GUNBLITZ
ACT04 hydra [ blitz_04 ]

No. キャラ 台詞、状況

 無機質名研究施設は白を基調にデザインされていた。あまりに静かで、不気味ささえ感じられる。無菌室に並んでレントゲン室。

 化学的な実験研究室にしては、随分病院めいた雰囲気を残している。

 無駄なところにばかり金をかけている、というのが第一印象だ。国王なる彼は、前まではそんな人間ではなかったと思う。色々な事が起きすぎて、何がそうさせるに至った原因かなど、今更分からない。

 コンソールを叩きながら、ただ応答を待った。何の返答もなく、時間だけが経過する。

001 藍羅

「んんー、んー……」

 唸る。

 開いたウィンドウには、空白行ばかりが通過して行く。それは集中できていない証拠に等しい。

 待てと言われたから待っている。じっと待つこと半時が経過した。

002 藍羅

「いい加減、返事一言くらい寄越しなさいよ、あの馬鹿ー!」

 立ち上がり、叫んでみたところで何かが変わるわけでもなく、また誰かが駆けつけて来る事もなかった。

003 藍羅

(タイトルコール)

GUNBLAZE第一章 GUNBLITZ、ACT4「hydraハイドラ

 改めて周囲を見回す。

004 藍羅

「人手不足なのか、余程信用があるのか。一人も監視置いてないなんて、呆れたもんだわ」

 荒々しく椅子に座り直し、溜め息をつく。

 唐突に扉が開き、思わず後退った。

005 藍羅

「ひいっ」

006 ブラッド

「……姫さん、何遊んでんだ? ていうか、一人放置プレイ?」

 開くと思っていなかった扉を指差したまま、硬直する。扉の向こうから覗いた能天気な顔を睨んだ。

 肩に蛮猫族の子供を乗せた大柄な男は、こちらの姿を確認するなり、目を丸くするだけだった。

007 藍羅

「しっ、心臓が止まるかと思ったわよ! 前触れもなく現れるなって何度……」

008 ブラッド

「そんなに俺に会いたかったか、愛い奴め」

009 藍羅

「誰がそんな事言ったー! 離しなさい、セクハラ扱いすんわよ」

 相変わらずの無礼ぶりだが、今となってはすっかり慣れてしまった。付き合いの長い仲だが、言動の唐突さには未だついていけない。

 抱きついてくる腕を解きながら距離を取る。

010 ブラッド

「なんだァ? ご機嫌ナナメかー? ……ああ、我が君。実に暇そうではありませんか」

011 ヌクリア

「だんちょ、いまふわってした、ふわって」

012 ブラッド

「俺なんぞで良ければお相手致しますが」

013 藍羅

「ブラッド。優雅に挨拶したつもりで。それ、敬われてるのか、馬鹿にされてんのかワケ分からないわね」

014 リブレ

「あー、なるほど。色んな意味で吃驚ですよ」

015 藍羅

「え、ちょっと!」

 言葉の適当さが信じられない程の優雅な身振りに、白灰しらはいの軍服が舞う。

 ブラッドの影で笑う、見慣れない青年に慌てた。冷静さを保とうと一呼吸置いて画面へ向き直る。立体化したスクリーンには、数字ばかりが並んでいた。

016 ブラッド

「ヤダなァ、それでも敬ってるとは俺曰く」

017 藍羅

「信用して良いのかどうかさえ、怪しいわね。何かもう、混乱しすぎて何が何だか……。説明しなさい、説明。」

 防寒性のあるロングコートは他団の灰色と違い、白く仕立て上げられている。第12旅団員各々おのおのの色をもち、遠方からの識別を楽にさせている。

 少人数構成の為せる技としか言いようがない。

018 ブラッド

「えー、そんな殺生な。いかに面倒か分かってるくせに、またそんな」

019 藍羅

「えーじゃない。面倒でもなんでもして貰うわよ」

020 藍羅

 団章の入った山吹色の腕章、右肩には各人の名前。BRIGATE#12ブライゲート12、トリプルB。それがレブナンス最強の男の通称。 

 色鮮やかな金髪の影に、配線が数本コートの中へと伸びているのが見えた。褐色の眼を好奇心に染めて、遠慮なくずかずかと近付いてくる。

 見た目そのままの性格だと思った。例えるのなら、怖い物知らずというところだろうか。

021 藍羅

「わざわざこっちまで来るなんて。ノイズなんて嘘でしょ」

022 ブラッド

「いや、ノイズはマジ。オンボロだって何度も言ってんだろ」

023 藍羅

「じゃあ、彼は?」

024 ブラッド

「あ、そいつ新入り」

025 ヌクリア

「あたらしくはいったのー、きょう」

026 リブレ

「リブレです。何度も言わせないで下さい」

027 藍羅

「まあ、後で詳しく聞かせて貰うわ、新入り君」

028 リブレ

「……もう良いです。それに関して、僕はもう何も言いません」

 青年は溜め息混じりに隅の方で折畳式のパイプ椅子を広げた。呆れた様子ではあるが、愛想だけは良い。

 タイミングを見計らってブラッドが口を開く。

029 ブラッド

「よく知らねえけど、上の連中に盗聴されてるみたいでな。仕方ねェだろ、そうなっちゃ」

030 ヌクリア

「ヌク、"盗聴器"みつけたよ? ほらこれ」

 そう言ってヌクリアが机の上に残骸を広げる。割れたプラスチックやら部品だったらしい物の一部がばら撒かれた。

 その様子を見て、男が悲鳴にも似た声を上げる。

031 ブラッド

「おまっ……壊したら意味ないだろ、壊したら。何だよもー、折角仕返ししてやろうと思ったのに」

032 ヌクリア

「とろうとおもって、ひっぱってみたら、ボロって」

033 ブラッド

「ちょっ、ヌク……。別のモン壊さなかっただろうな」

034 ヌクリア

「んーん、これだけだよ」

035 ブラッド

「分かった、分かったもういい。他何も壊してないならそれでいい。で、だな。問題はそれだけとは限んねェからな」

 叱るに叱れない心境と言ったところだろうか。半笑いのまま少年の頭を小突く。

 別に今に始まった事じゃない、とでも言いたそうな表情ではあった。今頃彼ら旅団の妨害なんてする気もないだろう、国王の考えている事はよく分からない。

036 藍羅

「実際盗聴されちゃ面倒な事もあるから、否定はできないけどね」

037 ブラッド

「そういう事。見張りもいないのは流石にビビったけど」

038 藍羅

「見張りはいなくても、軟禁同然よ」

039 ブラッド

「だろうな。お前さん、とんでもねェ事企んでるらしいからな」

 画面を覗き込みながら男は笑う。核心を突く言葉に思わずキーボードを叩いていた手を止める。

040 藍羅

「どこまで知ってるつもり?」

041 ブラッド

「風の噂で。俺は直接聞いたものしか信用してないけどね」

042 リブレ

「僕も少しなら聞き及んでますが」

043 藍羅

「リブレ、だっけ。前の所属は?」

044 ブラッド

「頭でっかちのエリート部隊の、元大尉だってよ」

045 リブレ

「……第5師団です」

 溜め息をついた。腹心の第12旅団は別として、そこまで外部に漏れているとは予想していなかった。第5師団所属と言えば、軍内の出世街道まっしぐらなわけだが。

 情報解析と操作はお手の物な団だ。それだけに厄介な気がした。

046 ブラッド

「俺が言った事にしとけばー? そしたら誰も信用しなくなるぜ。真相知ったって、別に閣下にゃ言いやしねェよ。恩よりは、恨みのがたっぷりあるかんな」

047 リブレ

「皇女が何か企んでる、くらいにしか聞いてませんから、大した事じゃないと思いますけど」

048 藍羅

「変な動きを見せたら即、ってとこかしら」

049 ヌクリア

「むずかしいはなし、ヌクわかんない」

050 ブラッド

「お前は知らなくていいぞ、どっかに言われたら困るからな」

 皇家ロイヤルの倫理観がおかしければ、それを質していくのが第12旅団の役割だ。そういう名目で設置されている団ではあるが、如何せんブラッドを隔離するためだけに存在しているのが現実だ。今となっては設置理由など通用しないだろう。

 自分は――彼にとっては上官にあたるかもしれないが、いつ国王の命令を優先してもおかしくない立場だ。

051 藍羅

「ブラッド。一つ、約束して頂戴」

052 ブラッド

「真面目な話?」

053 藍羅

「良い? 例えギリギリの状況でも、裏切るな。あたしを」

 先手を打つ必要がある。少しでも元に戻せるのなら、どんな些細な事でも試してみる必要がある。だが失敗は許されない。

 そのためには。信頼できる人間が必要だ。いつになく真面目な面持ちで彼は黙って聞いていた。無茶を通している事は重々承知している。

054 藍羅

「公式には排除された形で、旅団に所属してるアンタだから言うわよ。国を一つ、欲しいと思わない?」

055 ブラッド

「国は案外どうだっていいな。けどな。――俺は姫の兵だ」

056 藍羅

「リブレはどう?」

057 リブレ

「薄っすら理解できましたよ。そういう事なら乗ります」

058 ブラッド

「ところで姫さんよー、猫拾ったんだって?」

 突然話を折られ、呆気に取られる。

059 藍羅

「猫じゃないわ、蛮猫族よ」

060 ブラッド

「いやあ、猫だろ。尻尾あって、こんだけ手足違えば」

 そう言ってヌクリアを膝に乗せる。

 手足が獣の姿そのままなヌクリアと比べ、拾った蛮猫族の少年はより人間に近い姿をしている。どちらも年齢を重ねるにつれて、人間と区別のつかない姿になるのだろう。

061 ブラッド

「お前さんが飼うわけでもねンだろ? あの連中、人間に対する恨み深いからなァ。特にお前さんは元凶の娘ときた」

 医療班に治療を任せたまま置いてきてしまった少年の事を思い出す。きつく言ってはあるが、大丈夫なのだろうか。

062 藍羅

「じゃあアンタの膝に乗ってる子は何よ」

063 ブラッド

「こいつは特別だからいいんだよ、イイコだから悪い事しねェしな」

064 ヌクリア

「ヌク、イイコにしてる」

065 藍羅

「よく言うわ……段々アンタの影響出てきてるのは気の所為?」

066 ブラッド

「気の所為。……て事にしてくれ」

 この先どうなってしまうのか心配ではあるが、手に負えなくなってきているのも事実だ。思わず溜め息を洩らした。

067 藍羅

「まあ、彼らとは利害が一致するのよ」

068 ブラッド

「利害? 何のだよ」

069 藍羅

「ちょっとは自分で考えようとか、思わないわけ」

070 リブレ

「まあまあ、穏便に」

071 ブラッド

「お前は徐々に化けの皮剥れてきたな……」

 考える事は他人任せか。即座に返ってきた言葉に落胆する。流石のリブレもそれには参った様子だった。

072 藍羅

「城下のドラッグと、おとといのあの騒ぎ。人間だ蛮猫だなんて騒いでる場合じゃないって事」

073 ブラッド

「やっぱアイツ、『それ』絡みの実験体だったの?」

074 藍羅

「さあ、詳しい事は聞かされてないから、調べないと分からないわね。特徴ははっきりしてるから、探すにはそんなに苦労しないと思うけど」

075 リブレ

「必要なら僕がやりますが」

076 ブラッド

「あー、頼むわ。お前なら軍部の端末でも何でも、簡単に侵入できそうな感じがする」

 スクリーンに一つのファイルを展開する。アルファベットと数字で構成された文字列が一斉に流れた。横でそれを見ていたブラッドが悲鳴を上げる。

077 ブラッド

「……って、なんだよこれは! 何の暗号だこりゃ」

078 藍羅

「アンタ、ホントに腕力だけなのね」

 戦場に置いては彼の右に出る者はないとまで称されている割に、勉学に関してはからっきしのようだ。

 渡された書類にすら、ほとんど目を通していないという話も、今なら素直に頷ける気がする。呆れた調子で軍服の襟元を掴み、そのまま続けた。

079 藍羅

「そこいらに出回ってる強化ドラッグの成分表。でもって、こっちは今開発中の、その対策用のもの!」

080 ブラッド

「対策だあ? 前線に放り込まれてる連中なんてほとんどゾンビじゃねェかよ。あれを今更どうにかするってのか?」

081 藍羅

「出回ってるのは純度が低い粗悪品なのよ。あたしが父様に無理矢理作らされたのがこれ」

082 ブラッド

「けど、対策用なんて開発した日にゃあ、お前。自殺行為だぞ」

083 藍羅

「このままじゃ、中毒者皆あたしが殺してるようなもんじゃない。そんなの……」

084 ブラッド

「ちょっと、リブレ、お前が見た方が早そうだわ、これ。姫さん、手いい加減……首絞まる」

 呼ばれた青年が苦笑しながら画面を覗き込んだ。ブラッドが先程から呼んでいる名前と言い、前の所属先といい、どこかで見た覚えがあるのは気の所為だろうか。

085 リブレ

「本当に貴方がこれを作ったんですか?」

086 藍羅

「悪いけど、あたしこれでもこっち方面じゃ一線張ってるわよ?」

087 リブレ

「とんでもない皇女だな」

088 藍羅

「どういう意味?」

089 リブレ

「ここは本当に……子供でも軍に入れるだけの年齢に達していて、能力さえあればいくらでも上を狙えるんです」

090 藍羅

「あ、思い出した」

 手をぽんと叩いてリブレを見やる。

091 藍羅

「リブレ・アナレス元大尉。最年少かつ首席で第5師団に入った、手の付けられない問題児。貴方がその人! てっきり処分されたって聞いてたわ」

092 リブレ

「非常に残念ですが、それが正解です。だから新米でも新入りでもないって言ったのに……」

 言葉を遮るようにアラートが鳴った。周囲を見渡してみたが、棟内で鳴っているわけではないようだ。視線を戻してみると、ブラッドが心底嫌そうな顔で無線を手にしていた。

093 ブラッド

「多分、ここに来る前に姫さんが言ってた、上の連中からの押し付け任務だ……ちょっと行って来る」

 声に破棄が無い。本当に嫌なんだろうと、何となく思った。

094 中将

「南の……エアドレイドの鎮圧は」

095 宰相

「済んでいます。特に問題はないと思われる」

096 中将

「あの辺りは大人しいから苦労しないだろうな」

097 宰相

「北の猫は厄介ですよ、獰猛だ」

098 アイザック

「だから蛮猫と言うのだろう?」

099 宰相

「ご尤も。閣下、姫君の件に関しては如何致しましょう」

100 アイザック

「アレは放っておいても問題なかろう、大した事はできん」

 重たい空気が過ぎる。円卓を囲む人数の割に、言葉を発する人間の数は限られた。

101 宰相

「ところで中将。第5師団の問題児は?」

102 中将

「処分した。12旅団回しだ」

103 宰相

「あの少将に任せるというのですか……無謀な事をなさる。まああの団であれば無茶もできまい」

104 中将

「それよりも西のアルフィタだ。こちらでレジスタンスの存在を確認しているが」

105 宰相

「危険と判断されますか」

106 中将

「どうだろうな。脱走サンプルを見かけたという情報が入っている事も気になるんだが……奴に任せるか」

 人を呼び出しておいて、場所の指定もなく、探し回った末に辿り付いた会議室でさえ扉は固く閉めたままだ。いつもの事だと思いつつも、この扱いには正直腹が立つ。荒々しく扉を蹴り開けた。

 皆苦い顔をこちらへ向けた。

107 ブラッド

「うるせーんだよ、どいつもこいつも。自分で動く気ねェなら、俺のする事に文句言うな」

 国王以外が眉を顰めた。中心に歩み出る。

108 宰相

「少将、口を慎むべきだ。お前の階級は所詮紛い物なのだからな」

109 ブラッド

「そんなモンは閣下に言いな。俺はアンタらの捨て駒じゃねェ」

 自分の親と同等の年齢の人間に囲まれる。異様な光景ではあった。だがそれは国王自身が招いた物だ。旅団設置にあたって、戦力に見合った階級を自ら与えた彼に文句を言えば良い。

 国王は肘を突いたまま溜め息をついた。

110 アイザック

「正論だな、少将。良かろう、任務を与える」

111 ブラッド

「どうせ誰も行く気ねェんだろ?」

112 アイザック

「隊を一つ貸す。アルフィタの叛乱分子の始末と、逃亡したサンプルを捕獲しろ。良いか、決して殺してはならぬ」

113 ブラッド

「俺だけで足りる」

114 アイザック

「お前は最近失敗続きだからな。保険だ、連れて行け」

 こんな理不尽な任務に、鬱陶しいだけの大所帯は要らない。自分一人なら民間に手を出す心配もない。それができるだけの戦力を与えたのはどこの誰だろうか。

 力任せに扉を閉め、会議室を後にした。

115 アイザック

「やれやれ……」

 街は荒廃していた。経済上は豊かなはずだが、そこ彼処に廃退した雰囲気が漂っている。国が戦時中であることを考えれば、この切迫した空気にも自ずと納得が行く。

 問題は国がそれを終わらせようとしていない事。辺りには両親とはぐれ、或いは失った孤児だらけだ。

116 クイーヴ

「フローズ、いるか?」

 仕分けされた麻袋の合間を縫って少年が覗き込む。立ててあった木材を倒して近付いてくる。

117 クイーヴ

「フローズ、おい、返事くらいしろ」

 面倒見の良いレジスタンスのリーダーが匿っている子供の内の一人が、彼だ。そういう認識しかない。彼が見込んだ子供は、ほとんどが対抗手段を教えられていた。

 彼はそれを護身のためだと言っていたが。

118 クイーヴ

「フローズ! 少しは僕の手間も考えろ」

119 フローズ

「お前の手間なんて、大した事ないじゃないか。どうせ小間使い」

120 クイーヴ

「なっ……それを言ったら皆あまり変わらないだろ」

121 フローズ

「狙撃しか役に立ってないからな」

 ライフルを背負った少年が拗ねた様子で背を向けた。無造作にポケットに放り込まれた無線からは、ノイズが漏れている。いつもと機種が違う気がするのは、あまり考えない事にした。

122 クイーヴ

「ヘイズは……何がしたいんだろうな」

123 フローズ

「戦争させたい訳じゃないだろう。本当に護身なんだよ、多分」

124 クイーヴ

「お前までヘイズの味方か」

125 フローズ

「……なんだ、反抗期か。じゃあ一つ聞く」

 クイーヴの、予想外の切り返しに困惑している様子が見て取れた。構わず続ける。

126 フローズ

「お前は、身内の為に闘えるか」

127 クイーヴ

「どういう意味だよ、それ」

 予想通り、ただ相手の遣り口が気に入らないだけで、深い事は考えていないようだ。

128 フローズ

「私は兄を探してる。いないなら仇を討つ。それだけだ」

 リーダー・ヘイズとは都合の良い関係にあった。戦力を提供する代わりに戦術を習う。目の前のクイーヴにしたって同じ事だろう。スラムの子供は結局そういう扱いだ。

129 クイーヴ

「……もういい、僕は司令部に戻る。何かあってからじゃ遅いからな」

130 フローズ

「昨日のお前の家出騒ぎ?」

131 クイーヴ

「そっちじゃない、異人の方。下手に関わらない方が良い」

 瓦礫を崩し、踵を返したと思った途端、足を止めた。彼は独り言のように呟く。

132 クイーヴ

「なんて言うか、空っぽなんだ。不気味だよ。……でも、荒らされるのも嫌だしな」

133 フローズ

「私は実際見たわけじゃないから、何とも言えないな」

134 ヘイズ

「……外が騒がしいな」

 気にはなるが、諜報に当たっている仲間からの警戒の通信も特に入っていない。無理に動く必要もないだろう。念のために呼んでおいた医者の女は、奥のソファを占領して横になっていた。

 元が軍人というだけに周囲の緊張は高まっていた。妙な動きを見せれば、その場で処分されるだろう事は目に見えている。それでも自分には彼女がそんな愚行を起こす気がしなかった。

135 レイジ

「迷惑をかけるかもしれない」

136 ヘイズ

「なに、うちはいつでも迷惑まみれだから今更大した事じゃない」

 一晩のほとんどをだんまり決め込んだまま過ごしていたが、拾ってきた白髪の青年も同様の扱いを受けていた。何故雪原なんて辺鄙な場所にいたか、聞く気はない。

137 ヘイズ

「特に連絡来てないから、クイーヴか?」

 雑音の原因が気になって窓の外を見やる。青年が黙ったまま立ち上がった。扉の前に佇む。

 勢い良く開いた扉に銃口を向けた。

138 クイーヴ

「お前の素性が分かるまで、無条件で逃がしてやるわけにはいかない」

139 ヘイズ

「……やっぱりな」

 暖炉の薪崩れて音を立てた。ライフルの標準を男に定めてはいるが、この距離では意味を為さない。流石にその事は本人も理解しているだろう。

140 レイジ

「邪魔だ、そこをどけ」

141 フローズ

「この馬鹿は無駄な正義感に捕われてるだけだから、気にしないように」

142 ヘイズ

「気にするも何も、相手にされてない感じすらあるけどな」

143 クイーヴ

「お前ら一言多い!」

144 ヘイズ

「まあ入れ、邪魔だから。クイーヴは一つ勘違いしてる事を覚えとけ」

 クイーヴの上着を掴み、家の中に押し込んだ。バランスを崩して慌てている。不服そうな表情を浮かべて距離を取っていた。

 どこで何を聴かれているか分からない。活動に関わる事を口にするなら気を配るべきだ。

145 フローズ

「おい、アホ。よく聞くように」

146 クイーヴ

「……アホじゃない」

147 ヘイズ

「一つ先に言っておく。お前がレブナンス側の人間じゃないと見たから言うが」

148 レイジ

「アレにあるのは恨みだ」

149 ヘイズ

「俺らは反レブナンス派のレジスタンスだ。民間には手を出さない事を掟にしている」

 青年は相変わらずの無表情でそれを聞いていた。反対側に佇むクイーヴは納得がいかない様子でそれを見ていた。

150 ヘイズ

「で、クイーヴ。あくまでそいつは一般の民間人だ。お前は民間人に手を出した事になる」

151 クイーヴ

「善良な一市民が、いきなり銃口向けてきたりなんかするか!?」

152 ヘイズ

「原因はお前だろうが。一般人だって普通に武器持ってるご時世だぞ。お前の価値観で量るな」

153 クイーヴ

「ヘイズの常識を問いたいよ」

154 フローズ

「また始まった……」

155 斥候

「ヘイズ、大変だ! 軍が乗り込んできた!」

 フローズの呆れた溜め息をきっかけに、木製の扉が勢い良く開け放たれた。スヴェルが肩で呼吸をしながら、廊下に倒れこんだ。

 異常な様子を覗き込むと、腕に怪我を負っているのが確認できた。

156 クイーヴ

「スヴェル、撃たれたのか!」

157 斥候

「レブナンスの、よりにもよって疫病神が乗り込んできやがった……」

158 レイジ

「そいつは金髪か」

159 斥候

「らしいな……アイツら、狂ってる」

160 フローズ

「これは誰にやられた?」

161 斥候

「市内を暴れ回ってる中毒兵士だ、大した事ない」

 呼吸が荒い。腕からは血が滲んでいた。髪のブロンドも湿った色をしている。怒りか、怯えか、動揺を見せるクイーヴの脇でフローズが肩を落としていた。

 双方、暴動はあっても実際に軍人を相手にした事がない。

162 ヘイズ

「フローズ、スヴェルの代わりに伝達を頼んで良いか」

163 フローズ

「分かった、状況報告でいいんだな? ついでに診療所から必要そうな物、貰ってくる」

164 サージェ

「見せてみろ」

 足音と気配に振り返る。寝ていたはずの女医が起きていた。深刻な面持ちでスヴェルの傍へしゃがみ込む。

 袖を破り、傷口を確認する。

165 斥候

「……ッ触るな!」

166 サージェ

「弾丸が貫通している……酷い状態だ。ここに麻酔はないか?」

167 ヘイズ

「分かった、手配する」

168 サージェ

「頼んだ、できるだけ早く欲しい」

 有力な味方を失う訳にはいかない。それ以上に彼は友人だ。人命を救うに当たって手段や人間を選んでいる余裕もない。

 手持ちの医療道具を並べ始めた女の手を振り払い、スヴェルが叫ぶ。

169 斥候

「お前の手は借りない! お前も軍人だろうが!」

170 サージェ

「軍人? 規律が何だと言うんですか、目の前で死にかけてる人がいる!」

 予想外の女の反応に面食らった様子を見せる。

171 サージェ

「私は軍人である前に医者だ。目の前で死なれちゃ、私が地獄に堕ち切れない」

172 ヘイズ

「スヴェル、大人しく治療を受けておけ。損はないはずだ」

 その様子なら安心はできる。軍医を務めていたくらいなのだから、腕は確かだろう。残る問題は、彼が持ち込んだ現状報告の事だ。

 青年が眼前に立った。

183 レイジ

「場所はどこだ」

184 斥候

「市内広場……連中は民間にも見境ないから気をつけろ。気を抜くとやられるぞ」

185 ヘイズ

「……どう、狂ってるって?」

 憔悴しきった様子で口を開く。

186 斥候

「それが……」

 肝心の言葉は、市内からの爆発音に掻き消されて聞こえなかった。