GUNBLITZ

ACT03 HakenKreuz [ blitz_03 ]
No. キャラ 台詞、状況

 灰の蠢く空の先を探る。それは深淵のようだった。

 奪った銃の残弾が少なくなっている事をふと思う。無駄撃ちはできない。

 人肌で解けた雪が指先を伝った。

001 レイジ

 降りしきる。降り止まぬ。舞い散る。雪。

 凍えた風に触れる。じわじわと染み込む冷たさに意識を引き戻された。

002 レイジ

 白。静寂。冷涼れいりょう 。それは呪縛する言葉。

003 レイジ

 同じ言葉に、俺は縛られている。

 寄りかかっていた石碑が酷く冷たい。硬く軋む足元からは氷が体温が奪って行く。かじかんだ指先に力が入らない。

 続いていた呼吸が徐々に弱まって行く。バランスを崩して雪の上に寝転がる形になった。後頭部がよく冷える。

 前方に広がる空は相変わらずの灰色を漂わせる。それでも目を伏せたくなる程空は眩しい。

004 レイジ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第一章 GUNBLITZ、ACT3「HakenKreuzハーケンクロイツ

 軋む体を起こそうと、手をついた。腕に力が入らず、起き上がる事も敵わない。再びその場に崩れた。

005 レイジ

「レブナンス、アイザック……くそッ……」

 深い雪に埋もれる。足場が崩れて行く。

 白かった箇所が薄っすらと朱に染まった。血は溶けかけの雪に滲んでいく。

006 レイジ

「あの女……よくも好き放題してくれたな」

007 レイジ

 体内に埋め込まれていたコードは全て引き抜いた。

 反動か、傷口はまだ塞がるに至らない。

008 レイジ

 暴君にしても、あの女にしても。この扱いを考えれば、他人をどう見ているのかなんて自ずと知れる。

 無理矢理引き抜いたコードの所為か、体中麻痺したままろくに身動きも取れない。

 いつ埋め込まれた物かも、今となっては思い出す事ができない。少なくとも最近の事ではないようだ。

009 レイジ

 注射針、培養液に浸されたシリンダー、日の差さない暗い地下研究棟。アミノ、タンパク質、DNA、高カルシウム、抗体、免疫。そして事後評価。不完全。

 足を引き摺り無理矢理起き上がる事を選んだ。抉った雪を赤く染めていく。

010 レイジ

 うんざりだ。

 何が失敗だ。どこに欠陥がある。より完璧なるものとは何だ。より精巧な被造物がまた作られるのか。

011 レイジ

 そうまでして神の領域へ足を踏み入れたいのか、人間は。

 毒づき、腹の底に溜まっていた憎悪をぶちまける。

012 レイジ

 壊してやった。重要な資料は全部。……混乱するがいい。こんな愚行を認めるわけには行かない。

 光に拒絶される肉体からだなど。

 空を見上げ、重たく湿った冷気を吸い込んだ。後頭部を浸す雪の冷たさも徐々に麻痺を重ねていく。

 頭痛と眩暈が同時に襲った。血を失いすぎたか。体中の力が抜けていく。腕が上がらなくなっていた。耳鳴りに混じって、風の揺らぐ音が聞こえた。

013 レイジ

 生き物の存在を拒んだ自然が広がっている。その怒りにさえ溶け込めるこの姿は。

 あの女は自然迷彩、といっていたか。

014 レイジ

 目を覚まさなければ、自分が異端である事も知らずに済んだものを。刷り込まれた記憶さえ、今や本物かどうか俺自身知る術がない。

 黒いプラカードのような物を手に、宙から無機物を引きずり出すように念じた。

015 レイジ

「ホバー、起動ラン

016 レイジ

 記号化された魔法を扱いやすくカードにして閉じ込めた物――通称、マナ。

 絵図がなければこれがホバーだと判別できずに、時間だけが無駄に経過していた。

 具現化されたホバーが頭上に見えた。一度目を瞑り、体を起こそうとゆっくりと重心を傾けた。

017 レイジ

 実に良くできた代物だ。あまりの出来の良さと危険度に、流通量も当然少ない。加えて軍が独占しているため、一般人では入手に骨が折れるだろう。

 広がり始めた傷口が痛む。

018 レイジ

「……ッくそ、修復が遅い……」

019 レイジ

 限界値まで上げられているはずだと聞いた。それにしては反応が鈍い。一体どれくらい眠っていたのか。

020 レイジ

 現実も非現実も夢も贋造された記憶も、境界線を失って混合している。

 軋む体をゆっくりとホバーの方へと傾ける。

021 レイジ

 見た限りでは旧式の軍の物だ。操縦法は知っている。あらゆる機械の使用法は予め刷り込まれている。

 だが。

 渇いた音を上げながらエンジンが空回る。本体は起動せずに細い煙を上げて再び停止した。

 あまりの役立たずぶりに思わず溜め息が漏れる。

022 レイジ

 故障か、不良品か。

 この分ではレブナンスが貧窮の危機に貧しているという話も強ち間違ってはいないのかもしれない。

 一人でどうにかできる重量でもなく、仕方なくその場に座り込んだ。

 雪がまた一層酷くなる。風の音さえ強くなった。不規則に吹き付ける風が、慣れない体を益々消耗させる。

023 レイジ

 このまま眠れば凍死するだろうか。あの呪われた研究棟にさえ戻る事にならなければ、それでも良いような気さえ、した。

024 ヘイズ

「おう、こんなとこで寝たら凍え死ぬぜ?」

 力無く倒れこんだ雪に埋もれた頭を起こす。頭上に見えた人影に視線を移した。乱雑な足音と一緒に声が降り注ぐ。

 雪上を滑るエアボートのエンジン音が、やたらと脳内に響く。

025 ヘイズ

「おー凄ぇな、真っ白だ。地毛かコレ」

026 レイジ

「……触れるな!」

 咄嗟についた両腕に力を篭める。起き上がった反動で相手の顔面目掛けて足を蹴り上げた。当たる寸でのところで腕に掴まれ、状態は静止した。

027 ヘイズ

「なんだ、いきなり蹴りたぁ元気だな。心配いらなさそうだ」

028 レイジ

「触れるなと言っている」

 好奇の視線に晒され、心底不愉快に思った。苦笑を浮かべる男の身長は自分より遥かに高い。掴まれていた足を急に引き摺られた。

029 ヘイズ

「油断してると……反撃が来るぞ、坊主!」

030 レイジ

「何を……、ッう」

 慌てて頭を下げて直撃を免れた代わりに、肘が額を擦った。喉への打撃を避けられただけマシだったかもしれないが、舌を噛んでいたら面倒な事になっていただろうと思うと、何とも複雑な気分だ。

 バランスを崩して再び白い絨毯へと飲み込まれる。

 脳髄を縦に揺さ振られた。

031 レイジ

「……貴様!」

 視界の定まらない頭で、手にした銃を男の方へ向ける。ぐらついたままの世界が徐々にクリアになるまでに暫くの安静が必要だと思われた。

 男は。

 曖昧に笑ってからかうだけだった。

032 ヘイズ

「大層なモン持ってやがんな。そう怒んなよ。さっきの仕返しの、ちょっとした挨拶代わりだってーのに」

 所詮威嚇でしかない。ホバーの座席の下の銃弾は、薬莢があるだけで火薬など入っていなかった。

 軋む脇腹に手を当てる。雑念をなくし、冷静に念じるだけで治るはずだ。白衣の連中が口々に誇っていた呪いの言葉を、本当に信じるのならば。

033 ヘイズ

「んん? お前、目、悪いのか?」

034 レイジ

「何故そう思う」

035 ヘイズ

「仕草がそう見えたってーか、まあ、勘だな。俺の方睨んでたからな」

 意外な洞察眼に舌を巻く。男の顔は逆光でろくに判別できなかった。薄暗い灰色の空でさえ眩しく感じられる。

036 レイジ

「眩しいだけだ。……邪魔だ、どけ」

037 ヘイズ

「眩しいかあ? お前、もしかして」

038 レイジ

「いい加減、黙れ」

 肩を竦めて男は背を向けた。随分大柄な男だと、この頃になって初めて気がついた。エアボートのエンジンをかけ、立ち止ったまま男は呟く。

039 ヘイズ

「見つけた時はてっきり染めてんのかと思ったが、その髪。眼もそんだけ赫いとなると、お前、アルビノか?」

040 レイジ

「黙れと言っている」

041 ヘイズ

「まあ怪我も酷いようだ。来ると良い」

 低い振動音がボロボロの体と、呆けた頭に響いた。

 駆動音を響かせるエアボートはメインの大通りを抜け、人込みを退かしながら進む。青いビニールシートの被せられた荷物に紛れ、人通りの少ない裏路地に出た時には正直ほっとした。

 それが男なりの気遣いだと気付く。

042 ヘイズ

「着くぞ。もう人目にもつかないだろ、出てきても平気そうだぞ」

 特に頼んだわけでもなかったが、人目に晒される事は避けられた。追手がいようがいまいが始末できるだけの自信はあったが、周囲を巻き込めば面倒な事になるのは目に見えている。

 紺色の髪の少年が、停止したボートの付近をうろつき始めた。

043 少年

「おかえり、リーダー!」

044 ヘイズ

「何も問題はなかっただろうな、シグ」

045 少年

「リーダーが留守の間に、シエルが来たみたいだけど」

046 ヘイズ

「シエルが? あのガキ今度は何……」

 少年は時々こちらの様子を伺いながら、視線を男の方へ戻した。

 手元のメモ帳が萎びて今にも破れそうだ。ハキハキとした口調で再び続ける。

047 少年

「スヴェルさんのとこにいたから、報告じゃないかなあ」

048 ヘイズ

「代わりに何を持って行った?」

049 少年

「乾パンと林檎と固形食、あとはピストル用の弾丸」

050 ヘイズ

「結構高くつくな……まあ、アイツの情報量を考えたら仕方ねえか」

051 少年

「あっちの孤児院もカツカツみたいだからね」

052 レイジ

「……孤児院?」

 目の前で繰り広げられる報告の遣り取りを傍目に、シートに腰かける。どう頭を捻っても、この男が子供に囲まれる姿は予想できない。

053 少年

「この辺の孤児のためのものだよ」

054 ヘイズ

「こいつらも元々向こうの出なんだが、俺が何人かこっちに連れてきてる」

 似合わない顔をして子供が好きなのだろうか。少なくともこの男は、そこらの民衆よりは戦い慣れているように思えた。

055 少年

「お兄さん、何で髪の毛白いの?」

 首を傾げながら、少年は尋ね辛そうに口を利いた。

 訊かれても答えるべき言葉が浮かばない。そんなものは自分が問いたいくらいだ。

056 ヘイズ

「シグ、お前なあ……」

057 少年

「気になるんだもん、灰色は見た事あるんだけど」

058 ヘイズ

「お前が見た事あるかないかは関係ないだろ」

059 少年

「綺麗な白だから、不思議だなと思って」

060 ヘイズ

「無茶な事訊くなよ。お前だって、そんなん訊かれたら困るだろ?」

 頭をぐりぐりと掴まれながら、少年は苦笑する。咄嗟に庇われたのか、男は複雑な笑みを浮かべてこちらを向いた。

 特に気になどしていなかったのだが、答え難かっただけに助かった事は、内心認めざるを得ない。

061 少年

「うーん……それもそうだね」

062 ヘイズ

「分かったら何かこいつに一言、言う事は」

063 少年

「ごめんね、お兄さん」

064 レイジ

「気にしていない」

 あまりに真っ直ぐ見上げてくるもので、思わず視線を逸らした。子供は純粋すぎて、どう対応して良いのか分からない。

065 少年

「よーし、向こう手伝ってくる。リーダー、搬入リストは?」

066 ヘイズ

「ホレ。とっとと行っちまえ」

067 レイジ

「……慣れてるのか」

068 ヘイズ

「ん、何に?」

 走り去った少年の背を目で追いながら、男はボートの荷台に乗せていた荷物をゆっくりと下ろし始める。

069 レイジ

「異端に」

070 ヘイズ

「ああ、なんだ。別に珍しいもんじゃあねえさ。身内にいたんだよ、お前みてーのが」

 それだけ言うと、近くに見える木造小屋を指差し、顎で促した。

 一口に異端と言っても、どういった種類のものかまで聞く気は起こらなかった。

 拠点付近の見張りを頼まれてから何時間が経過しただろうか。流石に景色を見渡すだけの仕事は、何も起こらない限り退屈も良いところだ。

 高台から見渡せる街にはいつも通りの景観が広がっている。

 手元の無線にすら、流れるノイズもない。手製の無線を手に取り、暇を潰せそうな相手に声をかける。

071 クイーヴ

「スヴェル、聞こえるか。おい、スヴェル」

 無線は通じているはずだが、返答がない。意図して無視してるだろう姿が目に浮かぶ。相手にしてもらえないなら、それまでだ。話し掛けるだけ無駄だと分かっている。

072 クイーヴ

「重要じゃないと取り合わないってクチか、盗聴マニアめ」

073 クイーヴ

 こんな寒い世界では農民さえ必死だ。その農民と交換条件をつけて得た食べ物を、痩せこけた子供に配る。

 狩猟を主にしていた農民にとって、物々交換でできた事が彼らには通用しない。

074 クイーヴ

 利益も何もない慈善事業だ。こんなもの、物好きのする事だ。

 溜め息混じりに無線を放る。

075 クイーヴ

 雪原の野犬や熊を狙う事に何の恐怖もない。それが人の形をしたものに変わるだけで、怖気づく。

 思い立って銃を手に取り、残弾を確認する。銃弾さえあれば、この場所からならいつでも撃てる。その弾丸が。

076 クイーヴ

「あと二発……足りないな、次の配給はいつになるんだ」

 予備の銃弾は残っているが、確実に仕留めるなら二発では物足りない。

077 クイーヴ

 肝心の補給は出て行ったきり、まだ戻ってきていない。

078 クイーヴ

 リーダーなる男には、この世界共通の言語と猟銃の使い方を叩き込まれた。外見は決して友好的には見えないが、実際に話してみると人当たりは良い。

079 クイーヴ

 きっと見た目だけで損をしている。

 そんな男が――。

 ふと下方に見慣れない姿が見えた。到着したばかりのエアボートの前に立つ恩師の近くに佇む白い影。

 戻ってきた。浮き足立っている同胞の姿を見る限り、何やら一騒動あったようだ。放った無線機からも声が漏れる。

080 斥候

『どうした、まだ戻ってきてないのか』

 呆れた声音がノイズ混じりに聞こえた。都合の良い時にしか返答がないところは、薄情だ。

081 クイーヴ

「……どうだかね」

082 クイーヴ

 あの男は見慣れない外部の人間と一緒にいる。

 いつもの事と言えばそれまでだ。しょっちゅう見知らぬ人間を拾ってきては匿っている。

083 クイーヴ

「スヴェル。参謀として何とかならないのか、ヘイズの拾い癖」

084 斥候

『また何か拾ってるのか?』

085 クイーヴ

「貧乏性にも程があるんじゃないのか」

086 斥候

『昔からああ言う奴だ、我慢しろ』

 ここにいる大人は身勝手だ。相も変わらず、通信士は勝手に話を続けた。

087 斥候

『縄張り内に見慣れない奴がいるらしい』

088 クイーヴ

「分かってる、白い奴だろ?」

089 斥候

『それだ。引き続き警戒してくれ』

 そして気が向かなければ、返って来るのは仕事の話しかない。溜め息混じりに立ち上がった。

090 クイーヴ

「……了解」

 張り詰めた緊張感、得体の知れぬ恐怖。見慣れぬ姿に誰もが浮き足立っている。この場で普段通り、平静を装って行動している人間なら、片手で数え切れる。

 皆、慎重だ。

091 クイーヴ

 不意に不自然なまでに白い、異形のものと目が合った。

 圧倒的なまでの威圧感に居竦まる。着ているコートと相反して、際立って白く見えた。

092 斥候

『クイーヴ? どうした』

 押し黙った事を察してか、怪訝そうな声音でスヴェルは尋ねる。

 リーダー・ヘイズの後方に見える、白い姿を追う。ライフルを手に取り階段を駆け下りた。

093 斥候

『クイーヴ! おい、聞いてるのか、クソガキ!』

 押し込んだ無線から、荒げた声が聞こえる。怒鳴る口調で男は叫んだ。

094 斥候

『ヘイズ! 早とちりの阿呆がそっちに行った!』

095 クイーヴ

「誰がアホだ、誰が!」

 目の前まできた所で猟銃を構え、狙いを定める。

096 クイーヴ

手を挙げろハンズ・アップ!」

 こめかみへ銃口を宛てたつもりだった。銃口に抑えられてるのは自分も同じ事に気付く。

 目の前の存在を恐ろしいと思った。眼前にいるにも関わらず、自分の事など何も見えていないように思えたからだった。

 無言のまま銃口を下ろし、男は背を向けた。躊躇わず引金を絞った。発砲音が二発、宙を舞う。弾頭が軽く感じられた。

097 クイーヴ

「なんて奴だ」

098 レイジ

「随分な挨拶だ」

 溜め息交じりに掃き捨て、男は頬から垂れる血を拭う。弾頭は掠っただけで致命傷には到らなかった。

 脈が波打つ。実際に目の前で人の形をしたもの、という認識を持って撃ったのは初めてだ。

099 クイーヴ

 この男が、普通に人間の言葉を話す事に驚いた。

100 クイーヴ

「ここは戦場だ。銃を持ったら殺される事、相手を殺す事、覚悟しろ」

101 レイジ

「フン、マニュアル通りの言葉だな」

 乾いた発砲音に、振り返る。足下には不自然に砕かれ、無惨に散ったプラスチックがばら撒かれていた。

 壊れた無線からはノイズが漏れるだけだった。

102 クイーヴ

「ああっ! お前、何て事を! 既製品にしたって手に入れるの大変なんだぞ!?」

103 ヘイズ

「何遊んでんだ、クイーヴ」

104 クイーヴ

「誰の所為だと思ってる、遅い! 弾切れだ!」

 ひょっこりと顔を覗かせたヘイズに向かって憎まれ口を叩く。どれもこれもこの男の所為だ。心配した自分が馬鹿らしい。

 残しておいた残弾も、今ので全て撃ち尽くしてしまった。戦場だと言っておきながら、防衛手段を自ら捨ててしまったのは自分の方だ。

105 ヘイズ

「うるせーな、監視が厳しくなってて補給も楽じゃねえんだよ」

106 クイーヴ

「それより、そこの後ろの奴の説明をしろ。何だ、そいつは」

 物がはっきり見えていないのか、何もない場所で足取りが不安定になったり、時々家具の足下につかえては不自然な動きを見せる、その男。

 無表情の中に感じさせる嫌悪と反して、ほとんど意思を感じさせないためだろうか。一層不気味さを増していた。

 ヘイズは溜め息をつき、肩を竦めた。

107 ヘイズ

「おい、白いの。下手に動くな、こけるぞ。……怪我が酷かったから拾ってきたんだが、治療の必要もなさそうだな」

108 クイーヴ

「なんだって?」

109 ヘイズ

「ここに来るまでにほとんど塞がっちまった。一応スヴェルに医者確保させてたんだけどな」

110 クイーヴ

「ゾンビじゃあるまいし」

 白髪はくはつの男は興味無さそうに視線を外し、部屋の奥へ入って行くと、窓際の壁へ寄りかかった。

111 クイーヴ

「これを匿うつもりか? 大体あの医者だって、元軍人だって言うじゃないか。信用できないものばっかり拾ってくるんだな、ヘイズは」

112 ヘイズ

「どっかのジジイみたいな事言うなよ、臆病だな」

113 クイーヴ

「付き合ってられない」

 ニット帽を目深に被り、猟銃を肩にかける。残弾こそなかったが、彼が到着したと言う事は、知人を当たって手当たり次第漁れば出てくるだろう。

114 ヘイズ

「どこへ行くつもりだ? もう外は暗くなってきてるぞ」

115 クイーヴ

「自分の身の安全は自分で守る。それの何が悪い」

 夜間に出歩く事が危険なのは、重々承知している。ヘイズでさえ今日中に済ませる予定でいた配給を断念したくらいだ。

 それでも素性の知れない存在ものの傍にいるよりは遥かにマシに思えた。

116 ヘイズ

「……お構いなく。火種持ち込まなきゃ言う事ねえさ」

117 クイーヴ

「そっくり返すよ、その言葉。ここ数日で革命軍の一端がやられてる。精々気をつけるんだな」

118 ヘイズ

「腹すかせたって俺は知らねーからな」

119 クイーヴ

「……フン、それくらい自分で何とかする」

120 クイーヴ

 スヴェルが仕入れた情報が正しければ、この数日間での革命派の処分は悪化の一方を辿っている。

121 クイーヴ

 情報屋の推測が間違っていないとすれば、レブナンスの旅団が動き出していてもおかしくはない。

 それなのに、この分からず屋はこれだ。

122 クイーヴ

「気が知れないね」

123 レイジ

「気が短いんだな」

 侮蔑の言葉を吐いたつもりだったが、白い方に返されてしまった。

 頭に血が昇ったまま、扉を勢い良く閉め、外へ出た。冷えた夜空からは未だ雪が舞い降りてきていた。

124 レイジ

「……放っておいていいのか」

125 ヘイズ

「いちいち面倒見てやんねーと、何もできないガキでもねーだろ」

126 レイジ

「そんなものか」

127 ヘイズ

「反抗期って言うんだよ」

 ソファに腰掛け、呆れた口調でヘイズは深い溜め息をついた。