GUNBURST

ACT01 Sid Vicious [ burst_01 ]
No. キャラ 台詞、状況

 声は遠巻きに唸る。無機質な駆動音に乗せて、水泡の割れる音が耳を突いた。冷えた床を歩く湿った音を引き摺って、少年は凶悪な笑みを浮かべた。

001 アルフロスト

「……なあ。お前が、元凶だよな?」

002 サージェ

「鋼鉄の意志のお目覚めか。……世も末だな」

 赤髪の少女は、少年アルフロストの痛々しいまでの姿を認めて、苦痛を吐き捨てた。眉を顰めて視線を逸らし、俯く。

003 アルフロスト

「逆悪はどうするつもり? このまま放置しちゃおけないだろ。でもさ、アンタ。殺す気なんて、更々ないようだし。殺す勇気もないよなあ」

 小馬鹿にした態度で卓上に手を付き、アルフロストはサージェの顔を覗き込む。酷く怯えた様子でサージェは退いた。

004 サージェ

「アレと同じ顔でそういう事を言うな」

005 アルフロスト

「俺をこうしたのはアンタ自身だよ。俺はこんな事になるなんて、思ってなかった」

006 サージェ

「それに関しては……すまなかった、でも」

007 アルフロスト

「許されると思ってるワケ。俺は騙された、アンタらレブナンスに。アンタは従った。お偉いさんの命令だから?」

008 サージェ

「否定しない。お前には悪い事をしたと思ってる」

 青褪めた顔でサージェは目を瞑った。

 耳障りな高音が脳に直接響く。アルフロストはこちらを指差して、意地の悪い子供のような嘲笑を浮かべた。意識は相変わらず遠退いていたが、はっきりと認識できた。

 それは悪意だ。

009 アルフロスト

「だったら! コイツは何だ、コイツも俺と同じだろう!」

010 サージェ

「……違う、お前とは違うんだ。お前は人間だ」

011 アルフロスト

「よーく聞けよ、責任者様よ」

 唐突に冷めた声音で、アルフロストは吐き捨てた。

012 アルフロスト

「楽観視ってのは現実受け止めた上でなきゃ、できねンだよ」

 醜悪なまでに生に執着した人間。劣悪な憎悪を撒き散らして、少年の姿は見えなくなった。同時に意識を後方へ引き摺られる。

013 レイジ

「……アルフロスト!」

 引っ張られるように飛び起き、急激に明るくなった視界に目が眩む。視界を割った光とともに、前方に何かが飛来した。

014 レイジ

「うっ……」

015 サージェ

「だっ……大丈夫か?」

 板のような物にぶち当たり、視界が横転した。反動で寝ていたらしい場所へ、再び横になる。痛む額を押さえたまま視界を巡らせると、見覚えのある女の姿が隅に映った。

016 レイジ

「3年前、アルフィタにいた医者か……?」

017 サージェ

「私の思い違いじゃなければ、多分そうだ。よく覚えてたな」

 女医は微かに感嘆の色を浮かべて、同時に安堵の溜め息をついた。

 研究施設を脱走した後だ。逃亡先で出くわした医者が今目の前にいる。忘れ様もない、左右違った色の眼が微笑に歪む。

018 サージェ

「あれから3年だぞ。アルフィタは事実上レブナンスの管轄下に置かれてしまったし……一体、どこにいたんだ?」

019 レイジ

「お前には関係ない。何故、ここにいる」

020 サージェ

「偶然通りすがっただけだよ。そこで行き倒れてたから、せめて起きるまではと思ってな。そのままにしておいたら凍死するだろうし」

021 レイジ

「最悪だ……」

 ぽつりと独り言を呟き、溜め息をついた。頭が痛い。

 ここ最近、途中で記憶をなくす事は最早珍しくない。いつから眠っていたのか記憶にないと言う事は、またどこかで倒れたのだろう。見覚えのない倉庫の中は、使われた様子もなく酷く寂れていた。

022 サージェ

「こんな衰弱振りでは、長い事何も食べてないんじゃないか?」

023 レイジ

「余計な事を……貴様には関係ない。失せろ、目障りだ」

 軽い眩暈がする。額をぶつけた痛みから来るものではないように思えた。ゆっくりと立ち上がり、動く事に支障がないと確認すると、レイジは外套代わりの灰布を頭から被った。

 多少でも、目立つ髪色を隠すには役立つだろう。不意に視界を横切った灰と黒の影に、腹の底から冷える、不気味極まりない感覚が全身を襲った。

024 レイジ

「……女、一つ聞きたい事がある」

025 サージェ

「どうぞ。私に答えられる事ならば」

026 レイジ

「お前、軍を追われているのか」

027 サージェ

「何故そう思う?」

028 レイジ

「外に来客がいる」

029 サージェ

「来客なんて、どこに……まさか旅団ではあるまいな……」

 女医・サージェの声が消え入るように静寂に掻き消された。恐怖に滲んだ声色と、ゆっくりと迫る硬い足音。

 咄嗟に身を翻し、廃棄されたクレーンの裏へ隠れた。懐を探り、銃弾を漁る。弾倉にカートリッジを詰めながら、外の気配に注意を凝らした。

030 サージェ

「ちょっ、待て。隠れるなんてずるいぞ」

031 レイジ

「軍なら始末してやる」

032 サージェ

「……囮になれというのか、私に。時間稼ぎにもならないぞ」

 躊躇い気味に肩を竦めてサージェは表へ向き直った。

 冷えた夜風の吹き込む半開きのシャッターから覗いた少年は、着慣れない軍服を着た子供といった雰囲気だ。

033 レイジ

「レブナンスの軍服……腕章がない?」

 無意識に呟いた。

 実力を重視する余り固定観念のなくなってしまった国の事だ。年齢的には、子供であっても何らおかしくはないが、左肩に腕章がない。

 正規の軍人ではない。偽装しているにしてもお粗末だ。子供は嬉々としてサージェに尋ねた。

034 ジャスカ

「やっと見つけた。貴方がサージェ・クライナですね?」

035 サージェ

「違う、と言ったら?」

036 ジャスカ

「記録に写真があるから本人だって分かりますよ。あ。安心して下さい、別に捕えるつもりじゃないんで」

037 サージェ

「わざわざ軍服を来て……階級詐称か、お前は確か隷下れいかじゃなかったか」

038 ジャスカ

「この方が楽かと思って。人探しに協力して貰いたいんです」

 鉄越しに銃を構えた。必要になればいつでも撃てる。

 軍服に着せられている少年は、声音を落ち着けて続けた。

039 ジャスカ

「ええと、探し人は鐵零仕クロガネ・レイジっていうんです。確か、条件次第で暗殺を請け負っている……」

040 サージェ

「知らないな。他を当たってくれないか」

041 ジャスカ

「嘘ついてますよね。3年前のアルフィタと、ここ最近で目撃者がいます。彼に頼みたい事があるんです。居場所、喋って貰えませんかね」

 引き金から指を離す。目を瞑り、己の悪運を呪った。

042 レイジ

「とことんツキが向いてないようだな……」

043 レイジ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第二章 GUNBURST、ACT1「Sid Viciousシド・ヴィシャス

 極寒の軍事大国が色鮮やかに彩られる。国王自らが歓迎に当たり、豪勢に持て成している。こんな珍事は過去数回もなかった。

 背筋を伝う得体の知れない寒気に見を竦め、藍羅・レブナンスは賑やかな待機室の入口付近にいた、黒髪の東国ブライガの大使を捕まえる。

044 藍羅

「……あの、ちょっと良いですか」

 出来るだけ声を潜めると、振り向いた大使は、にこやかに頭上に浮かべたハテナを揉み消した。

045 大使

「おや、藍羅姫君ではありませんか。益々お美しくなられた。亡きブライガの姫君、麗羅レイラ様によく似てらっしゃる」

046 藍羅

「はあ、どうも。……ちょっと、お願いがあるんですけど」

047 大使

「今日は閣下主催のパーティです。姫君の頼みとあれば、何なりと」

 優雅な振る舞いに思わず口を噤んでしまった。それどころではない。彼らは誰一人として、これから行われる事に気がついていない。

 緊張の色濃い声を震わせないよう、大使の耳元で呟いた。

048 藍羅

「大使、お願いですから一刻も早く逃げて下さい。そして身を隠すよう、絶対表に出て来ないように」

049 大使

「面妖な事ですね。何故です?」

050 藍羅

「これは、決して歓迎すべきパーティではない」

051 大使

「ほう、それは?」

 ゆったりとしたペースに巻き込まれないよう、慎重に言葉を選んだ。

052 藍羅

「……会場へ一歩踏み込めば、首を撥ねられます。父上は諸侯への復讐の機会を待ってたんです」

053 大使

「姫君は面白い事を仰られる。私がいかに国に尽くしているか、ご存知でしょうに」

054 藍羅

「私を信じてもらえませんか。一人でも、多く、逃がしたいんです」

055 大使

「お気を付け下さい、姫君。それは謀逆ぼうぎゃくと取られても仕方のない発言にあります」

056 藍羅

「大使……!」

 決死の訴えも、趣味の悪い冗談だと思われている。大使は苦笑を浮かべ、一礼した。結局彼も止める事は出来ない。

057 大使

「では姫君、また後ほど」

058 藍羅

「駄目、大使! 大使!」

 生粋の貴族独特の優雅な足取りで、会場へ背を消す。自分と実行部隊しか知らない、その扉の向こう。渇いた足音と相反する、ねっとりとした残虐の剣劇。

 思わず手を伸ばし、後を追おうとして何者かに肩を掴まれた。

059 ブラッド

「追うな、藍羅」

060 藍羅

「ブラッド!? アンタ今までどこに……」

061 ブラッド

「静かに。怒ンなよ、俺だって姫さん探してたんだぞ」

 いつになく真面目な表情で、友人は呟いた。微かに顔色が悪い。正装で佇む友人は、静かに手を離し溜め息混じりに続けた。

062 ブラッド

「一歩向こうは皆殺し会場。金かけて何かと思えば最後の晩餐ってな、……趣味悪いな」

063 中将

「ブラック・ディナーは如何かね」

 ブラッドとは対極的に、冷えた声音で白髪の男が歩み寄る。咄嗟に口を噤み、押し黙る。

 彼はブラッドよりも階級が上だ。国王に近い分、今何をしていたか密告される可能性だって充分に考え得る。

064 中将

「少将、持ち場を離れて何をしている」

065 ブラッド

「離れちゃいませんよ。俺の仕事は姫の護衛ですから」

066 中将

「……ふむ、そうだったな。時に、アナレス元大尉は元気かね」

067 ブラッド

「相変わらず憎ったらしい口を利きますよ。彼は有能です。話を戻しますが中将、流石にこれは……俺には正気の沙汰とは思えません」

068 中将

「確かに血生臭いな。これには私も、ぞっとしないがね」

 凍てつく白銀しろがねの双眸と、隣に立つブラッドを交互に比べ見た。アイザック・レブナンスの凶行に、互いに辟易している様子は見て取れる。

 後ろ手を組んで中将はこちらを見据える。

069 中将

「姫君、閣下がお呼びです。迎えに参りました」

070 藍羅

「……父様が? 今?」

071 中将

「お咎めの一言かもしれませんね」

 こんなに早く見つかるとは。国王の機嫌と、事と次第によっては死刑も免れない。軽く背を叩かれ、金髪の男を見上げた。

072 ブラッド

「行けよ、俺もついてく。護衛だからな。まあ親馬鹿閣下に限って、そう酷い事はしねェだろ」

 正直行かせたくないと顔に油性マジックで書いてあっても、何らおかしくないような、苦い表情を浮かべていた。

 足下から放たれる暖気に膝が緩む。先を歩く中将に歩調を合わせ、後をついてくるブラッドに気を配った。万が一の時は彼が口を挟んでくれるだろう。根拠なくそう思えたことに疑問はなかった。

 薄暗い空き部屋の先に、姿勢正しく並ぶ兵士。薄く照らされたカーキの軍用コートの向こうに、国王はいた。

生きた心地のしない部屋は、死人の棺桶ではないかと疑う程だ。ゆっくりと振り返って栄華と退廃を極めた愚帝は口を開く。

073 アイザック

「先程、何をしていた。藍羅」

074 藍羅

「何のことですか。やましい事はありません」

075 アイザック

「余計な手出しは無用だ。根も葉もない事を、諸侯に吹き込んでいたそうではないか」

 凡そ温情という物が欠落しているように思えるこの男との遣り取りには、毎度ながら肝が冷える。拳を強く握り、吐き出した。

076 藍羅

「一国の国王が、口封じをなされるおつもりですか。隠匿したい事でもあるんですか、父上」

077 中将

「口が過ぎますよ、藍羅様」

 後方からも温度のない声が響き、ブラッドの方を一瞥した。無駄に真っ直ぐな彼も、今突っ掛かる気はなさそうだった。

 残忍な国王は、見下すような視線を傾け短く告げた。

078 アイザック

「街でお前の猫を見たという人間もいる。……お前は追放だ。死刑ではない事を喜ぶが良い。早々にここを立ち去れ」

079 藍羅

「……謹んでお受け致しましょう」

 最早何を言っても彼には通じない。頭を下げ、ただただ重さを感じる。ゆっくりと前を見据えて顔を上げた時には、何も分からなくなっていた。

 こんな暴虐な父親でも、少なからず好いていた事を実感した。

080 藍羅

「さようなら、父様」

 凍える大地を境界線に、夕闇の紅蓮に染まる空を静かに見渡した。着込んだ白灰の軍服も、極寒期となっては冷気が滲む。澱んだ空気さえもが刺すように痛い。

 裏門の前に、門衛の代わりに立っている部下を認めて苦笑した。

081 リブレ

「お勤めご苦労様です、少将閣下」

082 ブラッド

「やめれ、お前に閣下言われると気持ち悪い。そんな事よか、この寒い中待ってたのか、リブレ。お前も大概馬鹿だな」

083 リブレ

「上官が馬鹿だと、部下まで馬鹿になりますからね。その所為でしょう」

 満面の笑みで、凶悪な皮肉を口にする。腹の底が冷える感覚を覚えた。心なしか青褪めた顔の藍羅に視線を配り、ぽんと頭を叩く。

084 ブラッド

「姫さん、落ち込むこっちゃねェぞ。一応巡回にかこつけて様子見に行くからさ」

085 藍羅

「何言ってんの馬鹿。これでアンタ達、やりやすくなったでしょ?」

 脛を蹴られ、バランスを崩す。

 また随分な強がりだ。弱みを見せない少女は常に気丈でいたがる。

086 ブラッド

「ああ、まあ、うん、まあね。はァー……ヤダなァ」

087 藍羅

「何よ、落ち込んでんの? 気持ち悪いわね」

 がっくりと肩を落とす大男の傍らでリブレが苦笑する。動き易い軽装だからこそ、寒さが身に染みた。

088 リブレ

「ちょっと疲れ気味なんですよ。下らない事で」

089 藍羅

「へえ、下らない事ね」

090 ブラッド

「下らないとは何だお前ら。いやァ……ちょっと、はは、ウチの新入りがな、猛烈アタック仕掛けてくるわけでして……」

 自嘲気味に言を溢す。げんなりとした様子から、その度合いは分かる。聞いて損したという気分になるのは、何故だろうか。時間の無駄でしかないと思った。

091 藍羅

「新入りって、旅団第一希望で入ったっていう、風変わりな子でしょ? まあ、ガンバッテ」

092 リブレ

「駄目ですよ姫様、心にもない事言っちゃ失礼ですよ」

093 ブラッド

「お前さんが一番失礼だよ。何で俺の部下は皆、上司を労わってくれないのかな……」

 門に寄りかかり、ブラッドは外を眺めた。雪こそ酷くはなかったが、やがて日が沈み、冷え込みの厳しい夜になる。

 加えて、仮にも皇女だというのに供が一人もいない状態で放り出すのは、心穏やかではない。

094 ブラッド

「見送り、ここらで平気か? 俺は見張りついてっから無理だけど、誰か代わり行かせてもいいんだぞ」

095 藍羅

「大丈夫、ジャスカと落ち合う事になってるから」

096 ブラッド

「あのヘタレ猫連れてくのか?」

097 藍羅

「逆に置いてきたら、何されるか分からないもの。少しは役に立つでしょ。で、アンタいつまでグズグズ落ち込んでんの? 似合わないからいい加減にしなさいよ」

098 ブラッド

「いやホント、マジ勘弁してくれ。アイツだけはどうにも苦手なんだ」

 実に見慣れない図だ。幼い頃からの付き合いだが、興味あることと言えば戦争の事ばかりだった。それが部下の少女に振り回されている図ともなると。

 面白おかしくて想像がつかないといったところか。リブレにとってもそれは同じようではあったが。

 唐突に思いついて、背後から思い切り背を蹴った。頑丈な体躯がバランスを崩して、雪の上を住反する。

099 ブラッド

「うおッ、おまっ! 何すん……こんな不意打ち、今時ゲリラ部隊もしねェぞ!」

100 藍羅

「精々上手くやんなさいよ」

101 ブラッド

「上手くって、何、どっちを?」

102 藍羅

「制圧に決まってるでしょ。他に何があるのよ」

103 リブレ

「思ったより重症みたいですね……」

 本来の仕事を忘れて悩みふけっているつもりなのか。国王の悪政から逃れるためには、どれだけ時間があっても足りないくらいだというのに。

104 リブレ

「団長、忘れ物があるんじゃないですか?」

105 ブラッド

「ああそうだ。姫さん、これ持ってけ」

 懐を探り、硬い物体に指が触れたところでそれを掴む。黒いカードの束を藍羅に放り投げ、慌てて受け取る様に苦笑した。

 藍羅はぎょっとしてそれらを確認する。

106 藍羅

「何よこれ、ほとんど防御魔法じゃない。嫌がらせ?」

107 ブラッド

「護身用に決まってンだろ。これでもし俺が出向くハメになったら、姫さん相手でも手加減できるか分かんねェし」

108 藍羅

「アンタ、ホンットにあたしに甘いわね。自分の心配はしなくていいの?」

109 ブラッド

「あー……アルフィタの件から、ジジイどものお目付けヒデェしな。姫さんが抵抗したって事にしておけば、言い訳もできるだろ」

110 藍羅

「……そう。じゃあ、そろそろ行くわ」

111 リブレ

「お気をつけ下さい」

 潔く居城を去る背を見送りながら、後方へ近寄ってくる気配を悟った。本来なら気分に従いたいところだったが、相手が相手だ。改まる。

112 ブラッド

「これで宜しかったんですか、国王閣下。追放で大人しくしてる娘には、思えませんけどね」

 白雪に埋もれる足跡を眺め、暴君は溜め息をついた。

113 アイザック

「判断が甘かったかな」

114 ブラッド

「処分ですか、それとも皇女の行動ですか」

115 アイザック

「処分だ。アレの行動は大体読めている。下らん正義感に駆られただけで動ける娘ではあるまい」

 よく理解っているのか、単なる当てずっぽうなのか。あまり気にかけていない割に、妙なところで娘の事をよく見ている。

 急に老いた素振りで遠方を見張る国王に、リブレは一礼した。何か考えのある顔だ、と直感する。

116 ブラッド

「先手に回りますか? 何か起こされた後では面倒も考えられます」

117 アイザック

「そうだな、お前の言う通りかもしれん。あの娘に力をつけられても後々面倒だ」

118 ブラッド

「では旅団を出しましょう」

119 アイザック

「いや、お前はいまいち信用できん」

 この、釈然としない奇妙な違和感は何だ。自問する。

120 アイザック

「いっそ、殺してしまうべきなのかな……」

 うわ言のように呟かれた言葉が、時間を得る事で徐々に現実味を帯びる。怒りなのか。それともまさか、これも愛情の内だと云うのだろうか。

 頭に血が上りそうになる感覚を抑え、顔を上げた。

121 アイザック

「会場の処理はお前に任せる、ブラッド」

 国王の、中央塔に戻る足取りが重たい。

 流石のリブレも苦笑すら浮かべていなかった。曖昧に視線を寄越して押し黙る。やっとの事で発したのが、安堵の溜め息だった事には意外な反応を見た気分になった。

122 リブレ

「厄介な事になりましたね」

123 ブラッド

「……くそ、あのじーさん。とっとと引退してくんねェかな」