GUNBLITZ
ACT02 Seventh Heaven [ blitz_02 ]

No. キャラ 台詞、状況
001 リブレ

 のさばる。無能が。愚図が。横柄が。

 追悼。

 あっという間にして、反論敵わず、口なしの身となった彼に。

 散り散りになった肉片を、吹雪く銀世界に蹴り飛ばした。

 足下の血飛沫が肉片に引き摺られて伸びる。遥か下方から、どさりという衝突音が聞こえた。雪の上に落ちたあかはよく映えていた。

002 リブレ

「バイバイ、団長。軍人のくせに、殉死じゃなくて残念でしたね」

 降り出したばかりの雪はまた暫く止む事はないだろう。空は深く沈んだ深淵色で染まったまま、滅多に晴れる事がない。

003 リブレ

 都合が悪くなればお払い箱。それまでの恩も、その時になれば全部仇となる。

 彼でできる程度なら僕にだってできる。あの程度のリーダーなら別にいらない。

004 リブレ

 僕が欲しいのは。

 もっと筋の通った、それでいて実行力とカリスマ性のある人だ。それでこそついて行くに相応しい。

005 リブレ

 威張り散らすだけで実質大した事のない無能。都合が悪くなれば人任せ――となれば、誰が排除しようとしたところで結果は同じ事だろう。

 当然、彼も。

006 リブレ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第一章 GUNBLITZ、ACT2「Seventh Heavenセブンスヘブン

007 准尉

「大尉、理解して頂けないようですね」

 05と赤いペンキで塗られた二重のシャッターが下りる。

 銀世界は幕を降ろされ、灰と黒の無機質な空間が広がった。

008 リブレ

「あれ……いつの間に」

 降下ボタンを押した覚えはない。

 背後に、灰色の影があった。

009 准尉

「軍法会議物ですよ、リブレ・アナレス大尉。なんでこんな事を……」

 落ち着いた声音に振り向くと、見慣れた空色と眼が合う。彼女はこちらを一瞥すると、深く溜め息をついて視線を逸らした。

010 リブレ

 誰だって同族の血を見て胸騒ぎのしないはずがない。そこで狂喜するか、嫌悪するかは個人それぞれだとして。

011 リブレ

「意外だな、准尉。免疫あるんですか、こういうの」

012 准尉

「酷い状態ですね……」

013 リブレ

「何だ、見られてました? ああ、ここは寒いですね……」

 鮮血の映える灰の軍服を脱ぎ、凍える寒さに身を強張らせた。つい今さっきまで外界と通じていた空間だ。

 外とほとんど気温は変わらない。流石の設備も、外部は完全に凍り付いていた。

014 准尉

「これは貴方が思っているより重大な問題です」

015 リブレ

「でしょうね」

016 准尉

「……随分落ち着いてるんですね」

 軽蔑されているだろうか。彼女の声音は冷たい。慣れた事だ。無理してまで気を使う彼女のような人間も、珍しいくらいだと思った。

017 リブレ

「たらい回しはもう慣れましたよ。文句言うなら実力の伴った人寄越して下さいよ。みーんな口ばっかで、うんざりなんです」

018 准尉

「自業自得って言うのではないですか」

019 リブレ

 異動を繰り返す事早数年。大抵の事は笑って済ませる。不平不満も溜まらない限り忘れる事にした。

 転々とするうちにどう装えば周りにとって都合が良いか、すっかり体で覚えてしまった。それに従った方が楽である事は否定しない。

020 リブレ

 そうしている内に本来の有毒性は表面から姿を消し、今では口を開けば棘ばかりなりとまで称される様だ。

021 リブレ

「閣下もこうやって僕に用無しを処分させてるんだから、また人が悪い」

022 リブレ

 役立たずが気に入らないから手を下す僕を、暴君はただ利用しているにすぎない。合理的と言えば一応合理的だ。

023 リブレ

 自身の手を汚す事なく彼らを始末できる暴君には、僕も納得がいかないのだけれど。

024 准尉

「閣下は気に食わない人間は特に酷く扱いますからね」

 笑いながら階段に足をかける。ふと通り過ぎた派手な身なりの男に注意が傾いた。

025 リブレ

「そうなんですよねえ……。あれえ、見慣れない姿が」

026 准尉

「どうしました?」

027 リブレ

「准尉、あの人は? 本塔の所属なら見覚えがあってもおかしくないんだけど……」

 彼女は気配に気付くなり嫌そうな表情を浮かべる。心底嫌っている様が見て取れた。あんまりあからさまに嫌悪を浮かべるので、何となくからかってみたくもなる。

 手にしていた書類をぱらぱらとめくりながら、彼女は人知れず溜め息をついた。

028 准尉

「……自らの肉体に、特殊処置を施した軍人はご存知ですね」

029 リブレ

「ああ、ああ成る程。じゃああの人がその有名な少将閣下ですか」

 思わず足を止める。

030 リブレ

 軍に所属する誰もが、あいつの頭はどうかしていると蔑む、かの有名な少将閣下。通称、トリプルB。

031 リブレ

 確かに頭から配線ケーブル伸ばして、他人に制御されるのでは操り人形も同然だ。その見返りに得たのは、人外とまで謳われる戦闘力。

032 リブレ

 元からガタイが良いのに加え、派手な金髪を伸ばし、幼い蛮猫ばんびょうの子を連れ歩いては、自分から自ずと目立っているようなものだ。

033 リブレ

 けど、僕にはより高レベルな人体実験のための、体の良いモルモットにしか思えない。

034 准尉

「大尉もあんまり問題ばかり起こしていると、そのうちあの団に投げ込まれるんじゃないですか?」

035 リブレ

「あー、流石にそれは嫌だなあ」

笑い飛ばしてはみたものの、准尉・マーシャは意に介さなかったのか、つんとして再び歩き出す。

ここ最近の自らの行いを省みれば、否定しきれない。

036 リブレ

「でもまあ、光栄じゃないですか。逆を取れば軍最強って事でしょう?」

037 准尉

「本当にそんな事思ってるんですか? 人の気も知らないで……馬鹿ですか、貴方は」

038 リブレ

「酷いなあ」

 レブナンス空陸軍第12旅団。旅団というにはあまりに少人数で構成されている。一個分隊同等の人数ではあるが、戦力は旅団を名乗るに相応しいと聞く。

039 リブレ

 レブナンス空陸歩兵第12旅団。一個分隊同等の構成ではあるが、戦力は旅団を名乗るに相応しいと聞く。

040 リブレ

 必要兵科が団内に一通り揃えられている。人員不足に捕われる事がない。

041 リブレ

彼らは単独で行動し、目標を撃破するのを得意としているらしいが。

 詰まるところ各個人が一大隊と同じだけの戦力を持っているという事になる。

042 リブレ

 考えれてみれば、とんでもないバケモノどもだ。

043 准尉

「好奇心ばっかり、人の領域に踏み込んでる場合ですか」

044 リブレ

「団長の彼もあの年齢で少将ですからね。特例といえば特例か……」

045 准尉

「色々ワケありらしいですよ? 前線を自由に動くためだとか、旅団長に据えるための階級、などと色々噂もあるようですし」

046 リブレ

「ワケありじゃなかったら、あの年齢であの階級はないんじゃないですか?」

047 准尉

「大尉も似たようなものじゃないですか。ここは極端な実力主義社会ですから」

048 リブレ

 准尉の言う通りの現実だ。実力主義の下、異例尽くしは別に珍しい事でもない。

049 リブレ

 腑に落ちない部分も沢山あるが、それだけの恩恵を受けるという事は、それだけの実力を持っている事を証明している。

半ば呆れた様子で准尉は歩みを緩めた。

050 准尉

「全部自業自得ですよ、こうなったのは」

051 リブレ

「分かってますよ。でも、本当にお払い箱は流石に御免ですね。無理だと思うけど」

052 准尉

「……中将、お連れしました」

 白い廊下の奥の自動扉が静かに開く。暗い廊下とは一転して明るい。目が眩むほどの反射光に思わず目を瞑った。

053 中将

「リブレ・アナレス大尉」

054 リブレ

 白い廊下、白い部屋、白い軍服に白髪頭の上官。窓の露、窓の外の凍てつく大地。降り止まぬ白雲の産物。何もかもが虚無に染まっていく。

055 リブレ

 あまりの白さに気が狂いそうだ。

056 中将

「また余計な事をしてくれたそうだな」

057 准尉

「目撃者もいるんです、これ以上誤魔化しは効きません」

058 中将

「そういう事だ。こちらとしても何の処分も下さない訳にはいかない」

059 リブレ

「第5師団の名に恥じぬよう?」

060 中将

「そういう事になるな。悪く思うな」

061 リブレ

「今更過ぎて反吐が出ます」

嘲笑混じりに吐き捨てると、目の前の上官は呆れた様子で深く溜め息をついた。

062 中将

「国王閣下の判断により、大尉に異動命令が下っている」

063 リブレ

「……どちらへ?」

 待っていたはずの言葉にさえ、脈が波打つ。破棄か、それとも。

 上官が息を飲む。微かに視線がぐらついたのを見逃すはずがなかった。

064 中将

「大抵の処分先はよく知ってるな?」

065 准尉

「興味を示されていたあの団です」

066 中将

「空陸歩兵、第12旅団への異動を命じる」

067 リブレ

 想定はしていたけれど。

 改めて口にされると、少なからずショックではあった。

 急に耳が遠くなったような、妙な感覚。処分を告げる上官の口の動きだけが、ただ見えた。

068 中将

「少将を知っているな? 既に連絡は行っている」

069 准尉

「他で手に負えなくなった軍人が捨てられる場所です。行く末は分かりませんが……」

070 リブレ

「モルモットにされてもおかしくないと言う訳ですか」

071 中将

「実験用のモルモットが、何の功績も残さずに生きて帰る事は許されない。頭の良いお前なら分かるはずだろうな」

072 リブレ

 国王の、人間を人間と思わない暴君の噂は本当なのだ。と、僕自身で証明された。

073 中将

「何回目になるかな、これで」

074 リブレ

 自ら踏み外した道の出口がそれだというのなら。

075 リブレ

「……別に構いやしませんよ」

.
076 ブラッド

「ブラッド・バーン・ブレイズ、階級は一応大佐。分かんねー事は適当に聞いてくれ」

077 ヌクリア

「だんちょ、おしごときたよー」

 足の踏み場もないような会議室の有り様に、青年は目を丸くする。

 軍服を着ている姿はほとんど見られぬ種族の、幼い子供の姿もそこにはあった。紙類を途中でバサバサと落としながら部屋に入り、こちらを一瞥する。

078 ブラッド

「あー、適当にその辺置いとけー。誰だよ、俺を忙殺みたいな、ひでェ事すんの。姫さんか?」

079 ヌクリア

「ねね、だんちょ。このひとだあれー?」

080 ブラッド

「第5師団から異動して来た元エリート君。えーっと」

081 リブレ

「リブレ・アナレス。大尉です、元々はね」

082 ブラッド

「大尉、大尉ねえ。残念だったな、他の連中は佐官になってから連れて来られる奴がほとんどだ。お前はまだ運が良い方だと思ってくれ」

083 ヌクリア

「みーんな、しにそうなかおしてるんだよ。ヌクしってる。リブレ、あっけらかんとしてる」

084 ブラッド

「何しろこの前のドカン、で皆パーだからな。なのに手当ても出ねェ、どうしようもないとこさ」

085 リブレ

「……そんなものですか」

086 ブラッド

 人の言葉を一度で納得しない。人の顔を見ない。ここへ来た人間やつは大抵そうだった。

087 ブラッド

 少し違って見えたのは。

 この処分に納得しているように思えた。その上で改めてショックを受けているといった様子だ。

088 リブレ

「何でこんな事になっちゃったのかなあ……」

089 ブラッド

「そりゃ、お前さんが優秀すぎるのが悪い」

090 リブレ

「そんなに悪い事ですか?」

091 ブラッド

「悪い事だな。上官を脅かす存在、っつーのはそんなもんだ。出世株は真っ先に狙われるな。ガンガン昇級する奴が辿り着く先はここ、ってのが暗黙の了解ね」

092 リブレ

「腐ってますね。相変わらずだな、レブナンスは」

093 ブラッド

「……おい、アナレス。勘違いするな。泣くぞ、俺も被害者だ」

094 リブレ

「ブレイズ少将は自ら堕ちた、って言う噂です。勘違いですか、それは」

 半ば自暴自棄ヤケになっているのか、青年は酷く冷たい声音で捲くし立てる。

 見た目だけなら優等生に変わりはない。順調に階級を上り詰めていれば、佐官までは簡単に辿り着けそうな人間だ。それが一転して二等兵以下の扱いともなれば。

095 ブラッド

「色んな意味で当たってる。俺もハメられたクチだけどな。好きに取りゃいいだろ、俺の言う事信用する奴なんていねェし」

096 リブレ

「結局、そんなもんですよ」

097 ブラッド

「で、リブレ。早速呼び捨てで悪いが、当たる相手間違えてると思うンだけど」

098 リブレ

「……ああ、すみません。ちょっと混乱してて。あ、一つ質問が」

099 ブラッド

「はいよ、何でも訊いてちょーだい」

100 リブレ

「階級が大佐って、一応……ですか」

101 ブラッド

「おう、少将を名乗れって言われてっけど、俺昇進した覚えないし。大佐っつーのもハリボテだかんなあ」

102 リブレ

「前線を自由に動けるわけですか」

103 ブラッド

「そーゆー事。旅団だ、なーんつったって実際二人しかいねェし。俺なんかは定例を引っくり返した玩具箱、って思ってる」

104 リブレ

「なるほど、分かり易い例えですね」

 暖房が切れてすっかり冷え切った格納庫を横目に溜め息をつく。脇の司令室も人気がない。最後に掃除したのはいつだったか。ただでさえ日当たりが悪くて薄暗い。

 会議用の机の上に大量に詰まれた紙の山から、目的の一部の書類を探し当て、引きずり出す。

 無造作に詰まれただけの紙は派手に音を立てて崩れた。それは足下にも散っていた。

105 ヌクリア

「あー! だんちょひっくりかえしたー」

106 ブラッド

「あー……あー、まあいいや、後にすんべ。適当に座れよ、椅子なら余ってる」

107 リブレ

「はあ、失礼します」

108 ヌクリア

「おちゃいれるー?」

109 ブラッド

「任せるわヌク、普通にやれよ? フツーに」

110 ヌクリア

「うん、わかった」

 足の上に落ちた束を拾い上げる。運良く目的の書類が見つかった。

 第5師団から手渡された書類には、彼に関する情報がびっしりと綴られていた。

111 リブレ

「酷い事書かれてるんじゃないかな」

112 ブラッド

「うん、まあ、そうね。あんまアテになんねーな、これ」

113 ブラッド

 見るだけで頭が痛くなりそうな、あまりに優秀すぎる経歴と、今までの暴行の数々。

114 ブラッド

 良い具合に利用され、いらなくなったところで処分されたに違いない。まさか馬鹿正直に国王を信じていたわけでもないだろう。

115 リブレ

「本当に二人しかいないんですね……思ってたのと少し違うかな」

116 ブラッド

「ここは奥津城おくつきだ。体の良い雑用班。この前、最近入った連中が全部死んだ」

 首を傾げながら、本来の調子を取り戻してきているのか、リブレが続ける。

117 リブレ

「この前って……。地下研究施設の爆破騒ぎ?」

118 ブラッド

「あんま聞くな、触れるな、そして忘れろ。」

 今思い出してもあまり良い思い出とはいえない。いまだかつて数える程しかなかった失態も、ついに二桁突入ときた。

 流石に後先考えないまま結果オーライで済ませられるのもこれまでか。「やり方」を改めた方が良いのか判断に迷うところだ。

119 ブラッド

「国王閣下の大ッ事な大事なサンプルを逃がしちまったもんでなー、研究棟の連中が煩せーわけよ。俺の所為じゃねえっつうの」

120 リブレ

「触れるなとか言っておいて、結構自分で言ってますよね」

121 ブラッド

「普段、愚痴れる相手がいないからな。いいなお前、ちょっと見直した」

122 リブレ

「僕は優秀ですから」

 にっこりと笑んで、青年は言い放った。これが本性だ、となんとなく理解した。揚げ足を取られなければ恐れるに足らない。

123 ブラッド

「うん、そういうとこなければね。別に嫌いじゃねーけど。一つ先に聞いておこう。俺はお前さんを信用してもいいか?」

 いくらか黙った後、リブレは複雑な苦笑を浮かべた。

124 リブレ

「貴方が、僕の信用に足る人間であれば……僕は付いて行きますよ?」

125 ブラッド

「分かった。なら大丈夫だ」

126 ヌクリア

「だんちょー、れんらくきたァー」

 能天気な子供の声に振り向く。子供は二つの尻尾と獣の耳をぴこぴこと動かし、無線を手に駆け寄ってきた。まるで猫だ。

127 ブラッド

「あれが副団長な。ヌクリア・ブリージィ。ああ見えても消耗激しい破壊魔法、撃ち放題」

128 リブレ

「子供じゃないですか。ちょっと例外も過ぎやしませんか? 本当に何でもありだな」

129 ブラッド

「今更今更。へーい、こちらブレイズ大佐。あー少将だっけ。どっちでも同じようなもんだろ、細かい事気にすんなよ」

130 リブレ

「……また凄いとこに来ちゃったな」

 そもそも極端なまでの実力主義に陥った事には、いくつか思い当たる原因がある。一つは強大な力の持ち主が敵の手に渡るのを防ぐため。二つ目は手懐けて叛乱を防ぐため。

 どちらも成功しているとは思えない。それならそれと、都合の良い様に崩し去るまでだ。

131 藍羅

『ちょっとブラッド、聞いてんの?』

 無線の向こうからは冷めた声音の女の言葉。耳慣れた声ではあるが、いまいち聴き取り辛い。

132 ブラッド

「ノイズが酷くて聴こえねえよー。面倒くせーからそっち行くわ。おい新米」

133 リブレ

「あのう。これでも僕、軍に入ってもう2年は経ってるんですけど。そういう扱いは流石にないんじゃないかなーなんて思うんですよ」

134 ブラッド

「ここじゃ新米だろうが。なんか面倒な事になってんぞ、上層部」

 無線を押さえながら、ブラッドはあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。無線からは再び呆れた声音が続いた。

135 藍羅

『ブラッド、ブラッド? 勝手に切ってるんじゃないでしょうね!』

136 ブラッド

「分かった、分かった。ちょっと待て。分かったからホント。……おい、行くぞヌク。なあ、新米」

137 リブレ

「……リブレです。呼び捨ては構いませんが、新米は勘弁して下さい」

138 藍羅

『アンタ上からも何か命令下ってるんでしょーが、あたし聞いたわよ?』

139 ブラッド

「だーから分かったってば! ちょっとそこで待ってろ。リブレ、お前も来い。問題の奴、とっ捕まえろって指令みてェだ」

 正直、面倒な話でしかなかった。たった一人の人間を、師団全部動かしてでも捕えようとするような男が、よりにもよって人手不足の12団に処理を任せるとは。

140 ブラッド

「暴君様は本気なのか、俺らを試してんのか、どっちなのかね」

141 リブレ

「試されてるんでしょうね」

 外界とほとんど変わらぬ温度の廊下を通り、タワーの頂上を目指す。門前に控えていた憲兵が慌てて敬礼するのが視界の隅に入った。

 返事が返ってくるはずもない。

 気安く声を掛けられるような相手ではない、とでも教え込まれているだろう。普段陰口しか叩かない連中が、本人を目の前にすると途端作ったような丁寧な応対振りを見せる。嫌になる。

142 ヌクリア

「うわーあ、まっくら。ヌク、スイッチさがしてくるー」

143 リブレ

「どこにこんな設備整える金があるってんですか……税金の無駄って奴ですかね。搾取するだけ搾取される時代だというのに」

144 ブラッド

「余裕があるのなら、ウチのオンボロ設備も少し良くして貰いたいもんだ。言うだけ無駄だろうけど」

145 リブレ

「まさかあの状態で敵軍壊滅に追いやったんですか……」

146 ブラッド

「大抵俺一人でなんとかなるな。この前は魔人にやられた。諜報部員がいねーから全部自力だけど」

147 リブレ

「それであの有り様ですか、会議室」

148 ブラッド

「片付きゃしねェよー、お前、どうせなら俺の秘書にならん? 欲しい。かなり欲しい、秘書。切実に欲しい」

149 リブレ

「お断りします。――さっき言ったように、貴方の実力次第ですって。僕は副官やってる方が向いてるみたいなんで」

 相変わらずの笑みを浮かべて、にべもなく告げた。

 あまりのつれなさに、思わず肩を落とす。

150 ブラッド

「まあいいけどよ。お前さんは会った事あるか、皇女に」

 本部施設の地下に設置された研究棟の扉を開く。酷く重たく感じられた。青年はただ左右に首を振るだけだった。

151 リブレ

「いえ、名前しか知りません」

 当然だろう。彼女もまた薄暗い地下での研究の犠牲になった一人なのだから。

152 ブラッド

「じゃあ色々覚悟しとけよ」

153 リブレ

「色々って何ですか……」

154 ブラッド

「俺の口から言わせる気か」

155 リブレ

「そんな凄い人でしたっけ」

156 ブラッド

「スンゴイのよ、マジで」

 静かな空洞に声が響いた。