GUNBURST

ACT05 MORTAL ENEMY [ burst_05 ]
No. キャラ 台詞、状況

 国王は娘である自分を本気で殺そうと思っている。というのが、藍羅自身納得が行くための結論だった。大体、国力増強のための生態兵器を造る時点でどうかしているのだ。正常な判断力が失われて久しい。

001 藍羅

「父上は本当にあたしを殺そうと思ってるのね……もう、バッカじゃないの。ちょっと期待してた自分が馬鹿みたいだわ」

002 ヌクリア

「おうじょさま、それってかなしいこと、だよね」

003 藍羅

「そうね、酷い親だわ」

004 ヌクリア

「おうじょさま"可哀想"だからヌク、ダンチョとおはなししようとおもったの。でも、ダンチョまだこないね」

 無邪気な子供の様子は相変わらず、こちらに対して全く敵対心を抱いていないと取れる。それを知ってか、藍羅も素直な対応をしていた。

005 藍羅

「暗殺なんて企ててるあたしも、大概似たようなものかもね……」

 自嘲気味に呟いて俯く。

006 レイジ

「感傷に浸る余裕があるなら、対策を練ったらどうだ」

007 ジャスカ

「そうですよ姫様。ヤバイですよ、これは。いつ嗅ぎ付けられるか……」

008 理紀

「生死不問で1億、確認のために首持って来いっと。どこからこんなお金出るんスかねえ」

 背後から迫った戦車エアフロートの音を聞いてジャスカは飛び退く。乗っていた面々の顔を確認して、口をあんぐり開けたまま声を発する事が出来ずにいる。

 乗っていた少女は、指名手配のポスターを読み上げて首を傾げた。

009 フローズ

「税金税金、あんだけ搾取してるんだからちょっとくらい出せるだろ」

010 ブラッド

「いいねェコレ、皆がっつくわけだわ。俺もやろかな」

011 フローズ

「何言ってるんですか、仕事です」

012 ブラッド

「分かってるってェ……うわ何で俺こんな安い仕事してんだ、泣けてきた」

013 理紀

「……団長、決まらないじゃないですか。着いてますよ」

014 ヌクリア

「あ、ダンチョきた! ダンチョ、ダンチョ、ヌクがおうじょさま見つけたの、えらい?」

 子供が振り返り、嬉しそうに飛びつく。金髪の旅団長は掃き溜めの上に飛び降りると、子供の頭をぐりぐりと撫で回しながら答えた。目の前の幼馴染とその従者、そして異人を認めて機嫌を直す。

015 ブラッド

「おう、偉い偉い、お手柄だヌク。久しぶりだなァ、姫さんとジャス坊主と――レイジ」

016 レイジ

「ブラッド・バーン・ブレイズ……相変わらずだな」

017 ブラッド

「お、覚えてるとは光栄だな。髪伸びたな、相変わらず美人でほっとした」

018 レイジ

「藍羅・レブナンス。今・すぐ・そこの変人を撃ち殺してもいいか? 何故か無性に腹が立った」

019 藍羅

「許可する。好きなだけ撃てばいいわよ」

020 ブラッド

「素直に褒めたのにひどくね?」

021 レイジ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT5「MORTAL ENEMYモータル・エネミー

 記憶にあるアルフィタの疫病神というのは、派手な金髪と白い軍服を身に纏った長身の男だ。何に対しても投げ遣りな様子を見せていた気がし、己への妙な執着心を疑問に感じる。

 生かしたまま捕えるか、ここで殺してしまうか。暴君への復讐にしろ、逃亡にしろ、今ここで障害になるのは避けて通れない。

 藍羅は難しい顔をしたまま黙り込んだ。

022 ブラッド

「姫さんよォ、悪ィな。国王の前まで連れて行かないといけないらしいんだわ。違反するわけにも行かねェし、BATTLE or OBEYどうしましょ?」

023 藍羅

「生死不問ってやつ? 追放したいんだか捕まえたいんだかどっちなのよ」

024 ジャスカ

「そーだそーだ、大体旅団だって信用できないな! いくら言う事聞かない団だからって、閣下に買収されてるかもしれないじゃん!?」

025 理紀

「なにをー、言ったなー? 僕らはあくまで、自分達の思ったようにしか動かないのが売りの団だぞー」

026 ヌクリア

「ダンチョ、うそつかないもん」

027 ジャスカ

「姫様、そいつらの言う事に耳を貸しちゃダメです!」

028 レイジ

「……どうでもいいが。俺はお前に買われている、お前の決定次第だ」

 判断に迷ったのか、藍羅は肩を竦めて見せた。既にこの国において信じられるものなど何一つない。自分がどの立ち位置に立つかを決める。それだけが許されている。

 辺りは朝日が昇り始め、色彩を取り戻し始めていた。足下の刺すように冷えた空気が少し和らいだ。

029 藍羅

「そうね、迷う必要なんてなかったわね。闘うか、従うか、それだけ――ブラッドの問い方は、分かり易くて助かるわ」

030 ブラッド

「物分りが良くなったな、姫さん。それも一つ成長したってことで」

031 藍羅

「あたし、アンタなら話分かると思ってたけど……前言撤回! あたしもうアンタの事信用できない!」

 一気にブラッドの方へ詰め寄り、襟首を掴む。相手の身長を自分に合わせていた。男が辛そうに、だが手慣れた様子で腰を屈めている。

032 ブラッド

「え、あ、悪ィ! 信用されてたの? 俺ァ本当のところは、てっきり信用されてないとばっかり」

033 藍羅

「この駄目男! ロリコン! 無駄にでかくても邪魔なだけェエエ!」

034 レイジ

「おい、ペースに乗せられるな」

035 ブラッド

「つっかまえた。さーて撤収すんぞー! 俺は寝る、寝るからな! 邪魔すんなよ!?」

 自ら掴み掛かったのが運の尽きか、あっさり捕獲され、小脇に抱えられているのが見て取れる。大柄なブラッドと比べ、平均的な身長の藍羅ではすっぽりと収まってしまう。

 必死で抜け出そうと藍羅がもがく。

036 藍羅

「コラァアアア!! 聞けェエエ、離せェエエ、ロリコンがうつるううう!」

037 ブラッド

「うつらんうつらん。馬鹿だなあ、姫さんってば。俺に掴み掛かったのが考えなしだったな」

038 ジャスカ

「ちょ、ちょっと、姫様、間抜け――!」

 いくら間抜けでも依頼主だ。レイジは怒りを抑えながら銃口をブラッドへ傾けた。頭を狙って引き金を引く。そこに躊躇いはない。

 渇いた銃声が二発、男はそのまま後方へ倒れた。空中に投げ出された藍羅がその場に振り落とされる。

039 理紀

「ああッ、団長ふざけてるから恰好の的に!」

040 フローズ

「自業自得って言うんですよ……」

041 ジャスカ

「ああああ頭撃った!?」

042 レイジ

「いつまで死んだ振りしているつもりだ」

 ヘッドギアのお陰か、血すら流れない男に向けて吐き捨てる。様子を見ようと顔を覗き込んだ藍羅に対し、ブラッドは片腕だけ起こし、親指を立てた。

043 ブラッド

「姫さんナイス膝枕、グッジョブ。このまま死にたい」

044 藍羅

「ッァアア!! 泣こうとして損した! キッサマァアア!!」

045 ブラッド

「何ィ!? 今物凄い台詞聞いたぞ、お前俺ンとこに嫁に来い!」

 がばと起き上がり、喰らいつく。今すぐにでもこの場を離れたいなどと思いながらも、レイジは溜め息をついた。こんなふざけた相手と戦わなければならないのか、と思うと心底うんざりした。

 コートの埃を払いながら、ブラッドは立ち上がった。

046 レイジ

「心なしか、どこかで選択肢を間違えた気がする……」

047 ブラッド

「まあそう言うなよ。これでハッキリしただろ、俺はお前と戦ってみてえ。お前さんは俺を倒さなきゃ先に進めない。そうだろ?」

048 ヌクリア

「ダンチョダンチョ。ヌク、おうじょさまはたすけてあげたいよ」

049 ブラッド

「それは心配いらねえよ、俺は姫さん殺す気ないからな」

050 ジャスカ

「……軍人が、そんな事言っていいのか?」

051 ブラッド

「だからよー。リブレ、ヘイズ! 姫を連れてけ!」

 一台のホバーが高速で目の前を通過する。次に瞬いた時には、目の前に藍羅はいなくなっていた。暫くして視界の前方で、藍羅を抱えた好青年が合図するのが確認できた。

052 リブレ

「了解です、また後ほど」

053 藍羅

「ちょっと……ブラッド!? どういうつもりよ、これは!」

 ブラッドに気を取られすぎたのか。エンジン稼動部を狙ってみるものの、距離の関係もあって当たらない。当たる寸前のところで弾丸の速度が落ちてるようにも思えた。

054 ジャスカ

「姫様、すぐ助けますから!」

055 レイジ

「待て、追わない方が良い」

056 藍羅

「覚えてなさいよ、このロリコンー!」

 走り出そうとするジャスカの襟首を掴む。ホバー相手では走っても追いつけない。藍羅の叫びが木霊した。

057 ブラッド

「いいか、お前を殺すのは、ブラッド・バーン・ブレイズだ。フローズ、船を下げろ。誰も手出しすんなよ」

058 フローズ

「了解しました。手短に頼みますよ、後がつかえてるんで」

059 理紀

「クイーヴも回収するんだよね」

060 ジャスカ

「やる気なのか? はっきり言って、ブレイズは化け物だぞ」

061 レイジ

「関係ない。俺の復讐に邪魔だ、だから始末する」

062 ブラッド

「正直言うとお前さんにもよ、賞金掛かりそうなんだわ。大人しく投降して俺の生活の足しにでもなってくれりゃ、避けて通れないわけでもねェんだけど、どうする」

063 レイジ

「下らない、金などどうでもいい。金で解決する問題じゃない」

 答えると、満足気に笑みを浮かべてショットガンの銃口をこちらに向けた。まるで子供が新しい玩具を手に入れたような気軽さだ。

064 ブラッド

「だよな。益々気に入った」

 ショットガンのシリンダーが回る。弾丸は左頬を掠って通過した。当てる気がないのか、単なるノーコンなのか、どちらにしても避けるまでもなかった。

065 理紀

「なんで団長って、射撃練習は全部ど真ん中なのに実践だとノーコンなんだろ」

066 フローズ

「人に当てるのが苦手なんだよ。だから剣も意味なく馬鹿でかいだろ?」

067 ヌクリア

「ダンチョやさしいからね」

068 フローズ

「それはちょっと……違うんじゃないですか?」

 脇で傍観に入っている団員を他所に、硝煙の上がるショットガンを振り下ろし、ブラッドはコートを戦車へ放った。隙を見て銃を撃ったが全て剣の刃に跳ね返されてしまって当たらない。

 彼の身長と比較してもさほど変わらない大剣が宙を裂く。柄が脇腹を抉り、反射的に身を丸めた。

069 ブラッド

「容赦ねえなあ、そう来なくちゃあ……面白くねェだろうよ!」

070 レイジ

「ッ……のやろ」

 まともに入り痛みを知覚する。数発打ち返したが、視界がぐらついていた所為もあって着弾したようには思えない。懐へ飛び込んできた二撃目を、咄嗟にマガジンで受け止める。

 力負けしているのか押し切れずに留まっていた。

071 ブラッド

「力比べじゃ敵わねェだろ?」

072 レイジ

「相変わらず、腕力だけだな」

073 ブラッド

「腕の一本イったかと思ったが……なかなか強ェじゃねェの。嬉しいな」

074 レイジ

「それは良かったな、生憎俺は先を急いでいる。大人しくそこを退け」

 剣を押し返す。刀身の大きさも相俟って、酷く右腕が痺れた。肘に痛みが残る。上手く腕が動かない。

075 ブラッド

「姫さんなら心配しなさんな、丁重に扱ってくれてるだろうよ、ちゃんとな。俺は信頼できねェ部下はいらねえ。そうだろ、ジャス坊」

076 ジャスカ

「何でそんな事僕に聞くんだ」

077 ブラッド

「いいやあ、何か気にしてるっぽかったからよ。役立たず役立たずって、お前の役割が何なのかさっぱり分かっちゃいねえ」

078 レイジ

「呑気なもんだな」

 注意がジャスカに向いている内に、そのいけ好かない頭に蹴りを叩き込む。当たったと思った。照準が高い所為か威力が落ち、左腕に防がれた。

079 ブラッド

「よそ見してる隙に顔面に蹴りなんてェ、案外卑怯だな」

080 ジャスカ

「レイジ、危ない下がれ! そいつは破壊魔法……!」

081 ブラッド

「遅い遅い、派手に行こうぜ!」

 こちらへ伸びた腕が胸倉を掴む。楽しそうに笑うブラッドを以前よりも憎々しく思った。黒いマナが空中に溶け込んで行くのが視認できる。だがそれだけだ。

 身動き取れないまま、マナは懐で破裂した。視界がホワイトアウトする。

 遅れて爆音が轟いた。

082 ジャスカ

「レイジ! 大丈夫か!」

083 理紀

「ああっ、団長! こんなとこで、そんな上級魔法使ったら、まーた街に大損害がァ!」

084 フローズ

「エクスプロードなんて、こんなところで……! 団長、街頭破壊は止めてくださいって注意されたばかりじゃないですか!」

085 ヌクリア

「ああいうの、"職権濫用"っていうんだよね」

086 フローズ

「やりすぎだ、大体アレは人に使う物じゃない」

087 ブラッド

「逆賊倒して怒られるのなんて初めてー……」

088 ジャスカ

「レイジ、レイジ聞こえるか?」

 耳鳴りが周囲の声を妨害し、目も眩む白さが視界を覆う。全身が焼ける感覚と、それを修復する痛みが襲った。早くも傷口は自ら塞がり始め、生命線を保とうと失血を始める。

 腕の感覚はある。足もまだ残っている。全身バラバラにされたという不安は消え去って、断続する痛みだけが全身を支配した。

089 ジャスカ

「おい、レイジ! 姫様を追うんじゃなかったのか!」

090 レイジ

「……煩い……くそ……容赦がないのはどっちだ……」

091 ヌクリア

「あ、ねねダンチョ、まだいきてるよー」

092 ブラッド

「おー、すげェな。直撃で生きてるなんて。やっぱ頑丈だな。機能美どころか造形美にも拘ったな、あの連中……」

093 レイジ

「何の、話だ」

094 ブラッド

「こっちの話。ここまで死に難いダイ・ハードとなると、上手く殺せねえや」

 日が昇り始め、周囲に影が落ちる。前方にいるはずの男も認識できない。影を目で追うのがやっとだ。話す声も波を打って聞き取るのに苦労する。爆発で耳が麻痺したようだった。

 落とした銃を手探りに探し、腹部を抱えたままゆっくりと起き上がる。

095 ジャスカ

「無理に起きなくても」

096 レイジ

「追うんだろ……追って、絞める。割に合わない仕事は御免だ」

097 ブラッド

「おいおい、手加減できないぞ?」

 殴りかかろうにも体が上手く動かず、銃弾を撃ち返すに留まった。肉弾戦に持ち込んだ方が早いが、生憎体格も力もブラッドに劣っている。次どうするか、思考回路が繋がった瞬間に神経が研ぎ澄まされていくのを知覚した。

 左拳を握り、間髪入れずに振るった。防がれるのは予め分かっている。続けて右足を、顔面目掛けて蹴り上げた。

098 ブラッド

「随分嫌われた様子。お前さんの体重じゃ、攻撃が軽いンだよ。あんまり手間かけさせんなよ!」

099 レイジ

「ッ……が」

 頭を鷲掴みにされた。片腕で視界を遮り、もう片腕が襲う。拳は下頬を打った。そのまま地面に叩きつけられ、視界が反転する。視界が歪み、三半規管が狂い、平衡感覚が失くなっていく。後頭部が疼き、痛覚が戻る。体中が悲鳴を上げているのが理解できた。

 そして真上には。

100 ジャスカ

「ブレイズ、もういいだろ! 一方的すぎる!」

101 ブラッド

「あーのなー、最初からお前さんらに文句言う権限なんてねーのよ。まあ幸い、まだ殺す訳にはいかなくてな。そろそろ約束の時間なんだけど」

 顎を掴んだまま、男はその手に力を篭めた。覆い被さるように顔を覗き込んで来る。周囲に纏っている景色も時々上下逆さまに映った。吐き気がする。あまりの不快感に目を瞑った。

 それでも脳内はぐらついたまま安定しない。顎を強打した所為で脳震盪を起こしているのだろう。そのまま意識を手放したくもなった。

102 ブラッド

「暴れるな暴れるな、人体急所って知ってっかァ? 暫く立ち上がれねェよ? どうだい、投降すっか?」

103 レイジ

「狙って、やったのか……」

104 ブラッド

「うん、気分最悪だろ?」

 ブラッドは意地が悪そうに笑う。

 与えられた問いに答える前に、世界は暗転していた。

105 リブレ

「あーあー、派手にやってるねえ。こりゃ、団長かなぁ。あまり破壊するなって言っておいたはずなんですけどねえ」

 爆撃に続いて、建物が倒壊する音が地鳴りのように響いている。リブレの苦笑交じりのぼやきが犯人を如実に現していた。

106 藍羅

「派手な装いが好きなのよ、あの馬鹿は」

107 リブレ

「楽しそうに暴れる図が想像できますね」

108 藍羅

「……貴方も充分、楽しそうに見えるけどね」

 ぼそりと呟く。目の前の青年は笑っている。何がそんなに楽しいのか、策通りに事が進んだのが嬉しいのか、そんな事は藍羅には分からない。常に笑っているところしか見ないからだろう。今更疑問を持つのもおかしい気がした。

109 ヘイズ

「おいリブレ。今の爆発で計器が狂ったみたいだ。ただ後ろに乗ってるだけなら、解析くらいやれよ」

110 リブレ

「仕方ないですね。あの人にはそのうち、僕の出世を邪魔した責任、取ってもらわないと」

111 ヘイズ

「ふざけてる場合じゃねえだろ」

112 リブレ

「分かりましたって。やりますやります」

 冷たい風が流れる。操縦していた大柄な男が半ば嫌そうに呟いた。リブレに対する扱いには慣れたものだと、傍から見ている藍羅でもそう思う。

 リブレは前方へ手を伸ばし、レバー横のエラー文字ばかりを吐き出しているスクリーンに手を触れた。すぐに正確な情報に書き換えられていく。

113 リブレ

「進行速度150キロ、方向北東、風はなし、周囲状況も極めて良好。何もなければ10分で着きますよ。邪魔さえなければね」

114 ヘイズ

「分かった。ところでお前、単独で動いてたらしいが、どこ行ってたんだ」

115 リブレ

「企業秘密です。もとい、野暮用です」

116 藍羅

「言えないようなことしてたの?」

117 リブレ

「誰しも知らない方がいい事ってあるでしょ?」

118 藍羅

「……そんな事ばっかりな気もするけど」

 レギュレーターを弄りながら笑みを浮かべる青年に向けて呟いた。3年見てきた割に未だ何も知らない。得体が知れないのもあって、ブラッドのように信用する事ができずにいる。

 少し間を置いて、リブレは口を開いた。

119 リブレ

「さて、そろそろ中央塔が見えてきましたね。覚悟は良いですか姫様」

120 ヘイズ

「国王は保検をかけたんだ。追放処分を言い渡しておきながら、わざわざ見えるところで処分させようとした。意味が分かるか?」

121 藍羅

「それほどまで邪魔ってわけ。それとも、あたしが持ってる情報が欲しいのかしら」

122 リブレ

「そこは本人にしか分かりませんけど、貴方も相当誰かの『馬鹿』がうつりましたね。早いところ国外へ出ていれば良かったのに」

 予め予測できていたはずの言葉が重く響く。リブレの表情からは余裕が消え、藍羅は今や完全に敵となった自らの家に戻る事を実感した。

123 藍羅

「分かってるわ、リブレ。分かってるから急いで頂戴。着いたらすぐ、ブラッドの減給を申請しておかないと」

 答えてやっと、周囲を見渡すだけの余裕ができた。ないもののように通り過ぎていく看板に視線を傾ける。

 大量の看板に混じって、巨大街頭スクリーンにはサブリミナルが流れ続けていた。

124 藍羅

「悔しいけど、限界ってところね……」