GUNBLITZ
ACT05 DEADLINE [ blitz_05 ]

No. キャラ 台詞、状況
001 ヘイズ

「今となっちゃ懐かしいもんだ。昔知り合いにいたんだけどよ、アルビノ」

 それは独り言に等しかった。己の思うところの再確認に過ぎない。

 ヘイズと名乗る男に引き止められる事、半日。黙っていれば、暇を潰すようにポツポツと話し掛けてくる。

002 ヘイズ

「当時の商団のまとめ役だったな、優秀な女だった。お前程真っ白でもなかったけど、目立ったな」

 まともに人として扱われたのは、この男が初めてだったかもしれない。

 比較的安全地帯に設置されているだけあって、レジスタンスを名乗るわりにのんびりしている。

003 ヘイズ

「孤児院の真似事までして、良い奴だった。けどな。軍の襲撃を受けた時に、殺されちまった」

004 レイジ

「連中にとっては、市民も軍人も同じようなものだ」

005 ヘイズ

「その通り。俺もスヴェルも、これは忘れちゃいけないってモンだ」

 思い出せば思い出すほど、憎悪ばかりが沸いて行く。

006 ヘイズ

「俺は軍が憎い」

007 クイーヴ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第一章 GUNBLITZ、ACT5「DEADLINEデッドライン

 暇を持て余していた小屋は一転して慌しい。本の山をどかし、地図をテーブルの上に広げた。無線からは雑音が流れている。

008 ヘイズ

「テロ? 爆破地点を割り出せるか!」

009 クイーヴ

「そんな事言われたって、こんだけ情報が飛び交ってれば……」

010 レイジ

「役立たず」

011 クイーヴ

「お前に言われたくない」

 雑踏と悲鳴が入り混じる。爆破は人が多く集まる場所で起こされたようだ。爆発音と倒壊の音が響く。

 何にせよ、元を断たなければ無意味な行動だ。

012 レイジ

「アイザック・レブナンスは予想以上に体裁を気にしない男のようだな」

 そうでなければ今頃、己のようなものは存在しない。死のうにも死を選択する事を許されない、あまりに頑丈な体との付き合い方を考えなければならないというのに。

013 ヘイズ

「連中は、軍事力増強のためなら何だってするさ……」

014 レイジ

「だろうな。……そういう奴らだ」

 根こそぎ奪われた現状では、これ以上失う物もないだろう。これ以上の恐怖を知覚する事もない。計測と超越のためだけに生かされ、切り開いては調整を繰り返す。

 惨めな生でしかない。見返りに得たのは破壊欲。ただそれだけだ。

015 レイジ

「皮肉だな」

016 クイーヴ

「……何がだよ」

017 ヘイズ

「クイーヴ、先回りして後方で援護しろ。お前は……、銃を持ってるって事は闘えるな。そうだな、操縦はできるか」

 自分に問われた言葉だと理解し、黙ったまま頷いた。所詮逃れる事などできない一本の線路上にいるだけの、被験体に過ぎない。

 今更抗おうなど、無駄な事だ。

018 レイジ

「とりあえず、一通りは」

019 ヘイズ

「ついて来い。ホバーを貸す、それで俺も出る。交換条件だ。そっちのはお前のだ、直させておいた」

 放られた一枚のプラカードを確認する。バッテリー残量や稼動状況が一目で分かるのが有り難い仕様だが、それらの全てがグリーンを伴っている。

020 レイジ

「世話をかける」

021 ヘイズ

「何、気紛れってやつだ。困ってる奴を放っておけない気質でな」

022 レイジ

「本当に対峙する気か?」

023 ヘイズ

「今更、怖気づいたのか?」

 からかい気味にヘイズは笑う。元より軍とは敵対している身だ。関わり合いになりたくはなかったが、こうなっては仕方が無い。

 一歩外へ出た。具現化させたホバーに積まれた銃火器を睨む。

024 レイジ

「そんなものに関係なく、連中は厄介だ。中毒兵士を投入しているとなれば、尚更だ」

025 ヘイズ

「分かってらァ、……薄気味悪い空気だな」

 半端ない気味の悪さが、かの研究棟を彷彿とさせる。同様にして同類だという感覚があった。レブナンスの、軍事大国としての地位を各個たる物にした人体強化のための錠剤。

 ふと目に入り、ヘイズの方へ向き直る。

026 レイジ

「その薬瓶……中身はセロか、何故お前が持っている」

 呆気に取られた様子で、ヘイズは苦笑した。

027 ヘイズ

「末端の兵士から押収したもんだ。筋力増強、運動能力の向上、思考のクリア化、副作用さえなきゃ上等なモンだが、使いたいとは思わねえな」

028 レイジ

「まともな思考で安心した」

 ホバーを起動する。起動と同時に、浮上した。

029 ヘイズ

「まあ、末端に出回ってる分は純正品じゃあないな、レプリカの方だろ。中毒症状ときたら酷いもんだ」

030 ヘイズ

「こいつ一つで統率してるっつうんだからな。無駄に知恵が回る」

 支配の構図としては、お粗末ながらよくできている。効果が切れ中毒症状に苛まれる。その苦しみのあまり、否が応でも上層部に従わざるを得ない兵士。

 例えば、国王直下の第12旅団という障害がなければ、今頃は兵士によるクーデターも起きていた事だろう。

 益々民衆の反感を買うが、手を出す事も敵わない。独裁はそうした形で行われている。

031 レイジ

「……俺は、それを試すために造られた」

 廃屋の上を通り抜け、上下左右に広がるアイアンジャングルに意識を巡らせる。摩天楼を伝うように張り巡らされた簡易通路。こうも入り組んでいては、立体感が狂う。

 ライフルの銃弾を詰めながら、ヘイズは後部座席で構えた。

032 ヘイズ

「難儀だな。ああ、そこを降りてくれ」

 ビルの倒壊する音が聞こえる。逃げ惑う民衆の向こうに見える戦車。位置と視力の所為で、はっきりと識別はできないが、確かにそこにいるのが分かる。

033 ヘイズ

「俺達をおびき出すのが目的のようだな……くそ、クイーヴのが得意なんだけどな、こういうのは」

 液晶モニターが手元に展開する。計器の針が震え、メーターが上下する。空路が混乱していないのが幸いだ。ところどころ建物の影に人が潜んでいるのが見える。

034 レイジ

「あれは、民間人か?」

035 ヘイズ

「軍服着てなきゃ民間だろ。灰色の、防寒コートだ」

036 レイジ

「子供が……」

037 ヘイズ

「どこに、って、マイナ!? あんなところ、どうやって……」

 廃ビルを伝う鉄骨の隅で怯えている少女が見える。ビルの窓からでもなければ辿り着けないような場所だ。地上は遥か遠く。少女の足では飛び降りる事も敵わない。

038 少女

「リーダー! 助けて!」

039 ヘイズ

「そこを動くな、今行く」

040 レイジ

「あれは追われてる」

041 ヘイズ

「くそ……飛び移れるか、マイナ!」

 到底届く距離ではない。高度を下げれば受け止める事はできるが、それは彼女が飛び降りる覚悟ができるか否かで決まる。

 後方から迫る軍人の影を見、ハンドルから片手を離し銃を握った。

042 少女

「無理、後ろ、敵が追ってきてるの!」

043 レイジ

「……頭を下げろ」

044 ヘイズ

「やめろ無茶だ、マイナにも掠る」

045 レイジ

「ハンドルを握れ、俺が行ってやる。お前の目的は爆発犯だろう。それとも、どっちも見殺しにするつもりか?」

046 ヘイズ

「……任せる」

 自分とて鉄骨を伝っても近付くには時間が掛かる。ヘイズは黙り込んで手の空いた操縦桿を握る。知人か、市民か。どちらかを選ぶしかない。幸いして自分という使えるコマが、今の彼にはある。

 壁に寄りかかったまま、不安げにこちらを見下ろす少女のその後方。狙うのは一点だ。

047 クイーヴ

「マイナ、目を瞑って壁にしがみつけ!」

048 少女

「……お兄ちゃん!」

049 レイジ

「遅い」

050 クイーヴ

「煩い、お前と違って僕は徒歩だ!」

 下級兵士の背後に立ったクイーヴが、思い切り銃床で殴りかかる。一つに集中する余り、背後ががら空きだった兵士は勢い良く吹き飛んだ。

 ホバーから鉄骨へ飛び移り、廃ビルへと近寄る。複数の気配を察知し、いつでも攻撃できる体勢を取る。子供一人追うだけに、ここまで執着する必要があるのか。

051 少女

「お兄ちゃん……まだ、他にもいるよ」

052 クイーヴ

「格好の獲物を見つけたって感じだな……子供一人相手になんて奴らだ」

053 レイジ

「手数が多いな」

054 クイーヴ

「来る途中で2人撃って来た」

055 レイジ

「たったそれだけか。全部連れてきたな、役立たずが」

056 クイーヴ

「急いでたんだ、無茶な注文つけるな」

 せめてもう少し片付けられていたら、だ。今頃こんな包囲される程、周囲を兵士が集まっていないだろう。どちらにしてもあまり期待はしていなかった。そこまで余裕が取れる程、場数を踏んでいるようにも見えない。

 対戦車用の体がどこまでもつか。それだけが気になる。

057 クイーヴ

「マイナ、影に隠れてるんだぞ」

058 少女

「うん、分かった」

 クイーヴは不安げに俯く少女に、苦し紛れに笑みかける。

 こちらからしてみればだ。

 そのどちらも守らなければならないという、不利な状況に陥っている。彼はそれを自覚していない。抵抗無く殺されるよりも、撃てるだけまだマシといったところだ。

 広場の中央に立ち、周囲を見渡す。戦車の装甲上からの景色は、人一人分高くよく物が見えた。超高層ビルの立ち並ぶ王都に次ぐアルフィタの、圧倒する景観はレブナンスに勝るとも劣らず。

 空中を繋ぐ通路が幾重にも張り巡らされているためか、一つ廃屋を破壊しただけでも大した被害だ。

 国王に丸め込まれて結局ついてきてしまった中将の中隊が、好き勝手暴れ回っているのだから手に負えない。元より彼らの統率を取れという事自体に無理がある。理性があるならばともかく、あれは飢えた獣だ。

059 ブラッド

「あーあー、もう大騒ぎだなこりゃあ。どう収拾つけりゃいいんだよ」

060 ヘイズ

「爆発は、テメェの仕業か!」

061 ブラッド

「お、お客だ。いつのまに……って」

 足下を気にしていなかった所為か、気付かぬ内に背後に忍び寄っていた男が頭に銃口を突きつけていた。

062 ブラッド

「へえ、速度系魔法ね。そら俺でも気付かないわけだわ」

063 ヘイズ

「減らず口叩けるのも今の内だ。お前がブラッド・バーン・ブレイズだな?」

064 ブラッド

「ご明察。お宅はレジスタンスの支部長さんだろ?」

 軽く両手を挙げ、茶化して見せる。温厚な様子は最早欠片も見せぬヘイズ相手に、余裕面だ。

065 ヘイズ

「どれだけ被害が出てると思ってるんだ、疫病神」

 不意に背後に着地音を聞き取り、振り返る。銃口を突きつけられている事などお構いなしの様子を見せ、ブラッドは笑んだ。

 元より銃弾は通用しない。何発も連続で打たれれば別だが、一発くらいなら回避する策を持ち合わせている。相手が怒りで隙だらけになっているのが、まず一つ目の好機だった。

066 ヘイズ

「白いの、何故来た! 片付いたのか!」

067 レイジ

「向こうに不利な分を引っ張って来ただけだ」

 一瞬の浮遊感の後着地した石畳に手をつく。正確には一つ、マナによるトラップを作動させた。クイーヴでは無理だと思った分は全員、囮となって誘導してきたつもりだ。

 ヘイズが銃を向ける先に、見覚えのある金髪の男の姿があった。

068 レイジ

「地下研究棟で追って来た奴だな」

069 ブラッド

「覚えてたのか、光栄だな。夢という絶好の逃避場所を失くしたか」

070 レイジ

「黙れ。今すぐ始末してやる」

071 ブラッド

「メンテ不備のお前さんに、それが出来るかね」

 足下の瓦礫が崩れる。兵士の唸る獣のような声が、徐々に近付いてきているのを感じた。一定距離を保ったまま、構える。動きが単調なのだから近付かれさえしなければ、動かぬ的を撃っているも同然だ。

072 レイジ

「ヘイズ、銃を引け。お前が敵う相手じゃ……」

073 ヘイズ

「慣れないモンで闘うもんじゃねえな! お前は先周りを片付けろ!」

 ブラッドが何の危機感もなく背を向けている隙に、ヘイズはライフルを振りかぶった。彼が本来銃器を使う人間でない事は見れば分かる。鈍い衝撃音と同時に、ライフルは遠くへ撥ね飛ばされていた。

074 ブラッド

「不意打ちたあ、ちょっとズルいんじゃねェの? 威勢が良いな、お前からカタしてやろうか!」

 振るわれた拳も難なく受け止めた。得物の出現と同時にヘイズが距離を取る。己の両拳を軽くぶつけ、戦車から降りて臨戦体勢を取った。

 微かに聞こえた金属音が確かならば。

075 ブラッド

「手甲を仕込んでるな、お前格闘系か。……丁度良い」

076 ブラッド

「コエー顔してっけどよ、案外気が合いそうだ。お前が仲間なら良かったのに」

077 ヘイズ

「黙ってやられてやるつもりは、ないんでな」

078 ブラッド

「そりゃ良かった。退屈凌ぎにはなるかな」

079 レイジ

 大した余裕だ。堂々と背を向けられては、かえって手を出しにくい。いつ攻撃されても、受けきれる自信がなければそんな芸当はできない。

 だが頭から伸びた3本のコード。脱走時に自分が引き千切ってきた物と同じ役割をしているのであれば、それは制御装置だ。それさえ外させなければ。

080 レイジ

 虚無を埋めるために生まれる枯渇、飢えを癒すための衝動。それしかない。あの男も恐らく同様に。

081 ブラッド

「一つ先に言っておいてやろう。勘違いされるのもアレだし、知っておいた方が良いと思うから」

 ショットガンを上空に向け一発放ち、ブラッドは口端に笑みを浮かべて続ける。

082 ブラッド

「俺は閣下の絶対主義思想なんて、いらねンだよ」

 踏み込む。

 次々と繰り出される蹴りも拳も掌底も、当たるどころか掠りもしなかった。寸での所で受け流し、それに反撃する事なくブラッドは一切の攻撃を仕掛けてこなかった。

083 ヘイズ

「斬りかかって来ないのか!」

084 ブラッド

「軍人が、民間に手を出すのは、やっぱマズいっしょ」

085 ヘイズ

「ナメられたもんだ……」

 周囲を粗方掃除し終え、不意に上を見た。随分静かになった気がする。都市独特の重低音は未だに腹の底に響いていたが、それとは別の類のものだ。

 クイーヴは。

 殺されたか、それとも殺し終えたのか。

086 クイーヴ

「ヘイズ、下がれ!」

087 ブラッド

「うお、上!?」

 どこから狙っていたのか、ブラッドに向けて狙撃する。撃たれた弾は当たらずに何かに反射され、爆発した。

 斬り捨てたのかと思ったが、剣を振ったようには見えなかった。

088 ブラッド

「あっぶねー、なんちゅー奴だ」

089 クイーヴ

「当たってない、まさか炎熱系……?」

090 ブラッド

「うーん、良い腕してんなあ」

091 ヘイズ

「お前の相手は俺だ。暴発させるとはな……お前に扱える種類の魔法とは思えないが」

092 ブラッド

「炎熱は気性が荒くて気紛れだからな」

 隙を突かない限りは、銃火器は通用しない。扱いの難しい炎のマナを使えるのならば、相当厄介だ。加勢する気は毛頭なかったが、利き腕の銃を彼に向けて構えた。

 引金はいつでも引ける。焦る必要はない。確実に仕留めて置かなければ、この先元凶への復讐すらも存在し得ない。

093 ブラッド

「魔人もよー、別にいつ撃っても構わないんだけどなァ。結構慎重なやり方すんだな」

094 ヘイズ

「余所見とは余裕だな!」

 マナによる強化で蒼い光を纏った拳が降る。もろに直撃を食らったように見えたが、実際は剣の柄によって防御されていた。

095 ヘイズ

「……くそ!」

096 少女

「やめて、来ないで! いやだァ!」

097 クイーヴ

「マイナ! どこから沸いて来るんだ、こんなに」

 片付けきれていなかったのか、自分が出てきた方からの声だった。反対側のビルの窓から微かに見えたクイーヴの影が、慌てて中へ駆け戻るのが見えた。

 上空から悲鳴と数回に渡る発砲音。援護したつもりの狙撃が仇となったか。

098 少女

「もうやだ、こんな怖いところ!」

099 クイーヴ

「落ち着け、逃がしてやるから! ヘイズ、マイナが!」

100 ヘイズ

「レイジ、援護してやってくれ」

101 レイジ

「分かってる。世話の焼ける……」

 どれだけ倒せたのか、誰も殺せずに伸しただけなのか。それとも増援か。どれでも良かった。どの答えであっても、対処しきれないだけの人数がいるという事。それだけは結果を裏切らない。

102 少女

「やだ、離して! こっちにこないで!」

103 クイーヴ

「畜生、離せ! せめて子供だけは……!」

 聞こえるのは声と銃声ばかり。廃ビルへ駆け込んだが、距離を阻む階段がなければ。

104 少女

「いやだァアア!」

 少女の声が唐突に止んだ。脳内をエコーする高音に嫌な予感が膨らむ。ガラスのない窓の外を、影が過ぎる。目を見張った。

 直後そこを通過したのは、クイーヴと思われる姿だった。体勢からして、まさか飛び降りた訳ではあるまい。こんな無機質な街では、打ち所が悪ければこの高さで死んでもおかしくはない。

 妙に気になって窓の外へ身を乗り出した。

105 クイーヴ

「いって……容赦なく落としてくれたな」

106 レイジ

「死んでないのか」

107 クイーヴ

「縁起悪い事言うな、お前も撃つぞ!」

108 レイジ

「いや、いい、お前にできるならな」

109 クイーヴ

「……マイナ、大丈夫か。マイナ!」

 落ちた時に打ったらしい腰を擦りながら、クイーヴが一緒に落ちた少女の体を揺する。返答はなく、また意識もない様子だ。

 ぬるりと、頭の下に血が隠れたように見えた。

110 クイーヴ

「……マイナ! せめてお前が上にいれば良かったのに……!」

111 レイジ

「人の所為にするな。お前、仕留め損ねたな」

 悲痛な叫びに構っている暇はない。二階へ上がりきり、異様な光景を目の当たりにした。てっきり彼が倒した物だと思っていた兵士が、ごっそりそのまま残っている。

112 レイジ

「引き金を引いておいて殺すのを躊躇ったのか、出来損ないが」

 外のクイーヴに向けて放った。小屋で自分に投げてきた言葉を、己は実行できなかったのか。こうまで腐ってしまった兵士を、ただ人に見えるという理由だけで。

 自分は彼とは違う。相手に好機を与える間もなく、躊躇なく引き金を引ける。襲い掛かってくるだけの的に銃弾を撃ち込んだ。ドサドサとその場へ崩れて、やがて塵山のように重なって行く。

 性質の悪いゲームのようだと思った。

113 レイジ

「お前が始末できなかったのは、人殺しを自覚できない子供だからだ」

114 クイーヴ

「人殺し……。そうだ、ヘイズは……」

 他に気配の見当たらなくなった廃ビルの二階から、伝う鉄骨の上へ飛び移る。下方ではクイーヴが装填していた。それでもやる気だけは失くしていないようだ。

 一つ気になったのは、知らぬ間にヘイズが伸されていた事。

115 クイーヴ

「ヘイズ、大丈夫か!」

116 ブラッド

「ああ、殺しちゃねえよ。邪魔だったからちょっと伸しただけ」

117 クイーヴ

「軍人が揃いも揃って卑怯な真似を……」

118 ブラッド

「分かってる。分かってるつもりだ。お前は憎んで良い理由がある。殺してでも置いてこなかった俺にも責任あるしな」

 嫌に男の表情は晴れない。口元に軽く手を当て、気分が悪いと言わんばかりの様子を見せている。

 想定外の事だっただろう。なんとなくそう想像できる。

 酷く顔色が悪く、生きた人間とは思えぬ程青白く、痩せこけた屍人グール。糸の切れたマリオネットは、死んでもなお動こうとする痙攣している。それでもまだ軍人だと名乗らせるのだから気味が悪い。

 そんな兵士を、まるで味方とも思ってないような立ち振る舞いは、自然とそう思わせた。

119 クイーヴ

「ちゃんと守ってやれれば、良かったのに」

120 レイジ

「お前が言ったんだ。これは戦争だ」

121 クイーヴ

「あの連中、理性なんて残ってないじゃないか! 何が軍人だ、そこまでして強くなりたいのか!」

 非難の言葉を、湧き出たそのままに押し流す。ブラッドはただ黙っていた。どうにも彼だけは敵とも言い難い、微妙な立ち位置にいるように思えてならなかった。

122 クイーヴ

「人の形をしてるだけの、単なるモンスターだろ! こいつらは!」

123 レイジ

「無駄だ、今更軍にそんな道理は通用しない」

124 クイーヴ

「連中の中に被害者がいるのだって分かってる。けど、民間に手を出してるのは否定できないじゃないか」

125 ブラッド

「それだ、俺らには最低限守るべきものってのがあるンだよ。畜生、胸糞悪いぜクソジジイども……」

 それでも彼は軍人だ。同情の余地は最初からない。

126 ブラッド

「それでも俺は軍人だからな。受けちまった以上仕事はしてやるさ。律せよ、それが掟。叛逆には死を。悪いがレジスタンスは潰して、実験体は連れて帰る」

 大剣を構えた。ヘイズを相手にしていた時とは違い、今度は本気だ。どこで聞いたか、懐かしい言葉を聞いた気がした。実際にあるのは迷信だけだというのに。

 ブラッドは、ゆっくりとコードを一本引き抜いた。

127 クイーヴ

「……何だ?」

128 レイジ

「来るぞ、制御がなくなった。気をつけろ」

129 ブラッド

「抵抗しなけりゃ、俺が穏便に片付けてやる」

 精神作用、体力的制限、自制手段。それらのどの枷が外れたのかまでは分からない。自分と似て非なる者。そう感じた。

130 レイジ

「……俺と同じ?」

131 ブラッド

「まさか。成功した失敗作はお前だけだ。何が失敗かまでは、俺は知らないけどな」

132 レイジ

「何も知らないのは俺だけか」

 初めて自分について、何も知らない事を恨めしく思った。知らなくてもいずれ関係がなくなるのだから、必要はないものだと思っていた。

133 クイーヴ

「どうする?」

134 レイジ

「お前は下がってろ。邪魔をされたくない」

135 クイーヴ

「くっ、……言い方ってもんがあるだろ」

 実際事実なのだから、他に言いようがない。実力を知っての判断か、大人しく脇で瓦礫を退け、ヘイズを引き摺りながらクイーヴは様子を伺っていた。

 ブラッドが体勢を低くし、一気に間合いを詰めた。

 振られた剣を銃創で受け止める。腕に痺れが伝わった。接近戦は不利だ。咄嗟に一歩後ろへ退いた己を見、ブラッドは笑みを浮かべた。

136 ブラッド

「鬼ごっこは好きか、白兎しろうさぎ

 何も答える事なく、ホバーの起動カードを宙へ放った。