GUNBURST

ACT03 IDEOLOGY [ burst_03 ]
No. キャラ 台詞、状況

 銀の食器が沈黙を割り、不気味なまでの静寂をもって室内を制する。控えていた中将も口を閉ざし、様子を見張っている。

 暴君はフォークを片手に、意地悪く笑みかけた。

001 アイザック

「肉は嫌いかね、少将」

002 中将

「閣下……」

 溜め息混じりに窘め、中将は肩を竦めた。

 長テーブルの向こう側に鎮座する男を一瞥し、ブラッドは嘆息する。

003 ブラッド

「いえ、そういうつもりではなかったのですが」

004 アイザック

「……第12旅団の活躍ぶりはかねてより聞いている。特に君は、藍羅と親しかったそうだな」

005 ブラッド

「ええまあ、閣下もご存知の通り」

006 アイザック

「あのじゃじゃ馬娘相手によくやってくれていたな」

007 ブラッド

「長い付き合いですから」

 嫌味か賞賛かいまいち区別のつかない一言を呟き、アイザックは手にしていた食器をテーブル上に置いた。手を叩き、中将に促す。

 連れてこられた褐色肌の若い女性は、こちらを睨んで立ち尽くした。

008 ブラッド

「エアドレイドのロマ……?」

 身軽そうな装いに、無意識に呟いた。

 ロマの娘は一歩前へ踏み出し、食って掛かる。

009 ロマ

「閣下、何故このような真似をなさるのです!」

010 中将

「ロマは占いが得意だと聞いている」

011 ロマ

「つまり、私に占えと仰るのですか。それにしては、扱いがおかしいのでは?」

012 中将

「……これでも優遇されているのだがね、少し大人しくしていて貰いたい」

013 アイザック

「立場をわきまえろ」

 短く呟き、溜め息をつく。手を組んでテーブルに肘をつき、アイザックはロマの娘を見据える。藍羅と遠からず似ている雰囲気に、次ぐ言葉を失った。

 自ら追放処分を下しておきながら、今更懐かしがっている己に嫌悪感を抱く。

014 アイザック

「……気の強いところは藍羅に、よく似ている」

015 ブラッド

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT3「IDEOLOGYイデオロギー

 只ならぬ沈黙と威圧に気圧され、ブラッドの脇に隠れていたヌクリアがその裾にしがみ付いて、弱々しく呟く。

016 ヌクリア

「ダンチョ、ヌク、もうかえりたい」

017 ブラッド

「イイコだからもうちょっと我慢してろ、な?」

018 ヌクリア

「ヌク、ほんとはイイコじゃないもん……ダンチョが知らないだけなんだよ?」

019 ブラッド

「そんなこたねェぞ? もう少しの我慢だ」

 黙った頷いた頭を撫で回し、ブラッドは嘆息する。子供のいる場所ではない事は充分承知の上で、副団長という立場上出向かざるを得ないヌクリアに対して、心底同情した。

 普通の軍法会議ならリブレが代行するところだが、こればかりは事情が違う。虐げられる先住民の出であるヌクリアは、暴君の余興で連れてこられた同族がいつ殺されてしまうのか、そればかりを気にしている。

020 アイザック

「ブラッド、その子供を下げろ。目障りだ」

021 ブラッド

「はあ、分かりました。――頼むわ、リキ。先戻っててくれ」

 外で待機していた理紀に対して、要件だけを無線で告げる。何の気紛れか、本当に予測し難い。

 様子を察した様子で、理紀は落ち着いた声を返す。

022 理紀

『了解ッス、ついでに整備しときまーす』

023 ヌクリア

「ダンチョ、まってるね」

 いつもの明るさはどこへやら、落ち着かない様子で部屋を後にするヌクリアを目で追って、ブラッドは暴君の方へ向き直った。占い師と対峙しているためか、注意がこちらに向かなかったのは不幸中の幸いだ。

 顛末を見ていた中将もどこかやつれた様子で唸る。

024 中将

「閣下の蛮猫嫌いも、相変わらずですな」

025 アイザック

「自らの立場を弁えていない辺りが、好かないだけだよ」

026 中将

「あの子供は特例だと?」

027 アイザック

「ブラッドと藍羅が揃って庇うのでは、仕方あるまい。ところでゼノビアと言ったかね」

028 ロマ

「どこでその名前を」

029 アイザック

「どこでも良いだろう。お前はあの馬鹿な娘の居場所と、その行く末を占えるかね」

030 ロマ

「占えば、無事帰してもらえるのですね?」

031 アイザック

「結果次第だ」

 無茶苦茶な注文ではあるが、ゼノビアにとっては良い結果のみを口にせざるを得ない状況だ。それだけ告げれば元いた場所に戻れる。目を瞑り、静かに俯く。

 ブラッドは脇に立つ中将に向けて、ロマの娘を邪魔しないように小声で尋ねた。

032 ブラッド

「こりゃ一体、どんな気紛れですか」

033 中将

「さあな。長い付き合いになるが、閣下の考える事は私には分からん。人は変わるものだよ、ブレイズ少将」

 期待はしていなかったが、半ば投げ遣りな返答に流石のブラッドも曖昧にその後を濁した。

 顔を上げてゼノビアは答える。

034 ロマ

「地下スラム街……巨大廃棄場の近くでしょうか。しかし、これを聞いて閣下が追っ手を出すのではないかと、私は考えて……」

035 アイザック

「察しが良いな、その通りだ。中将、この娘を処分してしまえ」

036 ロマ

「そんな、閣下! 約束が違います! 閣下!」

 テーブルに手をつき、抗議する彼女の傍らで、辟易した様子で中将が歩み出た。既に機能しなくなっているシステムを正そうとする人間など、誰もいない。

 部屋から連れ出された娘を見送りながら、暴君は続ける。

037 アイザック

「アレの言う事はどこまで正確かね、少将。中将の所にいた元大尉は、確かお前が飼っていただろう?」

 暗にリブレの事を言っているのだと気がついて、ブラッドは嫌悪を隠すのに必死だった。この男は全て知っている。その上で上前を撥ねている。

 不快を押し殺し、極めて冷静を装う。

038 ブラッド

「彼は俺の部下です。飼ってるわけじゃない」

039 アイザック

「どちらでも同じ事だ。馬鹿娘が持ち去ったデータが何なのか、知ってるかね」

040 ブラッド

「折角作らせた薬の効果を無に還すというワクチンですか」

041 アイザック

「それだ。見つけ次第取り戻して欲しい」

042 ブラッド

「お言葉ですが閣下。この肉体、ちいとばかり力加減ができないのはご存知のハズ。姫の生死は問わないと」

 少し間を置いて、暴君は毅然として答えた。

043 アイザック

「聞き方を変えよう。お前に藍羅は殺せるな?」

 吐き出すのは簡単だ。しかしそれでは全ての意味がなくなってしまう。

 一歩下がり、一礼した。

044 ブラッド

「……無論です。わたくし自ら、逆賊を連れて参りましょう」

045 アイザック

「期待している。今度こそ、な」

046 ブラッド

「……最ッ悪……」

047 アイザック

「何か言ったかね」

048 ブラッド

「いーえ? 空耳ではありませんか?」

 錆びついた廊下に佇み、湿ったデッキブラシを放る。水の溜まったバケツに当たって渇いた音を立てた。中の水は衝撃で零れ、床を凍らせる。

 中央が騒がしいと思っていたが案の定、浅黄の軍服を着た中年の男が蛮猫の若い娘を連れて外に出て来ていた。

049 ヘイズ

「またかよ畜生、悪趣味な連中だ……」

050 リブレ

「発言には気をつけた方が良いですよ、ここにも監視の目はあるんですし。まああの中将の事だから、逃亡謀ってくれるんでしょうけどね」

051 ヘイズ

「それも含めて悪趣味だ、つってんだよ。お前もだ、偽善者気取りが」

 ヘイズは面倒くさそうにバケツを掴み、話し掛けてきた青年にそれを差し出す。苦笑交じりに肩を竦め、リブレは受け取るのを拒否した。

 曖昧に笑んでコンソールを叩く。その顔をする時は大抵、ろくな事を考えていない。

052 リブレ

「仕方ないですねえ……アドミン権限奪回、向き変えて、と。これでどうです? 周りは気にならなくなるでしょう?」

053 ヘイズ

「お前性格悪いな。人の嫌がる事、好きだろ」

054 リブレ

「あはは、バレました? 自覚してますよ」

 音声が拾われていないため、監視カメラを破壊する事なく制御してしまえば上方を気にする必要もなくなる。それを知った上での行動だ。呆れもする。

 溜め息混じりに肩を竦めて、ヘイズは視線を逸らした。

055 ヘイズ

「で、あのチビ助はどうした? 理紀がどっか出てったが……」

056 リブレ

「やけに気にしますね。同族だからですか?」

 リブレの核心を突いた一言に、口を閉ざす。不意に見せる冷徹さに違和感を覚えながら、ヘイズは頭を振った。

057 ヘイズ

「いつ、気がついた?」

058 リブレ

「勘ですよ勘。幸い僕と団長しか気がついてないようですし、いつバレたものか冷や冷やですけどね」

059 ヘイズ

「クイーヴですら気が付いてないのに、お前らもよく気が付いたもんだ」

060 リブレ

「それはちょっと……鈍感すぎやしませんか。まあ隠してるくらいですから、誰にも言うつもりなんてありませんけど」

061 ヘイズ

「お気楽だな、お前は安全だからって」

062 リブレ

「生憎僕は、中途半端に同情が出来る程、器用じゃないんです」

 自分は大丈夫だと認識している事を責めるつもりはないが、少しばかり腹立たしい。生まれ持った物を、今更どうにもできない。下手な同情よりは幾らかマシな扱いである事を、自分自身自覚している。

 平穏も恐怖も、本来なら平等に訪れるべきものだ。デッキブラシに体重を傾け、ヘイズは肩を落とした。

063 ヘイズ

「お前ら本当に動くつもりなんてあるのか? 何年あんな暴君に服従してればいいんだ」

064 リブレ

「タイミングを見計らってるんですよ、皇女が追放されたというじゃないですか。そもそも、貴方よく軍につきましたね。毛嫌いしていたんでしょう?」

065 ヘイズ

「事情が変わったからな。しかし追放か……道理で何も言わなかったわけだ、あの薄ら馬鹿……」

 それ以上は、言葉にせずに飲み込んだ。

 団長を名乗るブラッドとは、馬は合わないのか常に意見が食い違う。優柔不断な部分はアルフィタの暴動を見知っている自身からしたら目に見えたものである。それとは別に、優秀な部下である目の前の優男を野放しにしておく気が知れない。

 使える物は使う、本人が納得しているのなら尚更だ。そうしてやってきたヘイズとは、ブラッドはどうしても相容れない存在だった。

066 リブレ

「ああ、噂をすれば団長。顔色が悪いですよ、大丈夫ですか?」

067 ブラッド

「そうかァ? アレだろ、……ホラさっきまで調整……ワリィ、やっぱあんま調子良くねェな」

 苦笑しながら壁に寄りかかり、ブラッドはその場にしゃがみ込んだ。

068 ブラッド

「坊主から、何か連絡入ったか?」

069 リブレ

「ありましたよ。後で僕らが偵察に出るつもりでいたんですけど。寒いし、戻りませんか団長。まずは自分の心配をしたらどうです?」

 助言も役に立たなかったか、ブラッドは先に隔離棟に入って行った。隔離された棟の二重扉を開いた途端、茶髪の少女が顔を覗かせる。ブラッドの嫌がる顔が見られるだろうと、リブレもさり気に一歩後退いていた。

 脇から子供も顔を覗かせ、明るく振舞う。

070 ヌクリア

「ダンチョ、おかえりー!」

071 理紀

「あ、団長ー! 機体整備終わったよー!」

072 ブラッド

「イイコにしてたか、ヌク」

073 ヌクリア

「うん、ダンチョがいったとおりにしてた」

074 理紀

「団長、僕には? 僕だって団長の言う通りにしたのにー」

 返答がなかったのが不満だったのか、理紀が己を指差して妙な笑みを浮かべる。あまり乗り気でない様子でブラッドは素っ気無く答える事にした。

075 ブラッド

「おうサンキュ。で、何だって?」

076 理紀

「コストパフォーマンスを良くしたから、前よりちょっと省エネ設計でー……」

077 ブラッド

「お前じゃねェっつの、坊主だ坊主。坊主の話」

078 リブレ

「ちょっと困った事になってるみたいなんですよ。何でも姫が暗殺者を雇ったとか。そろそろ炙り出します?」

 足下の工具箱を引っくり返し、喰らいつく。

079 ブラッド

「なにィ! 姫さんが男と一緒だと? ちょっと待て、そこんとこ詳しく聞かせろリブレ! 姫さんに悪い虫でもついたら」

080 ヌクリア

「わるいムシって、なにー?」

 棚に乱雑に並べられていた書類が音を立てて崩れ、周囲は再びチリの山と化した。

 人気のない倉庫の中心に空の木箱を置き、その上にランタンだけを置いた薄暗い場所で、少年は少女に対して尊敬の眼差しを傾ける。

081 ジャスカ

「あの男が大人しく従うなんて、凄いです姫様……ああ、いや、藍羅様! つい癖で自分から姫だってバラしちゃうよ、もー……」

082 藍羅

「えっへへーそれほどでもー?」

 隅で麻袋の上に転がっていたレイジは、不快さを露わにしながらその場に丸まった。麻袋を山から一つ蹴り落とし、ささやかな八つ当たりをする。

 中身が派手に飛び散る音がし、背後で二人ともが揃って悲鳴を上げた。

083 藍羅

「ひぃ! ななな何!?」

084 ジャスカ

「ひッ……ちょっと待て、お前今何か蹴っただろ!」

085 レイジ

「良い気味だ、少し黙れ」

 零れ出た中身から意図的に視線を逸らし、レイジは再び二人に背を向けた。

 始めは穀物を詰め込んだ物だとばかり思っていた麻袋から、実際に転がったのは赤い錠剤だ。元々麻薬製造の工場だったのか、並べられている物を見ればそれとなく納得する事が出来た。

 ひそひそと声を潜めているつもりなのか、蛮猫の少年ジャスカは藍羅の方へ向き直る。

086 ジャスカ

「どうしよう姫様、アイツ怒ってますよ! 謝りますか!?」

聴覚を遮ろうと上着を頭から被ったが、全く意味を為さない。話を聞かずにさっさと出て行けば良かった事を悔いて、レイジはそのまま黙り込んだ。

 今からでも遅くない事に気が付き、銃とコートを手に立ち上がる。壊れかけのシャッターを開けると、より冷えた風が吹き込んだ。

087 藍羅

「外寒いわよー、ってホントに寒ッ、閉めて閉めて!」

088 ジャスカ

「いや姫様何言ってんですか、逃げられたら堪らないじゃないですか!」

089 藍羅

「ああっ、それもそうね! そうだったわ、逃げられちゃ堪らないわ」

 今にも撃ち殺してやりたい感情を抑えて、嫌々その場に押し留まる。レイジは溜め息をついて開きかけのシャッターを下ろした。既に外が暗かった事を知り、眠っていた時間の長さを悟る。

 藍羅は木箱の上に小瓶を置いた。足下の赤い錠剤と同じものが見える。

090 ジャスカ

「そういえば姫様。何故、交換条件が戸籍なんですか?」

091 藍羅

「普通の生活が羨ましい人だっているもんよ、アンタなら分かるでしょ」

092 ジャスカ

「あ、そうか……人間として扱われてなかったって、意味なのか……姫様、ちょっと外出てきます、すぐ戻りますから」

 急にしゅんとして少年は口を閉ざす。付け焼刃の同情を得たところで何ら嬉しくもない。

 横で曖昧に苦笑していた藍羅が瓶を指差してこちらに視線を傾ける。

093 藍羅

「これが何だか分かるかしら、赤い錠剤に緑のラベルの」

094 レイジ

「……CEROセロ、出元は軍か。どういうつもりで近付いた?」

095 藍羅

「これは今回気をつけて貰いたいもの。3年前逃げたサンプルって、レイジでしょ? あたしあの時、薬品の――こっちの方に関わってたのよ」

 アルフィタの暴動の際に見た物と同じだ。不意に頭上を何かが飛んでいるような気がして、上を向いた。

096 レイジ

「ここにも監視カメラがあるのか」

097 藍羅

「探せばそこら中から出てくるわ。密告主義のあり方が分かるでしょ」

098 レイジ

「クーデターも謀反も成立しないわけだ」

099 藍羅

「管理が旅団に一任されてるのが運の尽きでしょうね。彼らが敵じゃなければ良いのよ。敵、じゃなければ」

 祈るように呟き、藍羅はそのまま続けた。

100 藍羅

「レイジ自身の自由獲得の意味でも、悪くはないと思うんだけど……ってどこ行くのよ」

101 レイジ

「猫が外に居る気がしない」

102 藍羅

「どういう意味よ、それ。ジャスカー! ジャスカー?」

 呼びかけたところで返答はない。防寒具片手に、藍羅も立ち上がる。放っておける相手ではないし、ただでさえスラムの連中の反感を買っている。面倒な事に巻き込まれたら厄介だ。

103 藍羅

「レイジ、探すの手伝って」

 空気が冷えて重量を持ち、地面近くを漂う。一度は止んでいた雪が再び降り出したのか、頬に当たるコンクリートが嫌に冷えている。後頭部が痛み、横たわった状態の体から体温が奪われ、また痛みを知覚する。

 ジャスカは唐突に現実に引き戻され、顔を上げた。見慣れない場所に不安が過ぎる。

104 ジャスカ

「あれ、朝? え、ここ、どこ……」

105 賞金稼ぎ

「なんだァ? やっと起きたのか、重たくて敵わねェよ坊主」

106 ジャスカ

「ていうか、あんた誰……だって僕昨日外に出て……外に出て……アレ?」

 記憶を遡ろうとし、途中で全く覚えていない事に気がつく。そればかりか小太りの男に小脇に抱えられている有り様だ。

107 賞金稼ぎ

「オレ様はジャスティン・ジオン。で、アンタは獲物な。今時蛮猫なんてヨォ、いくらで売れっかな」

 男は金勘定を始めたのか、途中から話を聞いていない。

 不意に藍羅とレイジの事を思い出し、居た堪れない気分になった。藍羅に何かあってからでは遅い。男の腕を掴んで必死に抵抗する。

108 ジャスカ

「離せ、離せって。なんなんだよお前、何で僕ばっかりこんな目に……って、縄!? しまった逃げられない!」

109 賞金稼ぎ

「何がなんだか分からんが、運がなかったな坊主。世の中こういう事もあるもんよ」

110 ジャスカ

「何でこういう変な奴ばっかりいるんだ、スラムはー!!」

111 賞金稼ぎ

「どいつもこいつも食うのに必死なのさ。てな訳で、オレのために大人しく売り払われてくれ少年」

 瓦礫を突き崩す音が聞こえる。木製扉を突き破る音と共に、複数の足音が耳をついた。驚いて振り返った男に手を離され、顔面から地面に着地する。

112 ジャスカ

「いって――!! おい! もうちょっと丁重に扱え!」

113 賞金稼ぎ

「ヘイ! ヘイヘイヘイ、なんだお前らァ! どっから湧いて出てきやがったァ!」

114 フローズ

「意外だな、賞金首として手配されてるジャスティン・ジオンだ。どうする、リブレ」

115 賞金稼ぎ

「しかも女かよ! 足癖悪いな! 顔良くても行儀悪い女はモテねーぞ!?」

116 ジャスカ

「ノリ良いなアンタ……」

 瓦礫を蹴り倒してフローズは刀を振り下ろす。割り込んできたのが苦手な相手だった事に落胆し、ジャスカはむくりと起き上がる。

 賞金稼ぎの男はそんな事などまったく気にしない様子でフローズ達を指差して眉をしかめた。

117 賞金稼ぎ

「なんだなんだ、報奨金を横取りしようって輩かァ? そういやあ、オレの首にかかった額も結構イケてるもんだったな……」

118 フローズ

「しかも馬鹿ときた、……リブレ」

119 ジャスカ

「た、タスケテー」

 ささやかな悲鳴を上げて相手の対応を待つ。

 青髪の少女の後ろに立っていた優男が満面の笑みを浮かべて、歩み出る。

120 リブレ

「この紋章にも気付かないし、気に入らないし、その上泥棒扱いされてます。適当にっちゃっていいんじゃないですか? 僕が何とかします」

121 フローズ

「分かった、後は任せる」

122 賞金稼ぎ

「えっ……『分かった』じゃね――! ちょ、待って――!」

 鞘から刀身を引き抜く、重厚感漂う金属音が耳に入る。

 男は。

 中途半端に長かった髪を見事に刈られ、モヒカン頭のまま雪の降る路上に放り出されていた。

123 ジャスカ

「たっ、助けて貰ったのはお礼言うけど、アンタらこれは一体何の真似……」

 乱雑に絡められていた縄を解こうとしたフローズが触れる度に、益々悪化していく様子を見てジャスカは辟易した。食い込んで腕が痛む。

124 フローズ

「保護してやったのに、何て言い草だ」

125 ジャスカ

「だって余計に絡まってる! 解こうとしたんじゃないの!?」

126 リブレ

「うわあ、さっきのがまだ良かったかもしれませんね。仕方ない、切りますか」

127 フローズ

「最初からそうすれば良かったんだ」

128 ジャスカ

「ちょっ、ぞりっていったー!」

 余裕のある声音に顔面蒼白な状態で海老反る。取り出されたナイフが肌に食い込み、刃の冷たさと硬さを知る。妙な体勢で放置されていたためか首が痛む。

 窮屈な縄から解放され、ジャスカは安堵した。目の前に映る白コートと山吹色の腕章に再び驚愕する。

129 ジャスカ

「第12旅団の……」

130 リブレ

「どうもー。そうだ、忘れない内に回収回収」

 肩口に腕を伸ばしてきた青年の手の内に握られた、黒い小型カメラを凝視する。街中に設置されている物よりも遥かに小さく、今まで気付かなかった事もあって目の前が真っ暗になった。

 追っ手こそ、それこそ今まで誰も来なかったが自分から情報がだだ漏れになっていた事は否定できない。

131 ジャスカ

「小型の監視カメラ……え、だってそれ……」

132 リブレ

「気付かなかったんですか? 君が助かったのはこれあってこそですよ。ああ、あとこれも見ておいた方が良いですよ」

133 フローズ

「藍羅・レブナンス、生きたまま拘束する事。中央塔セントラル・タワーまで連れて来た者に報奨金1億」

 差し出されたポスターに目を通したが、数字以外の字が分からない。顔写真と数字の羅列からそれが不吉な物である事を察し、慌てて地面に手を付いた。

134 リブレ

「生死不問みたいな感もしますけどね。どこからそんな金が出せるのやら」

135 ジャスカ

「じゃあさっきの、モヒカン放置プレイの刑の男は……」

136 フローズ

「どうだろう。アイツは単に金に目がないだけかもしれないけど」

137 リブレ

「まあ分かるのは、閣下は僕らの事信用してないって事ですよ。だから僕らは僕らでやります。貴方が姫を守りたいと思っているように、ね」

 どちらの味方か得体の知れない青年を睨みつけ、ジャスカは立ち上がる。信用ならぬ旅団に任せるくらいなら、まだレイジの方がまともに思えた。

 藍羅には自分がついていないと安心できない。

 リブレが手にしていた無線からノイズが聞こえ、目を丸くする。

138 リブレ

「と、いうわけで団長。周囲を探してみて下さい、貴方が必死で探している彼も見つかるはずですよ」

139 ブラッド

『えー俺がやんのーめんどくせー運転手ヘイズ貸してー』

140 リブレ

「何言ってんですか、そっちには機械エキスパートの理紀がいるじゃないですか」

141 ブラッド

『勘弁しろよ、お前さん何か俺に恨みでもあんのか?』

142 ジャスカ

「それ寄越せッ」

143 リブレ

「おっと、危ない危ない」

 奪おうと手を伸ばしたが、案の定あっさり避けられる。そのまま前方に突っ込み、バランスを崩してこけた。

 様子を見かねたフローズが溜め息をついてリブレの手から無線を奪う。

144 フローズ

「文句一つくらいなら、言わせてやっても良いだろう」

146 ジャスカ

「あ、ども、スンマセン」

147 フローズ

「勘違いするな、別にお前のためじゃない。いつまで経っても仕事しない人がいるからな」

 視線を逸らしたフローズに対し、好意なのか、ブラッドへの嫌がらせなのか、どちらとも取れない言葉にジャスカは首を傾げた。

 受け取った無線を両手で掴んで声を張り上げる。

148 ジャスカ

「やいブラッド・バーン・ブレイズ! ちょっと!」

149 ブラッド

『恨むなよジャス坊、お前さんが悪いんだ。守りたいなら目ェ離すんじゃねえってな!』

150 ジャスカ

「先に言われたしー!!」

151 リブレ

「ま、そういう事ですよ。僕らも軍人ですから」

152 ジャスカ

「くっそ、お前ら姫様側の人間じゃなかったのかー!」

 一言だけ吐き捨てて途切れた無線に八つ当たりし、地団駄を踏む。嫌な予感が払拭しきれず、藍羅を発見されているという選択肢に行き着く。

 ジャスカは打ち破られたままの戸を踏み、冷える外へと駆け出した。

153 フローズ

「始末しなくて良いのか?」

154 リブレ

「泳がせておけば良いんですよ。どうせ大した事はできそうにないし」