GUNBLITZ
ACT06 SABBATH [ blitz_06 ]

No. キャラ 台詞、状況

 瓦礫の影に埋もれて姿を隠していたつもりだった。

 そこが安全でないと事前に知っていたから、乗り気でない幼馴染も無理矢理引き摺って逃げようと思った。

 そうでもしなければ、彼女はまたフラフラとどこかへ消えてしまいそうな気がした。寂しがり屋のくせに一人でいたがる。そんな世話の焼ける気質だと、よく知っていた。

001 シエル

「スヴェルの奴、珍しく気前が良かったな」

002 理紀

「何がー?」

003 シエル

「報酬が割に合わない。情報量の割に、貰った物が多い気がする」

004 理紀

「おまけしてくれた、って事はないかな」

 本当にそう思っているなら、スヴェルの意図するところを裏切る事になる。手に入れた缶詰の量がいつもより多かった。

 その理由は薄っすらと実感していた。

005 シエル

「相手はあれでも商人だぞ、そんな簡単におまけつけると思うか? アイツはこうなる事予想してたんじゃないかと思うね、俺は」

 小走りに、それでも持てるだけの食料を持って出てきた。逃げるのに邪魔にならないだけの、最小限の荷物を。

 理紀は浮かない顔で、呟いた。

006 理紀

「ヤダなあ、また皆いなくなっちゃうのかな……」

007 シエル

「誰もそんな事は言ってない。そんな顔すんな。鬱陶しい、滅入る、やめろ、お前が気にする必要はない」

008 理紀

「シエル必死だね」

009 シエル

「煩い。唯一の身寄りだって事、ちょっとは自覚しろ」

 幼馴染が唯一、自分が幼い頃から知っている人間だった。孤児院の連中は皆先に消えてしまった。惨状を目の当たりにしても、驚きこそすれ、冷静な判断を下す事しかなかった。

 理紀は混乱した街の中でも他人を気遣って笑顔を見せる。自分よりも幼い彼女が無理をしてるのだから、自分が負けてやるわけにはいかない。

010 シエル

「理紀、前方注意!」

011 理紀

「うわっ」

 遥か上の方から何かの崩れるような音を耳にし、慌てて腕を掴んだ。手前に引かなければ、鉄骨の下敷きになっていただろう。

 尻餅をついた理紀を立たせてやろうと手を伸ばす。前方に、軍服を纏った男の姿があった。剣を手に、周囲の瓦礫を崩して道を作る。

 親切で済む一言も、この場では違和感を覚えた。

012 理紀

「あぶなー、シエル助かった。……シエル?」

013 シエル

「白い軍服……旅団だ。潰れたと思ってたけど」

014 理紀

「あ、ホントだ、人がいる。今まで僕ら以外誰も見かけなかったけど。瓦礫、のけてくれてるのかな」

 理紀は立ち上がり、ひょいと手を掻い潜ってその男に近付く。危機感がない、と常々思う。

015 理紀

「おにーさーん、すみません僕らすぐ通り抜けられるんで、わざわざそんな……」

 がら、と何かが崩れる音がした。気がした。まさかと思って上を向く。

 そのまさかだ。そう距離のない高さでまた崩れ落ちてくる。それも、このままでは下敷きになりかねない、最悪の位置で。

016 シエル

「理紀、避けろ!」

017 ブラッド

「……子供!?」

 当たる、と思った。駆け寄ってやれなかった事を不思議に思う。光景は予想できていたのに、足が動かなかった。

 派手な倒壊音に続いて爆発の音が轟く。粉塵に塗れて再び姿を現した影に、安堵した。

018 理紀

「うーわー……もろ直撃するとこだった」

019 ブラッド

「タイミング悪いな、お前さん怪我ないか?」

 きょろきょろと辺りを見回し、理紀は笑む。

020 理紀

「ないッス、有難う御座います!」

021 シエル

「軍人が何やってるんだ?」

022 ブラッド

「お、可愛く無さそうな小僧だな。軍に迷惑かけそうな奴がいるから、せめて民間逃がせる道作ってるんじゃねえかよ」

023 シエル

「……それだけ?」

024 ブラッド

「おう、そんだけ。街の外に救助が出てる、逃げるならそれ目指してけ」

 それだけ言って、金髪の軍人は街の中へと入って行った。気紛れなのか、生真面目なのか、そのいずれにも該当しないような気もしたが、変わった奴もいるものだと思った。今の軍が荒れに荒れている事を、情報屋として知っていた。

 呑気に見送りに手を振っている理紀の頭を小突く。先程の爆破で周囲の瓦礫なんてほとんど撤去の必要が無い程、崩れ落ちていた。

025 シエル

「なにやってんだ、軍がそこまで来てるって事だろ。急ぐぞ」

026 理紀

「すげー、カッコイイー! なにアレ!」

 少女が感嘆の悲鳴を上げる。つい先程まで危険区域にいたにも関わらず、この軽快な行動に移れる余裕は一体何だと云うのだ。

 無意識に駆け出していた自分に、理紀はその調子でついてきた。帽子を手で押さえ、障害物をひょいと避ける。

027 シエル

「逃げ遅れるなよ」

028 理紀

「大丈夫ー、僕が足速いの知ってるでしょ」

029 シエル

「アイツが助けてくれなきゃ、今頃下敷きだったろうが、ばーか」

030 理紀

「言ったなー!」

031 シエル

「何怒ってんだよ、事実だろ。それにしても、軍にああいうのがまだいるとは、思ってなかったな……」

 街を襲っているという破壊魔。先程の爆破を見て彼がその張本人だと確信した。噂とは違っている気がしないでもない。少なくとも、民間人に気を遣っているように思えた。

 でなければ今頃理紀は生きていない。

032 理紀

「ああいう軍人になら、なりたいなー」

033 シエル

「俺は軍人嫌いだぞ」

034 理紀

「冗談だって。でもシエルはもう15歳越えてるから、志願できるんだよね」

035 シエル

「……理紀?」

 冗談と言っておきながら、自ら否定しているようなものだ。本当にその気なら恐らく自分に止める手はない。

 不意に、目の前が赤く染まった気がした。

036 シエル

「……ッちょっと、歩調緩めてくれないか。ああ、いや、いい。大丈夫」

037 理紀

「シエル?」

 背中が熱い。足が痛む。膝から下が、急にどこかへ持って行かれたような不安。何が何だか分からない。知らぬ間に撃たれたのか。可能性としてはそれが一番大きい。

 あまりの痛みに足を止めた。不安そうに理紀が顔を覗き込む。

038 理紀

「シエル、顔色悪いよ」

039 シエル

「ひでえ顔、泣きそうになってんの」

 頭の中が真っ白になっていく様を、別の自分が遠巻きに傍観しているような感覚があった。荒くなった呼吸を整えようと腹に手を当てた。

 次には赤く染まった指先が見えた。

 撃たれたのだと、理解した。痛みに膝を折る。

040 理紀

「何で言わなかったんだ、撃たれてる!」

041 シエル

「いや大丈夫だから、そんなに騒ぐな」

042 理紀

Gv#002グラヴィティ・コード2、重力フィールド展開! Gv#004グラヴィティ・コード4、重力付加3倍! シエル……死んじゃ、駄目だ!」

 理紀は敵が潜んでると思われる場所を見回し、自分達周囲に重力負荷をかけた。咄嗟の判断力と行動力は、こういった環境で育ったからこそのものかもしれない。

 向かってきた弾丸が周囲数メートルのところで突然落下する。重力に負けて地面に落ちた。

043 理紀

Et#016アース・コード16、バルジ!」

 地鳴りがした。彼女が起こしたものだ。

 段々意識が遠退いて行く。まだ死ぬ訳にはいかない。必死に明るい方へと手を伸ばした。

044 理紀

「シエル、持ちこたえて! 今止血するから!」

045 シエル

「……寒い」

046 理紀

「シエル!」

 理紀の声が、酷く遠く聞こえた。それが最後だった。

047 ブラッド

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第一章 GUNBLITZ、ACT06「SABBATHサバト

048 ブラッド

「なんだァ、地震か?」

 微かに足下に揺れを感じ、ふとこの辺りでの地震は極稀なものだと思い出す。ならば人為的なものだ。

049 レイジ

「何かあったな」

050 ブラッド

「あちこち倒壊してるから頭上注意だな、ここらは何ともねェみたいだが」

051 クイーヴ

「この辺りで地震なんて……天変地異でもなきゃ、有り得ない事だぞ」

052 ブラッド

「その天変地異が起きたってこったろ、じゃなきゃ、こりゃ魔法だな」

 広場の上空が開け放たれている事が幸いした。広場に留まる限り、頭上の心配はいらない。

 ブラッドとの距離を取る。このまま間合いを詰められれば、向こうの方が有利だ。放ったホバーから予備の銃弾を取る。

 間髪入れずブラッドに銃口を向けた。

053 ブラッド

「さっきの狙撃の結果を見ておいて、まだ撃って来る気か」

 瞬時に間合いを詰められた。踏み込む一歩が大きいのか、思った以上に距離が縮む。加えて刀身。

 重たい剣撃は受け止めたが、大剣の刃に気を取られ、腹部に掌底を喰らう。

 脇腹を押さえて咳き込んだ。攻撃一つ一つが重たく体に響く。

054 レイジ

「……ハ、馬鹿力め」

055 ブラッド

「へえ、反撃するんだ、死にたがりのくせに。俺に殺されるのは、そんなに嫌か」

056 レイジ

「当然だ」

057 ブラッド

「あ、即答だ。ちょっと傷付いた!」

058 クイーヴ

「なんなんだコイツは」

059 レイジ

「知るか」

 軍人らしかぬノリと対応に、半ば呆れた心地で溜め息をついた。この男に殺される、とは考えられない。相手が本気であればともかく、戯れにも等しい。

 もしくは、戦闘行為自体が遊びと変わらないというのか。

060 レイジ

「片付けるんじゃなかったのか……」

 時々揺れる足場にバランスを崩し、迷わず向けてくる切っ先を受け流すだけで精一杯だ。それは相手も同じ事だが、撃ち返した分はほとんど暴発させられている。

061 クイーヴ

「……僕が援護する」

062 レイジ

「無駄だ、見てなかったわけじゃないだろう」

063 クイーヴ

「それでも、支援がないよりはマシだと思わないのか?」

064 レイジ

「ない方がマシだ」

 ライフルを手に、構えようとするクイーヴに向けて吐き捨てる。

 この状況ではまともに標的を定めるだけで、やっと。未だ続く地鳴りを考えれば、何が起こるか分からない。

065 ブラッド

「地鳴りが酷くなってきたな……」

066 レイジ

「お前、ヘイズを連れて立て」

067 クイーヴ

「今更、逃げろとでも言うつもりか」

 倒壊寸前の瓦礫が崩れ落ちる。広場の中央、地面が唐突にせり上がった。単なる地震ではない、石畳を割り、地面は不自然に隆起した。

068 クイーヴ

「うわ、足場が!」

069 レイジ

「だから立てと言っただろう」

 苛立ち気味に、近寄って腕を引いた。元いたところは既に、遥か見上げる高さにまでなっている。金髪の男、ブラッドは恐らく目の前の岩壁の向こうにいるのだろう。

 クイーヴの脇に転がされていたヘイズが、頭をふらつかせながら辺りを確認し、額を押さえていた。

070 ヘイズ

「……何が起きてるんだ? 何の騒ぎだ、これは」

071 クイーヴ

「気が付いたのか、ヘイズ。状況は、僕にもよく分かってないんだけど……どこかで小規模な地殻変動の魔法、使われたみたいだ」

072 ヘイズ

「そんな事できるような奴がいりゃ、俺らが気付いてないわけが」

073 クイーヴ

「なら、軍しかないじゃないか」

074 ブラッド

「いや、軍じゃない。少なくとも俺は、こんなスゲェ事できる奴を知らない」

 壁向こうから、微かに苛ついた声が聞こえた。狂った景観の所為で、距離感が掴み難い。状況はあまり好ましくなかった。

 大剣を地面へ突き立て、ブラッドは毒づく。

075 ブラッド

「畜生、『時間切れ』だ。これじゃあ下手に動けねェな」

076 レイジ

「好都合だ」

 段差に足をかけ、岩場を登った。見晴らしの良い頂上に立つ。岩陰には、半ば諦め気味のブラッドが立っているのが見えた。

 その足下を狙って引き金を絞る。

077 ブラッド

「ちょっと、やめろ、やめろって! おまっ、嬲り殺しにでもする気かコラ!」

 数発撃ってみたが、暴発させる事もなく数歩後ろへ退がって弾丸を避けるだけだった。やはり己の身を守る為とは言え、爆発を起こすにはある程度周囲に距離が必要なようだ。

078 ブラッド 

「ああッ、そうだ、待て待て待て! また俺の所為になるじゃねェか、街頭破壊で始末書だァ!? 俺の所為じゃないだろ! お前さんも撃つな! 銃弾が勿体無い!」

079 レイジ

「何の事か知らんが、お前が起こした被害の分、きっちり払わせて貰うぞ」

080 ヘイズ

「あの白いの、案外えげつないな」

081 クイーヴ

「流石に無抵抗の人間は撃たないだろ、普通は……」

 コードのプラグを片手にブラッドが慌てる。彼に限らず、好き放題混乱を起こしておいて、今更そんな些細な事を気にするのか。

 がっくりと肩を落とし、ブラッドは踵を返した。背後にあった岩を砕き、こちらを指差して半ば自暴自棄の叫びを上げる。

082 ブラッド

「ああもう、やめた! よく聞け、白い魔人。今はお前を『逃がして』やる。次会ったら容赦しねえ、そこんトコよっく覚えとけ」

083 クイーヴ

「ま、負け惜しみなのか、アレ」

084 レイジ

「お前の目は節穴か。アレのどこが本気を出してたように見える」

 流石にクイーヴの目から見ても、それくらいは分かるだろう。すごすごと去ろうとするブラッドの後ろ、砕けた瓦礫を掻き分けて、少女が立つ。

 小屋で見かけた少女、ヘイズはフローズと呼んでいたか。ブレードを手にしていた。

085 フローズ

「貴様ァアア!!」

086 ブラッド

「……ッ、お前……」

087 クイーヴ

「やめろフローズ、下がれ!」

 ブラッドの背後に張り付いた状態のまま、手にした刀を更に深く突き立てた。震えた手と声で、フローズは叫ぶ。

088 フローズ

「お前が、いなければ……。お前が!」

089 ブラッド

「ぐ……この体でも、痛ェもんは普通に痛ェんだぞ……ガキんちょ」

090 フローズ

「痛みを知れ! お前に将軍ジェネラルの資格はない!」

 ゆっくりと引き抜いた刀を一振りする。刃先に付いた血が辺りに飛び散った。

091 フローズ

「貴方みたいな人は嫌いだ……貴方みたいな人がいなければ、今頃何事もなく、過ごせていたハズなのに!」

092 レイジ

「気は済んだか」

 突起した岩から降りる。足場は変わらず不安定だった。この事態を巻き起こした当人の姿は見えない。これだけ広範囲に及ぶ威力なら、相当消耗しているはずだ。

 ブラッドがその場へ崩れ落ちる。フローズは頭を垂れて、刀を地面へ突き刺した。無言ではあったが、泣いてはいなかった。

093 ブラッド

「トドメ刺さないつもりか、お前さん」

094 フローズ

「一つ、聞きたいことがある。アルフロスト・メルティを知らないか?」

 目を丸くしていたブラッドは少し間を置いて、溜め息をついた。

 これは自分が口を挟める事ではない。無理に止める気もなければ、止めてやる必要性も感じなかった。

095 ブラッド

「アルフロスト、な。……聞いた事はある。そうか、お前さん、アイツの妹か」

 血の滲む腹を押さえながら、彼は苦し紛れに視線を泳がせた。ゆっくりと立ち上がり、剣を引き摺る。痛みに眉を顰めて、覚束ない足取りで、フローズに背を向けた。

096 ブラッド

「あででで、普通じゃ致命傷だぞこれ。……昔だ、どんな奴だったかな。変な奴だった、それだけなら覚えてる」

097 フローズ

「私と、村の人間の代わりに軍に連れ去られた。兄はまだ軍にいるのか?」

098 ブラッド

「……いる。いるにはいるが、お前さんが思ってるような再会が出来るとは、思わない事だな」

099 フローズ

「どういう事だ?」

100 ブラッド

「それは言えない。覚悟があるなら、お前さんが自分で確かめてみることだ」

 遠くの方で、瓦礫の倒壊する音が響く。突然の地盤振動による影響だろう。ずるずると大剣を引き摺って、耳障りな金属音を立てる。

 ブラッドは、歩調を狭めてヘイズの前へ立った。

101 ヘイズ

「何だってんだ、殺さないつもりか」

102 ブラッド

「あァ? 俺がァ? ヤダよ面倒くせェ」

103 ヘイズ

「お前……軍人だろうが! 何を考えてやがる!」

104 ブラッド

「何だよそんなにムキになる事かー? 別に良いだろー、寒そうにしてっから、優しーい俺が助けてやんの。ホレ有り難く思え」

105 ヘイズ

「こっちから願い下げだ。……畜生、お前不死身か? もう傷口が……」

 死を覚悟して当たっていただろうヘイズからしたら、とんだ冒涜にも等しい。軍律を放棄する軍人は、軍にとっても邪魔でしかないのではないか。

 黙るクイーヴに向けて、嘲笑にも似た見下しの笑みを浮かべ、ブラッドは軍服の腕章を地面へ放った。

106 ブラッド

「あっちの嬢ちゃんは揺らいでるみたいだから、一応言っておく。軍に入る気はねえか? レブナンス空陸歩兵、ただし背徳の第12旅団」

107 クイーヴ

「敵さえも迎える気だなんて、馬鹿じゃないのか……」

108 ブラッド

「使えるモンなら何でも利用する、優秀な部下のおかげだな。前歴不問で俺個人が良い人材を探してる、話を聞いてもらえるなら兵舎まで来て欲しい」

109 ヘイズ

「今更、軍になんか……」

 何を考えているのか。何も考えていないわけではあるまい。

 傷口はとうに塞がったとでも言いたげに、それまで同様のノリで、ブラッドは振り向いた。

110 ブラッド

「そうだ、お前さん、名前は何てェんだ? そう、そこの白頭黒コートのお前」

111 レイジ

「……鐵、零仕」

 少し驚いた様子で、彼は苦笑した。

112 ブラッド

「そうか、零仕か。覚えておく。精々頑張って逃げてくれ、俺は手加減できない」

 それだけ言うと、再びヘイズらの方へ向き直った。言葉の意味しているものが、分かるようでいて分からない。

 背を向けたブラッド相手なら。いつでも殺せたものを、何故撃てなかったのか。考えるまでもなかった。今の状態では、全くと言って良い程歯が立たない事を、自分自身がよく理解している。

113 ブラッド

「で、お前ら。俺も一応軍人だからな、レイジみたいな個人ならともかく。レジスタンスを放っておける程余裕はねェわけよ」

114 クイーヴ

「それで、どうするつもりだ」

115 ブラッド

「殺されるか服従か。旅団は俺の管轄だから上には手を出させない。それは約束する。お前らに悪いようにはしない、よく考えろ」

116 ヘイズ

「……畜生」

 抵抗も虚しく、呟いた。

117 ブラッド

「とんだアナーキストだぜ、全く。こんな梃子摺らされるとは思ってなかった……」

 戦車に寄りかかり、ずるずると床へ座り込む。制限時間を越して、全身は疲労感から、酷く重たく感じられた。自分で立とうにも余力はほとんど残っていない。

118 藍羅

「馬鹿じゃないの、そんなグテグテになるまで無茶するなんて」

119 ブラッド

「姫さん、何でこんなとこにいるんだよ……。見つかっても庇えないぞ」

120 藍羅

「今のアンタならあたしだって殺せるわよ、あたしが勝手に来たんだから文句は言わせない」

 意識は存外はっきりしていたが、体力回復の必要性からくる睡眠欲に引き摺られていく。コートは赤く血に染まっていたが、傷はすっかり塞がっていた。

121 ヌクリア

「あっ、だんちょおかえりー」

 手には救急箱を重そうに引き摺って、ヌクリアが駆け寄る。分かりの良さは、リブレにでも言われたのだろうか。彼の独断にしても別に嫌だと思う事はなかった。

122 ヌクリア

「ダンチョ、ケガしてるの? いたい?」

123 ブラッド

「もう塞がってるから何ともねーよ、イイコにしてたかヌク。あ、リブレ、茶」

124 リブレ

「僕は秘書じゃありません」

 にべもなく笑顔で否定された。

125 ブラッド

「じゃあ今からなれ。仕事沢山あるぜ、退屈しねェぞ」

126 リブレ

「便利屋でしたら、遠慮します」

127 ブラッド

「まあそう言わずに……」

 会議室の書類整理を筆頭に、ごたついた触れたら崩れそうな紙の山を見れば掃除の必要を感じない人間はいないだろう。だが現実逃避もしくは、気が向かない限り、それを実行したいとは思わない。

128 リブレ

「細かい話は皇女から直に聞きました。それで、後ろで伸びてる三人は何者です」

129 ヌクリア

「あたらしく、はいってくるヒト?」

 戦車を指差して、リブレは表情を改めた。普段の微笑の混じった、だが隙のない比較的真面目な表情だった。

130 ブラッド

「……リブレ。元の立場がどうであれ、お前の能力を最大限に生かせる、使える人間は好きか?」

 フローズを除いて二人は抵抗したために無理矢理昏倒させた。起きた時に何を言われるか予想ができないわけでもないが、殴られる事くらいは覚悟している。

 それだけ、捨てるには惜しい存在だった。

 間を置いて、リブレは苦笑する。

131 ブラッド

「お前の解析力を他にやるのは惜しいからな。それを生かせる人間だって惜しい」

132 リブレ

「……本当に使えるなら、歓迎します。僕はここにきた時点で、貴方の部下ですから」

133 ブラッド

「て事で、置いても良いか、姫さん」

134 藍羅

「抵抗があった時はどうするつもり?」

 案の定、藍羅は怪訝そうな顔で腕を組んだ。

 いつ実力行使に出てくるか分からない敵を置くのが、いかに危険な事かくらいは分かる。これは一種の博打だ。敵にするには厄介だが、味方であれば心強い。

135 ブラッド

「何とかするっきゃないだろ」

136 ヌクリア

「ヌクがダンチョまもってあげるから、だいじょうぶだよ」

137 ブラッド

「出来なきゃ、その時こそが終わりだ」

 いかに上手く丸め込むか。後の利益などはリブレがフォローしてくれるだろう。問題は、自分がそれを始めなければ何も動かないということだ。

138 斥候

「風が止んだな、吹雪も止んだようだ。本当に行くつもりか? 留まっても良いんだぞ」

139 サージェ

「いや、世話になった。これ以上迷惑はかけられまい」

 苦笑交じりの端的な言葉に、スヴェルは肩を竦めた。頑固だ。頑固の相手には慣れたものだが、ヘイズが匿っていた女医もなかなかのものだった。

140 サージェ

「それにしても、あれだけ私に反発してたのに、どういう風の吹き回しだ?」

141 斥候

「俺は義理堅い性分なんだ。ヘイズとそっくりだよ、お前は」

142 サージェ

「そうか……あの男も傭兵か何かの出だと思っていたが」

143 斥候

「詳しくは俺も知らねーよ。そっちの白いのも、良ければ留まらないか?」

 あの後消えたヘイズらを、一番気にかけていたのはスヴェルだった。特に何を答えてやれる事もなかったが、言ったところで何にもならない。黙っておいた。

 人の良さそうな商売人の顔をし、スヴェルはこちらを向いた。

144 斥候

「商団のことなら気にすんな、こういう時のための逃げ場所くらい用意してある。お前が用心棒にでもいてくれると、心強いんだが」

145 レイジ

「遠慮する」

146 サージェ

「意外に終着はあっさりしてたな……レジスタンスの解体という条件だけで、ここまで民間が黙るとは」

147 斥候

「それだけ一般市民は、抵抗できないって事だよ」

148 サージェ

「あの男らも、連れ去られたと聞くが」

 暫く唸り、スヴェルは曖昧に笑う。

149 斥候

「いや、ヘイズらなら大丈夫だ。本来の目的を見失うほど馬鹿じゃねえ。他の誰が何と言おうと、俺はあいつらを信用してるからな。付き合い長いからよ」

 そうして彼は黙る。

 原因となった自分らを糾弾せずに、敢えて非難の的になって、街の外れまでつれて来た事を感謝しないわけではない。彼の頭には利益しかない。

150 サージェ

「良い方向に向かってくれると良いが」

151 斥候

「なんとかなるだろ。それよりお前ら、本当にアテはあるのか? 痩せ我慢してんじゃねえだろうな」

152 サージェ

「ああ、私は食うに困らない。何せこの環境だからな、患者はいくらでも転がってる」

153 斥候

「雪原に放り出すのは気が気じゃねえんだよ。死なれたら寝覚めが悪くなるだろうが。それ、本当だろうな?」

154 サージェ

「信用がない男だな。しつこいと嫌われるぞ」

155 斥候

「治療の恩があるからな、最低限の気配りだ」

 軽く交わされる言葉を遠巻きに傍観しながら、溜め息をついた。幸いほとんど怪我はなかったが、大体が既に完治していた。

156 レイジ

「暫く、己と付き合う方法を考えなければいけない、か」

157 斥候

「どうした」

158 レイジ

「別に」

 自身の好き嫌いに関係なく、軍に近付く必要がある。そして研究棟にいた、責任者の女。始末しなければ気が済まない。

 ホバーに寄りかかり、空を仰いだ。光が差さずとも、眩しく感じられる。他人との圧倒的な差。彼らには、目の眩むような光さえ、曇っているのだという。

 薄々、勘付いていた。他人と、根本的な物が違うのだと。

159 斥候

「じゃあ、まあ、生き延びてくれよ。どっかで会ったらそれも縁だ」

160 サージェ

「そうだな、私もそろそろ行くとしよう」

 二手に分かれる。片や運搬船に。片や闇の中に。自分の行く先はそのどちらでもない。踵を返して、反対側へ向かった。

(ED)

161 レイジ

 そうしてクーデターは起きる。

 一時は止んでいたはずの雪もまた、降り出していた。