばる」

022 藍羅

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT8「Dreadnoughtドレッドノート

023 ジャスカ

「今回嫌って程分かった事があるんだけど、姫様に言うとまた怒られるから、お前が話聞いてくれないかな」

024 クイーヴ

「暇じゃないんだけど」

025 ジャスカ

「似た者同士って言うじゃん。失敗談とか失敗談とか失敗談とかあるだろ、いっぱい」

026 クイーヴ

「失礼な猫だな。ドライバー返してくれないか」

 銃の調整をしているクイーヴを捕まえて、ジャスカは遠慮なく愚痴る。

027 ジャスカ

「……役に立てる事があるっていいね」

028 クイーヴ

「皆に狙撃だけだって言われてるけど」

029 ジャスカ

「何もないよりいいじゃん、そりゃあ騒ぎから外れたら意味ない技能だけどさ」

030 クイーヴ

「僕がお前と同じ年の時は、あの白い奴に散々言われたよ」

031 ジャスカ

「レイジに? ああ、そっか。アルフィタの騒ぎの時、レジスタンスにいたんだっけ」

032 クイーヴ

「お前が姫に拾われた頃だろ。肝心の話ってなんだ」

033 ジャスカ

「僕じゃ力不足だ、姫の役になんか立てない、旅団の方が余程姫に近いとこにいるじゃないか、って思ってたんだ」

 悔しげに独白するジャスカに視線を傾ける訳でもなく、ただ作業を続ける。

 無反応に腹が立って、ジャスカは拗ねた。

034 ジャスカ

「慰めてもくれないのか、冷たい奴だなー」

035 クイーヴ

「なんで僕がそんな事しなきゃいけないんだ。役に立てることなんて自分で探せよ、副団長にだって出来てるじゃないか」

036 理紀

「只今ッスー、下準備できましたよ」

037 クイーヴ

「おかえり、お疲れ。ヘイズは?」

 いつも通りを装って明るく振舞った理紀を労い、灰色のツナギ姿に着目する。ところどころ油で黒く汚れていた。その背後からひょいと顔を覗かせ、大男はクリップボードを片手に溜め息をついた。

038 ヘイズ

「物資の確認をしてきたところだ、これで暫く立て篭もれる。呼んだか?」

039 クイーヴ

「リブレに、細かい指示は後で追って連絡するって言われたんだけど」

040 ヘイズ

「無線持ってけ、お前外で待機だろ?」

041 クイーヴ

「死刑執行からの待機でいいのに、まさか今から行けと?」

042 ヘイズ

「暇そうだから、ついでに巡回でもしてくればいいじゃねえか」

043 クイーヴ

「……いじめだ。最近、団長の扱い方と僕の扱い方が似てきた気がする」

044 ヘイズ

「安心しろ、アイツは別格だ。軍人のくせに頭おかしンだよ、アイツァ。とんだ天才かとんだ馬鹿のどっちかだろうな」

 吐き捨てる。真面目と不真面目が紙一重。悪く言えばいつでも本気だ。加熱するばかりのヘイズの一言を退け、クイーヴは肩を竦める。

045 クイーヴ

「あの姫、見張ってなくていいのか?」

046 理紀

「手が開いてるから僕がやりますよ」

047 ヘイズ

「任せる、何かあったら連絡入れてくれ」

048 理紀

「イエッサー、何もないように祈ってるッス」

049 クイーヴ

「……やるって言えば良かった……暇だ」

 ぽつりと呟いて、止めていた調整を再開した。

050 ジャスカ

「姫様、あまり落ち込んじゃ駄目ですよ。まだ何も終わってないじゃないですか」

 自らを奮い立たせるためにも、元気付ける一言を投げかける。ジャスカは先程から凹んでいる藍羅から距離を取って、立ち尽くした。

051 ヌクリア

「ジャスカ、むちゃばっかりいう」

052 ジャスカ

「酷い事言うって、お前もだろー!? 人が折角慰めようとしてるところに、どうしてこうきっぱり」

053 ヌクリア

「ヌク、かんがえた。ジャスカ、てつだうよね」

054 ジャスカ

「え、強制労働? なにさせる気?」

055 ヌクリア

「リキがね、まちでラクガキしてきたの」

056 ジャスカ

「落書き……なんて?」

057 ヌクリア

「ヒミツ。ジャスカにもできることだから、しんぱいしなくていいよ」

058 ジャスカ

「うわあ、なんて偉そうなんだ、このチビ助」

059 藍羅

「そりゃ、一応肩書きは副団長だからねえ。気になるなら外を見てみたら?」

 途中で噴出した藍羅が割り入る。窓の外を指差して、ジャスカに促した。

 窓に張り付いて必死で遠方を漁る。

060 ジャスカ

「電光掲示板? いつものサブリミナルじゃなくてですか? ……あ、そうか」

061 藍羅

「民間に呼びかけるつもりらしいわよ」

062 ジャスカ

「それで僕にもできるって」

063 ヌクリア

「ジャスカ、いかないの?」

 いつの間に側を離れて格納庫まで移動していたのか、ヌクリアの声は遠く響く。余った袖を振って呼ぶ声は、いつものように軽快なままだ。

 ジャスカは藍羅とヌクリアを交互に見、藍羅の意見を伺おうと視線を戻す。

064 藍羅

「何迷ってんのよ、行くんでしょ?」

065 ジャスカ

「……姫様が言うなら行きますけど、僕がいない間に無茶はしないで下さいよ?」

066 藍羅

「誰に言ってんのよ、10年は早いわよ」

067 ジャスカ

「じゃあ、また後で」

 出て行くジャスカの背を目で追い、誰も居なくなったのを確認して藍羅は立ち上がる。

068 藍羅

「よし、ジャスカもいなくなった事だし。覚悟はいいわね、藍羅」

 旅団員の注意をすり抜けて、藍羅は外へ出た。

 極寒の地下牢から解放されたフローズは、辺りを見回して理紀の姿を探す。同時に藍羅の姿がない事を認め、格納庫を捜し歩く。

069 フローズ

「交代だ理紀、今度は私が外へ……いないのか。姫君もいないよな、どうした?」

070 ヘイズ

「理紀も出てったぞ」

071 フローズ

「なんでまた」

072 クイーヴ

「姫が出てったから、それを追って」

073 フローズ

「黙って見送ったのか?」

074 ヘイズ

「追わなくてもそのうち戻って来んだろ、一応理紀もついてる」

075 フローズ

「……大丈夫なのか、理紀で」

076 ヘイズ

「心配するって事は、お前は理紀を知らないんだよ」

 当然のように淡々と答えるヘイズに、フローズは首を傾げた。

077 藍羅

「リブレのおかげで監視機能が死んでて助かったわー。さーて近道はどっちだったかしら」

 隔離棟を離れ、辺りを確認する。子供の頃によく遊んでいた抜け道がどこにあったのか、記憶を辿りながら前へ踏み出す。

078 藍羅

「見張りがいないなんて無用心よね……確かこの辺りに、直通の非常通路が……」

079 理紀

「何やってんですか、姫様」

080 藍羅

「ヒィ! り、理紀!?」

081 理紀

「あ、静かに。姫様が探してる通路はこっちです」

 背後から声をかけた理紀は屈託のない笑みを浮かべて、藍羅の手を引く。

 何もない壁の前まで来ると、宙に展開したコンソールを叩き始めた。

082 藍羅

「連れ戻しに来たんじゃないの……?」

083 理紀

「だって、閣下とお話するんじゃなかったんですか? おっけー、開きました。どうぞ」

084 藍羅

「ああ、うん。よく分かったわね」

085 理紀

「一応見張りですから、ついて行きますね」

 暗い通路に降り、寒さに身を震わせる。一人で行くには心細さもあったが、理紀には全てお見通しのようだった。正直心強い。

086 藍羅

「あたし、酷い事したのね。ブラッドにも、レイジにも」

087 理紀

「それは違いますよ、二人にも拒否権はありますから」

088 藍羅

「でもレイジは脅迫同然だったのよ。本当は逃がす事だってできた」

089 理紀

「姫様。西のアルフィタって街をご存知ですか? 三年前僕がいて、団長が制圧した街です」

090 藍羅

「知ってるわ」

091 理紀

「今では制圧した団長が英雄で、原因になったレジスタンスが悪者っていう扱いされてるんですけど。悔しい事に、多数決が全部決めちゃうんですよね、この世界」

 淡々と告げるがそこは彼女の故郷だ。それくらいは藍羅も知っている。

 人一人が通るのが精一杯の狭い通路に足音が響く。理紀は藍羅の返答を待たずに続けた。

092 理紀

「僕はアルフィタの暴動でシエル……幼馴染をなくしました。でも彼が嫌いだった軍にいる。僕一人じゃどうにも出来ないと思って、入ったんですけど」

093 藍羅

「そう……でも、思うように行かないでしょう?」

094 理紀

「本当に悪い人が、周りの意見だけで無実になっちゃう事だって珍しくないんです。民間人にとっては、選択が許されない世界なんです」

095 藍羅

「そうね、それはあたしにも同じ事だったわ」

096 理紀

「姫様。姫様が作ろうとしてるのは、どんな世界ですか?」

 言葉が途切れる。返答できない。藍羅には持ち合わせの言葉がなかった。責める言葉ではないと分かってはいたが、実際に言われてみると辛いものがある。

097 理紀

「こう言ったら何ですけど、今の閣下みたいに目的を失っただけの王ならいらないな、なんて」

098 藍羅

「貴重な意見だわ、気にしないで」

099 理紀

「僕はちゃんと少数派の意見も聞き入れてくれる王が良い。ちゃんと振り返って確認してくれる王が良い。姫様は……団長達みたいな頑張ってる人達を、無下に否定しないであげて下さいね」

100 藍羅

「そう、そうね。あたしが間違えたら、叱ってくれる?」

101 理紀

「僕で良ければ。――良かった。こんな事言ったら、なんて怒られるかなと思ってたんですけど。ちゃんと聞いてくれる姫様なら、きっと良い王になれますよ」

 理紀は笑んだ。そこで初めて、彼女が怒っていた事を知る。

102 藍羅

「皆にも謝らなくちゃね、利用するような事になっちゃって。あたしにできる事、言って貰えればやるから。皆に、協力して貰えるかしら」

 軽く頭を下げると、理紀は目を丸くして半端に口を開いていた。呆気に取られたままの理紀の顔を覗き込み、尋ねる。

103 藍羅

「理紀? ごめん、あたし変な事言った?」

104 理紀

「なんでもないです。凄いなァ、姫様は……。結構きつい事言ってみちゃったけど、怒らなかったし。僕には団長とか姫様みたいに、そこまで割り切れないや」

105 藍羅

「褒めてるの? 誰かの馬鹿がうつっただけよ、多分」

 苦笑した。自分でも気がつかない内に、ブラッドの影響が出ていたらしい。

 突き当たりの壁に手を置いて、理紀は笑う。

106 理紀

「さーて、皆が気にしてた本音もちゃんと聞いたし。姫様、覚悟は良いですか?」

107 藍羅

「ええ。父上の真意を確かめるだけだもの、大丈夫よ」

108 理紀

「それにしても団長もよくこんな通路見つけましたよねえ。『俺狭いトコ苦手』とか言いながら、道順教えてくれましたけど。団長でも充分通れる道なハズッスよねェ、非常用だし」

109 藍羅

「アイツの入れ知恵だったのね。こんなところに出るなんて」

110 理紀

「上層部御用達の通路ッスからねえ、やっぱり中央に近くないとってことじゃないですか?」

111 藍羅

「なるほどね」

人通りのない通路に出る。非常階段が隣に見え、先には見慣れた通路が映る。

112 理紀

「無理はしちゃ駄目ですよ。危なくなりそうだったら引き上げるって約束して下さい」

113 藍羅

「じゃあ、理紀の判断で止めて頂戴」

114 理紀

「分かりました。何もないと良いですけど」

115 藍羅

「あたしもそう思うわ」

116 理紀

「姫様」

117 藍羅

「え、あ、なに?」

 敬礼し、理紀はいつもの笑みを浮かべた。

118 理紀

「ご武運を」