GUNBURST

ACT07 Stuhl des Schweins [ burst_07 ]
No. キャラ 台詞、状況
001 アルフロスト

「左目は止血したのか」

002 ブラッド

「起きたらやけに思考がクリアになってたよ、馬鹿みてえ」

003 アルフロスト

「寒い、何て寒いとこだここは」

004 ブラッド

「文句言うな、煩い」

005 アルフロスト

「なんで俺を呼ばなかった?」

 ブラッドは答えない。青年というにはまだ幼く、少年と言うには少し年を越している冷たい声が、冷たい牢に木霊する。

 拘束具のお陰で身じろぎすらできない、拘束椅子に縛り付けられている所為で眠る事すらできない、アイマスクの妨害の所為で視界は奪われたまま。しかし鎮痛剤のおかげで全身の痛みは和らいだ。

 小馬鹿にした様子で面白がって彼は続ける。

006 アルフロスト

「俺なら殺せた。何で躊躇った?」

007 ブラッド

「知るかよ。フローズだって居ただろ、お前。妹の前で殺しをする気か」

008 アルフロスト

「臆病者。躊躇わなければ、そんな怪我しなくて済んだのに」

 今度は蔑んで。

 どこまでも馬鹿にした男だ。自分に出来ない事を他人に任せて、自分なら出来たと口にする。それは簡単な事だ。だが己も同じ種類の人間である事をよく理解っている。

 苛つきを隠せぬまま、ブラッドは吐き捨てる。

009 ブラッド

「もう次はねえよ」

010 アルフロスト

「ふうん……『もう次はない』か。そうだな、そうかもしれないな。でもそれも良いだろ、逃げられるじゃないか、全部から」

011 ブラッド

「……馬鹿だな、アルフロスト」

012 レイジ

「誰かいるのか」

013 アルフロスト

「ああほら、騒がしくしてるからレイジが起きた。俺は死んだって事にしておかなくちゃあな。そろそろ退散するよ。良い夢を」

 後を引く嘲笑の言葉に、ブラッドはどん底の機嫌を更に深淵へ突き落とし、うんざりした声で独白した。

014 ブラッド

「ふざけんな馬鹿」

015 レイジ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT7「Stuhl des Schweinsスタル・デス・シュヴァイン

 自分とブラッドが牢に放り込まれている以外他に誰もいない。相手は視界を奪われ聴覚に頼るしかないが、自分はほとんど妨げとなる物は持たない。

 レイジは訝って、尋ねる。

016 レイジ

「寝てなかったのか」

017 ブラッド

「座らされてる気がすんだけど、見えないから分かんねェけど。お前、これ見て寝れると思ったらスゲェよ、俺何者?」

018 レイジ

「馬鹿者。どう見ても座らされているな」

019 ブラッド

「だろ? 幻聴が聞こえても軽々返事しそうなんだけど、今の俺」

020 レイジ

「俺は拘束すらされていないんだが」

021 ブラッド

「……ヒデェ差別。周りに何があるんだ」

022 レイジ

「毛布、檻、簡易ベッド……他はないな。さっきまで、誰かいた気がした」

023 ブラッド

「何それ、ホラー? ただでさえここ寒いんだから、寒気のするような事言うなよ。大体お前、毛布でも貰ってそうな喋り方してるし。誰かってなんだよ」

 少し間を置いて、端的に告げる。一番分かり易いであろう言葉を選んで、レイジは口を開いた。

024 レイジ

「アルフロスト・メルティ」

025 ブラッド

「知らん、足音はしなかっただろ」

026 レイジ

「……気の所為か」

027 ブラッド

「お前さん、身動き取れない俺を疑うのか。泣くぞ、目に染みるけど泣くぞ」

028 レイジ

「正直、色んな面で色んな事を疑っている」

029 ブラッド

「……悪かったよ、ヒデェ目に合わせた」

030 レイジ

「気持ち悪い」

031 ブラッド

「ああそうかよ。ちくしょー、人が正直になってみればどこまでも可愛くねー。俺の叛逆に驚かなかった辺り見るとお前さん、アルフィタで確信してやがったな」

 よく喋ると思った。言葉を発すれば何かが足りなくなってしまうのではないかと考えてでもいるような、単語を知らない青年だ。ここに来て会話が成立するとは、ブラッド自身思っていなかった。

 よく喋るといえば。一つ嫌な事を思い出し、いい加減疲れて久しい首を擡げた。

032 ブラッド

「なあ、レイジ。お前さんはどっちだと思う」

033 レイジ

「極刑だろう、生きて帰ろうなんて図々しい。しかし簡単には死ねない、苦しむな……」

034 ブラッド

「悪い、悪いが全然話が噛み合わなかった。何がって言ってなかった。俺が言いたいのはリブレの裏切りだ」

 行動を止めるにしても、思い切りが良過ぎる行動はレイジも認める。リブレのそれは冗談を知らない、本気でやっている者の目だ。返答に当惑して、レイジは頭を左右に振った。

 どちらであるか自分が答える事に意味はない。

035 レイジ

「俺に訊いてどうする。本気であって欲しいのか」

036 ブラッド

「馬鹿言うな。これでも俺は信頼してたんだぞ、その分ダメージでけェよホント。アイツはいつだって遠慮しねェ、ああいうのは怖いな」

037 レイジ

「……そうかもしれないな。俺も似たようなものだ、多分。得体が知れないものを見ている、気がする」

038 フローズ

「団長、寒くないですか」

 凛とした声が割って入り、階段を下りる硬質な音が響く。見てみれば毛布を抱えた蒼髪の少女が階段下に立ち尽くしていた。

039 ブラッド

「寒い、死ぬ程寒い。暖房入れてねェだろ、凍死する」

040 フローズ

「だろうと思って毛布持ってきたんですけど、なんだか平気そうですね。じゃあいいや」

041 ブラッド

「待て寄越せ、御免なさいすみません、下さい、毛布下さい!」

042 レイジ

「そこの男に猿轡さるぐつわもしてやったらどうだ。煩くて敵わん」

043 フローズ

「考えておきます、それよりも……本当に下らない裏切りをしましたね。クロガネレイジは明朝、公開処刑が決定しました。一般公開の理由は、見せしめらしいです」

 再び沈黙が訪れる。

 口数が増えていた理由を悟り、ブラッドは嘆息する。喋ってでもいなければ、ここはあまりに寒すぎる。喋る気力を無くしたら、いつか凍死してしまいそうな気がした。

044 レイジ

「そうか、分かった」

045 フローズ

「それだけですか? 他にもっとこう、未練とか」

046 レイジ

「死に場所探して生きてるようなものじゃないか、死ねるならそれも良いだろう」

 素っ気無い返事にフローズは肩を落とした。

 地下牢は原始的な造りだった。使い古しの倉庫に鉄パイプを立てて無理矢理牢屋に仕立て上げただけと言ってもいい。この檻を破壊できる人間がいるのだとしたら、向かいの牢で拘束されているブラッド・バーン・ブレイズだけだろう。

047 フローズ

「空っぽですね。復讐でしか存在意義を見出せない。私も同じような気がします」

048 レイジ

「……アルフロスト・メルティ、生きているのか、死んでいるのか」

049 ブラッド

「フローズ、ヌクリアはどうした」

050 フローズ

「理紀と一緒にいますよ。貴方を心配してますが、何せその有り様ですからね。見せる訳にはいかないでしょう、余計に心配します」

051 ブラッド

「まあそうだな、一人にさせないでやってくれ。あれはあれで寂しがり屋だから」

052 フローズ

「分かってますよ。大体子供です、放っておく訳にはいきません」

053 ブラッド

「そりゃそうなんだけどさあ」

054 フローズ

「言いたい事があるなら、はっきりお願いします。黙って聞いてますので、どうぞ気の済むまで」

 檻の前にしゃがみ込んだフローズに促され、ブラッドは苦々しく吐き出す。

055 ブラッド

「飴と鞭ってあるだろ。何もかも、今は鞭でもその内飴に変わるんだ」

056 レイジ

「まだ足りないと言う事か」

057 ブラッド

「苦しいならな」

058 レイジ

「成る程、負け犬根性丸出しの飼い殺された犬だな。まんまと食わされた」

059 フローズ

「さっぱり見えません」

060 ブラッド

「リブレに騙されてる気がする――って、そんだけだ。疑いたくないだけ、つったらそれまでだが」

 苦笑交じりに、フローズは立ち上がった。檻に手をついて一人闇の中にいる男に問い掛ける。

061 フローズ

「あの日、私が刺した傷はまだ残ってますか」

062 レイジ

「アルフィタの、不意打ちか」

063 フローズ

「そうやって期待を裏切った分だけ身に刻むんですか。額の傷も、腹の傷も、失明した左目も」

064 ブラッド

「……それいいな、恨みを忘れなくていいかもしれない」

065 フローズ

「馬鹿な人」

 自嘲気味に笑うブラッドに毛布だけ放って、フローズは出て行った。決して罵倒しているわけではなく、それが彼女にとっては慰めの言葉なのかもしれない。

066 ブラッド

「毛布くれるのは有り難いけどよ、折角だから掛けてくれたっていいだろ……頭引っかかったら取れねえっつうの」

067 リブレ

「気分はどうですか」

 入れ違いに響いた声のトーンにどこか安堵しながら、しかし嫌悪を抱きながら見返した。白い軍服の裾には紫のライン、物腰柔らかい雰囲気はブラッドを刺した時とはまるで違う、極めで穏やかなものだった。

 声を聞いただけで嫌そうに、ブラッドは肩を竦めた。

068 ブラッド

「最悪だ。来たついでに毛布何とかしてくんねえかな、寒くて」

069 リブレ

「いやですよ団長、だって貴方は裏切ったじゃないですか、僕を。……っていうのは性質タチの悪い冗談として」

070 ブラッド

「お前の性格が既に性質タチ悪いから、冗談の質も何もないだろオイ」

071 リブレ

「ああー……そうでしたね、うん。じゃあこれで誠意ばかりは」

072 レイジ

「土下座……」

073 ブラッド

「あァ!? なんだって、おいアイマスク取れ! 拝ませろ、あの天よりプライドの高いリブレの土下座!」

074 リブレ

「もう一回刺しますよ?」

 にっこり笑んで、リブレは腹の底の冷える言葉を発した。ブラッドは野次馬根性を捨てて黙った。薬が効いているとは言え、今だ傷は疼く。

 呆れながらも聞かざるを得ない空気に、レイジは溜め息をついた。

075 レイジ

「それで、妨害の真意は?」

076 リブレ

「僕ですか、うーん。参ったなあ、団内での信用なくしちゃいましたよ」

077 レイジ

「自業自得だろう、何を今更」

078 リブレ

「今じゃないって思っただけですよ。でも本気で止めないと、失敗したら団長だけでなく皆殺されそうな気がして」

079 レイジ

「始末を自ら買って出た理由はそれか」

080 リブレ

「ええまあ、そんなところです。実は僕、こう見えても酷い生まれでして」

081 ブラッド

「ほう、坊ちゃん育ちかと思ったぞ」

082 リブレ

「まだ右も左も分からないような頃、実の親に口減らしのため売られました。僕の記憶はそこから始まってます」

 言葉とは裏腹に、声音は落ち着いている。どう見ても優等生でしかないリブレの、以前を知る人間は皆無に等しい。彼が今まで始末してきてしまったのと、余程でない限り喋らない所為もある。

083 ブラッド

「あれ、お前アルフィタの出身だったっけ」

084 リブレ

「覚えてる限りではね。まあ買われた先も、僕に家名を継がせたいだけのどうしようもないところでしたけど。だからこそ失敗は怖いし、捨てられるのも死ぬのも怖い。僕のエゴです」

085 ブラッド

「……まあ、分からなくはないわな」

086 リブレ

「生きるためなら何にでも縋りつく所存です、とは言え。やりすぎましたね、反省してます。失明するとは思ってなくて」

087 ブラッド

「嘘つけざっくりいったぞ、思いっきりざっくり」

 ぺこりと頭を下げるリブレに対して、減らず口を叩く。間髪入れず喋れている間は平気だろうとレイジも思った。いまいち悪気なさそうに笑うリブレが、頬を掻いて苦笑した。

088 リブレ

「そうそう、事情を説明したらジャスカ君に殴られそうになりまして。殴らせた方が良かったかなァ。でも殴られ損も嫌ですし、まあいいか」

089 レイジ

「殴らせても痛くないだろう」

090 ブラッド

「そうそう、ネコパンチ」

091 リブレ

「じゃあ団長が殴られて下さいよ」

092 ブラッド

「やだよ、なんでだよ」

093 リブレ

「さてお二方、明日のレイジ君の処刑の際にちょっと試したい事があるんですけど、聞いて頂けますか」

094 ブラッド

「お前の悪巧みって怖えんだけど。前科あるし」

095 レイジ

「……今度はどうするつもりだ」

 リブレ絡みの悪知恵というと、あまり良い響きがしない。特にブラッドからしてみれば、左眼失明の原因にもなった相手だ。はいそうですかと信用して良いものではないような気がしてならない。

096 リブレ

「既に皆に話は通してあるので、あとは団長とレイジ君の了承次第なんですが」

097 ブラッド

「まあいい、言ってみろ」

098 リブレ

「ほんの少し、注意を逸らして欲しいんです。管制塔と、閣下と、皆の」

099 レイジ

「無茶苦茶だな」

100 リブレ

「いいえ? 貴方の死刑執行があってこそ、できる事ですよ」

 考えている事が読めずに表情を伺うが、薄い笑みが張り付いているだけで変化がない。

101 リブレ

「まあ細かい指示は、全員集まってからにしますけど」

102 ブラッド

「全員て、皆上にいるんじゃないのか」

103 リブレ

「理紀が席を外してます。先程フローズが戻ってきて、入れ替わりに」

104 レイジ

「なんのために」

105 リブレ

「姫様が閣下に物申したいそうで」

106 ブラッド

「また無茶な事を……何もなきゃいいが」

107 リブレ

「大丈夫でしょう、ここら一帯の監視カメラは僕が乗っ取ってますし」

108 レイジ

「嫌な奴だな」

109 リブレ

「最高の褒め言葉です。万が一の時は理紀もいるから大丈夫でしょう。彼女はさとい子ですよ」

110 ブラッド

「ああまあ、そうだな。俺はどうもアイツ苦手だけどな。なんせホラ、普段がアレだからリキは」

111 リブレ

「団長に対するヘイズみたいですね、それ。同族嫌悪っていうか、似た者同士っていうか」

112 ブラッド

「マジで?」

 半ば嫌そうに訊き返したブラッドの様子に、意外だとでも言わんばかりの色が見て取れる。彼ら元レジスタンスメンバーとの付き合いは、自分よりもブラッド達の方が長いだろう、それをとやかく言うつもりはないし、混ざる気にもなれなかった。

113 リブレ

「それでですね。死して楽になるのと、復讐に賭けてみるのと、レイジ君はどっちにします?」

 リブレは選択肢を二つ用意して、静かに笑んだ。