GUNBURST

ACT06 REBELLION [ burst_06 ]
No. キャラ 台詞、状況
001 ジャスカ

「何すんだ! 離せコノヤロッ」

002 ブラッド

「うるせ、暴れんな落とすだろ! お前さんは暴れるだけかも知れんが俺は二人抱えてんだぞ!?」

003 ジャスカ

「知るかそんなの!」

004 ブラッド

「いって! 引っ掻くな、大人しくしろっつってんだろ、ジャス坊! 馬鹿かお前はッ」

 思い切り引っかかれた腕を見、ブラッドは悲鳴じみた声を上げる。重症のレイジを肩に乗せ、暴れるジャスカを小脇に抱えて戦車に放り込む。

 子供だけならともかく、大の男を二人も軽々と持ち上げる様は怪力としか例えようがない。

005 ジャスカ

「なんだと! 誘拐犯に人権なんてないだろー!」

006 ブラッド

「俺が! 姫さんとこ連れてってやろうとしてんだろが! ちったァ話聞けチビ助! それに……ちょっと治療も必要だしな」

007 ジャスカ

「……へ? 治療? 誰が、誰の?」

008 ブラッド

「俺らが、アンタらの。あーそうか、分かった説明する」

 ブラッドは半ば語尾を濁しながら手を離す。空中に放り出される格好になったジャスカは、慌てて着地態勢を取り渋々戦車に乗り込んだ。

 男は気が立っているのか、普段程の余裕がないように見える。身振り手振りの説明なのか、頭を指差した。

009 ジャスカ

「それは頭」

010 ブラッド

「そう、頭。えーっと……あのな、俺が殴ったトコ、顎中けいちゅうつってな、首んとこ。横から思いッきり殴ると頭蓋骨と脳が反対に動くわけよ。下手すっと死ぬ」

011 ジャスカ

「ヒィ! 反対に動くって事は血管に無理かけるって事だよな……ブレイズ……お前、馬鹿じゃなかったんだな」

012 ブラッド

「お前さんも俺の事そういう風に見てたのか……俺泣くよ? マジで」

013 クイーヴ

「なに事実言われて凹んでんだ」

014 ブラッド

「うお、お前いつからそこにいた!?」

 背後から声を掛けられ、慄く。頭上に雪を積もらせて、少年はあからさまに溜め息をついた。

015 クイーヴ

「来るの遅いし、見えたから勝手に追って来た」

016 フローズ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT6「REBELLIONリベリオン

017 理紀

「拾う手間が省けて良かったじゃないッスかー」

018 フローズ

「方向音痴のお前が、よく迷わなかったな」

019 クイーヴ

「見える対象追っかけるだけで、どうしたら迷えるんだ!」

 戦車とは名ばかりの雪上ホバーに足をかけ、クイーヴは見覚えのある青年に意識を奪われる。後部座席に寝かされた白髪と黒コート。皇女の捕獲に出てきてはいたが、その雇われの護衛は殲滅はしなかったようだ。

 それよりも。

020 フローズ

「見覚え、あるだろう?」

021 クイーヴ

「団長、姫と一緒だったっていう男は……」

022 ブラッド

「アルフィタの騒ぎン時のレイジだよ。……やだなァ、俺、手加減できねンだよ」

023 クイーヴ

「そうか……ヘイズの見間違いじゃなかったみたいだな」

 珍しく辛辣な面持ちで弱音を吐く旅団長に、かける言葉をなくした。ブラッドが手加減をしないのは今に始まった事じゃないが、だからと言って簡単に死ぬような相手でもない。見える常識の違いに、疲労する。

024 フローズ

「死ににくい、か。あまり信じられなかったけど」

025 ヌクリア

「ホントだよ。ネズミのつぎはネコさん、うまくいったらみんな」

026 理紀

「実際に見ちゃうと、駄目ですよねえ……噂と実際は違うって言うか」

027 ブラッド

「突然消えても分かり難いような奴ばっかり選んでるからな、連中は」

028 レイジ

「煩い……」

 後部座席から声が割り込む。不機嫌そのままを表して、レイジは首に手を当てた。酷く痛むが全身見渡してみると傷口は塞がっているように見えた。

029 ブラッド

「無理に起きると目ェ回すぞ、結構思い切りやったかんな」

030 レイジ

「殺すつもりはないのか、何が狙いだ」

031 ブラッド

「それ答えちゃったら俺が処分受けるな、多分。まあそれは覚悟してるからいいか。実はお前さんには協力して貰いたい事がある。殺さなかったのはそのためだ」

032 ジャスカ

「この期に及んで信用しろって言うのか!?」

033 レイジ

「いい、言ってみろ。場合によっては、考える」

034 ブラッド

「なァに難しい事じゃねェさ」

035 ヌクリア

「ダンチョー、ダンチョのかんたんは、かんたんじゃないよ」

036 クイーヴ

「全くだ。いつも無理難題ばっかり、頼まれる方の身にもなってくれ」

 左右からの反論に挟まれ、本人の口から言葉を聞くまでレイジは口を閉ざす。軍人として問題発言を色々重ねてきたブラッドではあるが、次に話す時には際立って酷いものになるような気がしていた。

037 フローズ

「団長、中央塔に着きますよ。格納庫へ回しますか?」

038 ブラッド

「ああそうだな、ジャス坊匿うんだったらその方がいいだろ。着いたら言う事にする。レイジ、すぐに動けるように気ィ張っとけ。あとリキ、お前着いたらヌクとジャス坊匿ってくれ」

039 理紀

「サー、イエッサー!」

 ぴしと敬礼する理紀に向けて、ブラッドは大袈裟に肩を落とす。

040 ブラッド

「イエッサーじゃなくて。お前真面目にやれ、頼むから。後生だから。お前根は真面目なんだろ? 信用していいんだろ?」

041 クイーヴ

「団長のが不真面目に見えるんスけど……」

042 ブラッド

「ああ? 何か言ったか、クイーヴ」

043 クイーヴ

「いーえ、別に何も。空耳です」

 冷たい風が吹き込む格納庫に、一台の戦車が止まる。全員己の役割を理解し動き始めていたが、ジャスカにはどちらを選ぶ勇気もない。一転して慌しくなった周囲を見回し、自分にできそうな事を探す。

 そもそも追放された藍羅の付き人だ。戻ってきてはいけなかったのだ。

 ブラッドの視界に入り、隅で立ち尽くしていたレイジ同様に首根っこ掴まれる。

044 フローズ

「団長、私はどうすれば」

045 ブラッド

「特攻でも待機でも好きな方を選べ。お前さんは何しにここに来た?」

046 フローズ

「じゃあ、私も行きます。私の事情は二の次ですから、これが片付かなければ何もできませんし」

047 レイジ

「おい、いい加減手を離せ、首が絞まる」

048 ブラッド

「ああわり、そうだった。ああでも、のんびりしてる暇ねンだよ。モタモタすんなら抱えてくぞ。ジャス坊はヌクの方で待ってろ、お前さんは思い切り戦力外だ」

049 ジャスカ

「戦力外……ッ、聞かなかったことにしてやる、感謝しろォ? で、お前、何する気なんだ?」

050 理紀

「こっちこっち、僕らはここで待機ッス」

 遠くの方で理紀がぶんぶんと手を振る様子を見て、ジャスカは納得した。はっきり戦力外宣告されたのは気に食わないが、敵う相手でもないので何も言う事ができなかった。

 灰布を引っ張られ、引き摺られる状態から解放されたレイジが心底嫌そうに顔を上げる。

051 レイジ

「俺をダシに乗り込むつもりか……」

052 ブラッド

「飲み込みが早くて助かる」

053 ジャスカ

「レイジそうやってると犬みたい、躾のなってない犬」

 さらっと正直な感想を告げたジャスカに、銃口が向く。問答無用で引き金が引かれる。

054 ジャスカ

「うわわわ冗談が通じない、この人冗談通じない!」

055 ブラッド

「おいそこー! 室内で撃つな! まだ騒ぎ起こすなって、頼むから! マジで!」

056 フローズ

「ヘイズ達が先に着いてるはずです。クイーヴも既にフォローに入ってるはず……急ぐんじゃなかったんですか」

057 ブラッド

「そう、そうだよ。レイジ、お前は姫さんとの約束通りに動いてくれればいい。できれば隙を作ってくれ」

058 レイジ

「誰に、いつ、どこで」

059 ブラッド

「その時になりゃ分かる。さてジャス坊、ここでよーォく頭冷やして、万が一の時に姫さん連れ出してくンな。行くぞツンデレ姫、レイジ」

060 レイジ

「命令するな」

 長テーブルの奥に国王なる父親の姿を認め、藍羅は嘆息した。薄暗い部屋に護衛らしき人物は見当たらない。随分な余裕だ。

 後ろ手に結ばれ身動きを封じられた藍羅は、苦々しく隣に立つリブレに向けて吐き捨てる。

061 藍羅

「リブレ、あたしを売るつもり?」

062 リブレ

「売るも何も、仕事してるだけですよ」

 返ってきたのは、皮肉でも何でもなくいつもの微笑だけだった。肯定的に頷き、アイザック・レブナンスは席を立ってゆっくりと藍羅に近付く。

063 アイザック

「その通りだ、悪く思うな。さて……暫くぶりだな藍羅。外で色々、騒ぎを起こしたそうではないか。噂に聞いている」

064 藍羅

「娘に対する仕打ちじゃありませんね、これは」

065 アイザック

「どこかで聞いたような台詞だな。まあいい、お前の力を他国に渡すのは、非常に惜しく思えてな」

066 藍羅

「一度追放しておきながら、今更そんな事」

067 アイザック

「そう、今更だ。良からぬ危険分子は、早めに芽を摘むのが得策だと今更ながらに気付いてな」

068 藍羅

「誰の入れ知恵ですか」

069 アイザック

「誰でもない、この私だよ」

 嘘だ。

 周囲を見渡して、いつものヒゲ面がいない事に気がつき、藍羅は低く呟く。

070 藍羅

「マクベス宰相閣下が見当たりません、どこですか」

071 アイザック

「ああ、アイツか? ……しつこく立て付くものでな、口を封じてやったよ。黙って従っていれば良かったものを、可哀想に」

 目の前が暗くなる。急に視界を奪われたものと錯覚した。"口を封じた"。どうやって。頭の中で次々問いが発生して行くが、追って湧くのはその答えのみ。彼が邪魔者を始末する時、どうするか。

 藍羅は目の前で見たブラック・ディナーを思い出し、腹の底から叫んだ。

072 藍羅

「貴方が! そうやって次々人を殺すから! この国の平均寿命はどんどん落ちてるんじゃないですか! 軍の平均年齢をご存知ですか、閣下!」

073 アイザック

「何を怒るのかね。それでもまだ中央は機能している」

074 藍羅

「ご自分の親友だったのではないですか?」

075 アイザック

「忘れたな、そんな遠い昔の事は。どうでも良い与太話はここまでだ。私もお前を殺すのは忍びない。お前が持ち出したデータだけ、返して貰おうか」

076 藍羅

「できません。間違った使い方しかできないじゃないですか」

077 ヘイズ

「……おい、リブレ」

 離れたところで声が割り込み、リブレがそれに応じて頷く。傍目に見ても、旅団からの通信が入ったようだった。

078 リブレ

「閣下、逆賊を捕えました」

079 アイザック

くだんのサンプルか」

080 リブレ

「ええ、そのようです」

 声色は相変わらず柔らかいが、抜け目のないリブレの事だ。何を考えているのか藍羅には全く理解できない。

081 アイザック

「入れ、ブラッドだろう?」

082 ブラッド

「これで汚名返上になりますかね、閣下」

083 アイザック

「……そうだな、よくやった少将」

 開いた扉の向こうに、予想通りの姿形があった。白頭黒コート、ブラッドに捕獲される形で前へ踏み出した青年は、藍羅が暗殺を依頼したレイジその人だ。

 だが同時に、一人足りない事に気がついて目を丸くした。レイジの方へ視線を傾けると、当の本人は素知らぬ顔で目を瞑った。不安が声に漏れている事も、藍羅自身自覚していない。

084 藍羅

「レイジ……ジャスカは……? ブラッド、あたしを裏切るつもり?」

085 ブラッド

「武器は取り上げてあります、ほらこの通り」

086 アイザック

「こちらに寄越せ、後の処分はお前達に任せる」

087 ブラッド

「はいはいっと。フローズ、お前が捕えとけ」

088 フローズ

「……了解」

 拳銃を二挺手に、ブラッドが歩み出る。途中で足を引っ掛け、バランスを崩す。見事に銃を取り落とし、慌ててそれを取りに行く。あまりに不自然で意図的な動作に藍羅は直感した。

 手に取った、と思われたはずの銃は後方へ向けて蹴り出されていた。一直線に後ろへ、レイジの足下まで滑る。ブラッドは半ば笑いながら顔を上げた。

089 ブラッド

「おおっと――あっ、しまった」

090 レイジ

「猿芝居でもたまには役に立つものだな」

091 ヘイズ

「おい、あの馬鹿まさか」

092 リブレ

「――やる気ですか、ちょっと短絡的ですよ」

093 アイザック

「馬鹿者! ブラッドを抑えろ!」

 室内に、ほぼ同時に声が響く。フローズが緩く握っていた紐を振り切り、レイジは足下の銃を蹴り上げた。身を起こしてブラッドも銃剣を手に、笑む。

094 ブラッド

「さァ、血肉沸き踊る鉛の宴をおっ始めようぜ! 贅沢にメインディッシュからなァ!」

095 レイジ

「背後は引き受ける!」

 ブラッドは一気に国王の方へ走り込む。呆気に取られていた藍羅の隣で、ヘイズは外から来る増援と、中に潜む一つの影、どちらに対応するか決めかねていた。

 リブレの姿が視界から消えたのを確認し、フローズは慌てて片手を挙げる。

096 フローズ

「リブレがいない……。おいヘタレ! 馬鹿、まだだ! まだ撃つな!」

097 クイーヴ

「ややこしい事を言うな、その合図は撃てじゃなかったのか!」

098 ヘイズ

「俺はどっちにつきゃいいんだよ、考えなしどもが!」

099 藍羅

「ブラッド、レイジ! 待って! 離して、ヘイズ」

100 ヘイズ

「俺だって状況が飲めてないから、下手に動くわけにゃいかねーんだよ。大人しくしててくれ」

 銃と剣の撃ちつける音に遮られ、藍羅の叫びは届かない。旅団内で連携が取れていない事は、ヘイズの困惑を見ればはっきりと分かる。

 外からの足音に増援の到着を知り、レイジが咄嗟に対応する。

101 中将

「閣下、これは何の騒ぎですか!」

102 レイジ

「新手か……!」

103 アイザック

「良いところに来た、押さえろ中将!」

104 中将

「しかし状況が……誰があだなし、誰が味方なのか区別が……いや。少将、貴様か」

 銃を手に、ジョルジュ・ハウンドは撃鉄を引いた。迷わず引き金を引かなかったのは、引けばアイザックにも当たる事に気がついていたからだ。

 長テーブルのテーブルクロスを蹴って、ブラッドは剣先を喉元に突きつけた。

105 ブラッド

「首、取ーった。上出来だわんこ、あとでご褒美な」

106 アイザック

「……よくもたばかってくれたな」

 銃声が止む。国王を人質に取られた中将からすれば、敵か味方か分からない数人の反撃を考えれば撃てるはずもない。

107 藍羅

「ブラッド、駄目、早く……次が来たらもう」

108 ブラッド

「そんな面すンなよ閣下。昔っから言ってるじゃねェかよ、俺は姫の兵だってな。忘れてたアンタが悪いんだ。後悔すンだな、俺にこんな力を与えた事をよ!」

109 アイザック

「ブラッド、貴様!」

 振りかぶる。時間との争いだ。増援が来る前に撥ねなければ、圧倒的無勢によって鎮圧されてしまう。藍羅にもそれは分かっている。無言の数秒が、酷く長く感じられる。

 振り下ろした切っ先が喉元あと数センチまで届いたところで、ブラッドの背後に立つ影があった。不敵に笑んで隙だらけの背面から殴りかかる。

110 リブレ

「させませんよ」

111 ブラッド

「……ッ! お前……!」

 目の前を赤い血が舞う。白いテーブルクロスが鮮血に染められて行く。ブラッドが暴君の首を撥ねるよりも早く、リブレが彼の首を取った。

 勢いで突き飛ばされたブラッドは、派手にテーブルから転げ落ち、銃剣ごと床に転がった。藍羅の居る位置からは状況が視認しづらく、その時は彼が床に頭を打ちつけたのかと誤解した。

 痛む体を起こし、床に手をついたままボタボタと赤い染みを作る様子をただ確認するだけだった。沈黙する周囲の時間の流れがいまだかつて無い程遅く、じわりと体に浸透していく痛みを、ただ自覚する。

112 ブラッド

「あ、あ……ァアアア! リブレ、お前ェエ!」

 叫ぶ。

 憎い。憎い。いつもの笑みで平然と他人の腸を抉り出す悪魔が憎い。

 視界が赤く血塗られて行く。あまりの痛みに痛覚が麻痺しているのではないかと疑いたくもなる。呻きながらブラッドは手探りで剣を探した。

 見えない。距離感が掴めない。視界に何も映らない。唯一最大の武器が見つからない。

113 藍羅

「ブラッド? 武器は手元にあるじゃない……どこを探して……見えてないの? ブラッド! アンタ、目を!」

114 アイザック

「大尉、すまない助かった。君は実に優秀だ」

115 リブレ

「光栄の至り、しかし当然の事をしたまでです。閣下、ご無事ですか」

116 アイザック

「うむ、おかげで傷一つない」

リブレの手中に握られた鋲――苦無にも似た小刀のような物だ――が血に塗れる。左目を裂いた暗器を握り締め、リブレは笑みを保ったまま一礼した。

 疼く傷を押さえながら、床に這いつくばって仇を睨む様はまるで。

117 リブレ

「それにしても、そうやって床にしがみ付いて唸ってたら、猛獣みたいですよ団長。無様だなあ」

118 ブラッド

「リブレ、リブレリブレリブレェ! お前は殺す、殺してやる! それで相子あいこだ、そうだろう!?」

119 藍羅

「ブラッド! 落ち着け、ブラッド! アンタの部下でしょう、アンタそれじゃあ元の木阿弥じゃない」

 制止させようと藍羅が悲痛の叫びを上げる。テーブルの上でしゃがみ込み、楽しそうに笑うリブレとは対照的に、ブラッドは目を見開いて狂う。

 胸の内をごっそり抉られるような痛みを共感する。声が届かないのを悟り、藍羅はヘイズの手を振り切ろうと身じろいだ。

120 レイジ

「駄目だ、聞こえていない。厄介な奴を、敵に回したのかもしれない」

121 フローズ

「こんなのはないだろう……?」

122 リブレ

「皆どうかしてますよ、これは反逆罪だ。団長、貴方が外でなければ本来の力を発揮できないのは、僕がよく知ってます」

123 藍羅

「リブレ、アンタって人は……!」

124 リブレ

「そして僕に銃弾を当てるのが難しいのも、貴方はよくご存知だ。さあ閣下、残りの処分もお任せ下さい」

125 アイザック

「……そうだな。反逆者全員、隔離棟の地下牢へ放り込め。良いと言うまで出すな」

126 リブレ

「了解。フローズ、ヘイズ、クイーヴ。三人とも呆けてないでいいですか? 一二○○ヒトフタマルマルをもってブラッド・バーン・ブレイズ、鐵零仕の二名を拘束し、地下牢へ放り込め」

127 ヘイズ

「あ、ああ」

128 リブレ

「ブレイズは暴れる事が予想される、拘束衣の準備を。武器は押収、皇女はこちらの監視下に置く、くれぐれも丁重に扱って下さい。それで宜しいですか、閣下」

 表面上から笑みが消え去り、リブレはてきぱきと次へ進める。冷静ではあるが暴言が出るわけでもなく、淡々と為すべき事が告げられる。

129 アイザック

「構わん、お前に一任する」

130 中将

「酷い、有り様ですな……」

131 ヘイズ

「悪ィなレイジ、大人しくしとけよ。俺はそこに転がってる馬鹿でかい奴を運ばなきゃいけない」

132 レイジ

「……暴れるつもりはない」

133 クイーヴ

「それが賢明だよ、僕だって気が向かない」

 現状は自分達に圧倒的不利だ。油断していたブラッドにも非はあるし、咄嗟に撃たなかった己にも責はある。しかし、こんな裏切り方があるものだろうか。ブラッドは部下を信頼していたに過ぎない。

 幸い、自分もそこの男も、"死ににくい"。選択肢が徐々に減って行く様を見送りながら、朽ちるだけだ。

134 ブラッド

「何人も殺しておいて、自分の番って時には怯えるのかお前ら! 腐ってやがる」

135 リブレ

「なんとでもどうぞ、現実は簡単に行かない物です少将閣下」

136 藍羅

「アンタ……最低ッ!」

137 リブレ

「酷い顔ですよ姫君。貴方が僕らに口出しする権限は、最初からないんです。忘れないで下さい、そこのところ」

 その頃にはもう、普段の薄い笑みに戻っている。曖昧な表情でそれを見守りながら、フローズはおずと手を差し出した。

138 フローズ

「姫様、こちらへ……」

139 藍羅

「こんなの、ないわよ」

140 フローズ

「私もそう思います」

141 藍羅

「ブラッドは……?」

142 フローズ

「既に意識がありません。どの道止血しないと、あれでは拘束どころではありません」

143 藍羅

「ジャスカはどうしてるの」

144 フローズ

「隔離棟で理紀の監視下に置かせてます」

145 藍羅

「そう、ならいいわ」

 泣き腫らした目が赤くなっている。ずるずると引き摺られるブラッドが、いつにも増して獣じみて映った。妙に大人しいレイジが何を考えているのかは、藍羅には察しがつかないが。

 落胆する藍羅の肩をぽんと叩き、フローズは静かに告げた。

146 フローズ

「実際はね、良くも悪くも結構単純だったりするんですよ、姫様」

 薄暗い部屋の奥、外の景色が一望できる窓から日の光が差し込んでいた。

 既に時刻は正午を回っていると、その時初めて気が付いた。