GUNBLITZ

ACT01 notorious requiem [ blitz_01 ]
No. キャラ 台詞、状況
001 ジャスカ

 魔法が化学式と数字によって表す事ができるようになってから、最早どれくらいが過ぎ去っただろうか。

002 ジャスカ

 それがなければきっとこの国は、いまだ弱小国家だったに違いない。

003 ジャスカ

 最初は誰もが反対していた。失う物も当然、大きかった。それでも皆が勝ち誇る。

004 藍羅

「確かにアレが決定打となったのは、認めざるを得ないんだけど」

005 ジャスカ

 余裕のない国費を捻出し、正義の限りを尽くし、民衆が自ら武器を取ったあの戦争を。

 膨大な被害を出す事なく終わらせた、あの戦争を。

006 藍羅

「反面、大変な事になっちゃったのは、これまた否定できないのよねー」

007 ジャスカ

 皇女自らが化学魔法を実践する事で知らしめたその威力に、他国は反撃する事なく平伏した。

008 ジャスカ

 たった一枚の黒いプラカードから発せられる落雷。

 巨大隕石落下と同じくらいの破壊力を示して辺り一帯を滅ぼした。

009 ジャスカ

 あの時の他国軍の絶望に染まった空気をいまだによく覚えている。

 彼女の傍でそれを見ていたから。

010 藍羅

「あたしはそういう事がしたいんじゃなくて」

011 藍羅

「駄目、もっと落ち着いて話し合わないと。武力行使による制圧は、いつか反覆されてしまう」

012 ジャスカ

 父親である元帥を真っ向から全否定できるのは、この国では彼女くらいだろう。

013 ジャスカ

 彼女が幼い頃から飽きる事無く続けていた研究の成果。つまり。

014 ジャスカ

 彼女が長い時間をかけて造り出した化学魔法の威力こそが、この国を形成するに至った力だからだ。

015 ジャスカ

 そんな彼女を、国王も無下にできない。

016 ジャスカ

 政治に介入するようになった皇女を、内心では苦々しく思っていただろう事は僕にだって簡単に想像できる。

017 藍羅

「せめて誰か味方につけることができれば、ねえ」

018 ジャスカ

「でも皇女、和解っていうのは難しい物でしょう? 現に軍内部だって喧嘩ばっかりだ」

019 ジャスカ

 自ら望んで人体実験の実験台を名乗り出た団があった。彼らと他団の仲はとにかく酷い。

020 ジャスカ

 自らを薬物に浸して強化されていく様を、誰もが異常だと非難した。

021 ジャスカ

 自分もそう思う。当然だ。

 人外の力を手に入れ、下法でヒトを踏み躙る。

022 ジャスカ

 確かにそこには恐ろしいまでの研究の成果はあったかもしれない。でも彼らはもう人間とは言えない。

023 ジャスカ

 彼ら人間と進化の過程を違える、僕ら蛮猫ばんびょう族から見ても、精神的に異常であるとしか思えない。

024 藍羅

「これは……簡単に出来ないから、やってみる価値があると思うのよ」

025 ジャスカ

 現国王の政治の下では、絶対に不可能だと思わざるを得ない事も。

 或いは彼女になら。

026 ジャスカ

「藍羅様、僕にできる事があれば何なりと」

027 藍羅

「……父上の凶行を止められるなら、当然力を借りるつもりよ」

028 ジャスカ

 彼女には他の人が羨む包容力と実行力が備わっている。秘めた決意の固さを一番よく知る自分が守らねばなるまい。

029 ジャスカ

 願うのは彼女の安全。ただ、それにはまだ力量不足だ。

030 ジャスカ

 見合う力を持ってる人間は、確かにいる。軍の荒くれ者が集う特殊部隊、第12旅団。彼らなら間違いなく、あの横暴な国王を始末できるだろう。

031 ジャスカ

 だが彼らは敵だ。国王直属の部下である彼らが簡単に裏切るはずなどない。悩みの種は結局のところ、そこだ。

032 藍羅

「強くて裏切らない、確かな味方が欲しいところね」

033 ジャスカ

 正論ではある。

034 ジャスカ

「皇女は強いです」

035 ジャスカ

 僕なんていらないのではないかと時々錯覚する。

 現に、彼女をよく知る彼女の幼馴染はこう答えた。

036 ブラッド

「アイツは花畑より戦場の似合う娘だよ」

037 ジャスカ

尤もだと思った。間違っちゃいない。

038 藍羅

「あら、今頃知ったの? 皇女なんて芯がしっかりしてないとできないもんよ」

039 ジャスカ

 この荒廃した魔法軍事大国レブナンスも。或いは、彼女になら。

040 ジャスカ

(タイトルコール)

 GUNBLAZE第一章 GUNBLITZ、ACT1「notorious requiemノートリアス・レクイエム

041 研究員

「サンプル、K-01タイプ2起動します」

042 サージェ

「波形は?」

043 研究員

「全て正常値内です。動作もテストできますが……どうしましょうか、女史」

044 アイザック

「やれ。構わん、私が許可する」

振り返ると、そこには見慣れた中年の男が立っていた。

045 サージェ

「……閣下、いついらしたんですか」

046 アイザック

「今着いたところだ。クライナ少尉、直ちに火力テストを実行しろ。事は時を争う状況だ」

047 サージェ

「ただちに、ですか? 解凍したばかりではサンプルに多大な負荷が……」

048 アイザック

「聞けぬ耳なら削ぎ落とすがいい。これは命令なのだよ」

 暴君の冷淡な物言いに、拳を握った。

 構わず、諦めにも似た苦々しい感情を吐き出すだけの行為を続ける。

049 サージェ

「……何故です! 被験者の事を考えるなら、そんな非道な事はできないはずだ!」

 凛とした声が研究施設ラボ内に響き渡る。赤髪の女はコールドカプセルの前で膝を突いた。冷気を漂わせる無機質な箱に魅入られたまま動く事侭ならぬ黒衣の軍人に、冷ややかな視線を注ぐだけだ。

 軍人が振り向く。

050 研究員

「女史、落ち着いて下さい! 今まで、何人の人間が辞めて行ったと思ってるんです!」

051 サージェ

「お前に正常な判断能力は残っていないのか! これは……既に人間ヒト人間ヒトであるレベルを超えている」

052 アイザック

「では君はどこまでが人間ヒトであると言うのだね」

053 サージェ

 暴君の、かつての名君の影はとうに消え去っている。そしてその問いに答える事は……できなかった。

054 研究員

「隣国が力をつけている。レブナンスは再び取り残されようとしている。だから力が必要だ。そう言ったのは貴方です、女史」

055 サージェ

 常に正しくなければならないという愚かな思想もなく、何が正しいのか、葛藤している。

056 研究員

「正常かどうかなんて、閣下が判断なされば良い事です」

057 サージェ

 良かれと思って始めたこの実験も、今にしてみれば手に負えない過ちだ。

溜め息をつき、サージェは肩を落とした。

058 サージェ

「閣下、私はこの計画を降りさせて頂きます」

059 アイザック

「今更無駄な事を……」

060 サージェ

 私は、どうかしていた。

 次々と進められる実験。あの頃から私の前に現れる実験材料は人間ヒトであってはならなかった。

061 サージェ

 サンプルに個別意識はもう残っていないだろう。グロテスクなモンスターと化した、人間だったものを、私は……。

062 サージェ

「すまない、……殺して、やれないんだ」

 コールドカプセルに視線を落とす。視線を逸らす事はできなかった。

 不意にカプセルが揺れる。

063 アイザック

「なっ……何事だ?」

  コールドカプセルの中にいた異物が突然動き出す。何もない空を掴み、虚ろな瞳で宙を睨み、硬直した躰でゆっくりと起き上がる。

 青緑の溢れる室内に浮かぶ白い影。

064 研究員

「動いた? そんな馬鹿な……」

065 サージェ

 包帯から覗くケーブル、真っ白な体毛に潜む血色の眼光。その動きはまるで棺桶から起き上がったゾンビのようだった。

066 サージェ

 一方で、作りたての人形を思わせる清然とした様相は、酷く綺麗に見えた。

067 研究員

「閣下、お下がり下さい。危険です」

068 サージェ

 確かに目の前で起きている出来事のはずなのに、非現実的な物を見ている感覚に襲われる。

069 アイザック

「何故だ、何故動ける」

 人であって人ではないそれは、暴君を視界に定めてその首を掴みに掛かった。自分を生んだ者を壁に叩き付け、声にならない悲鳴を上げながらただ咆哮する。

070 レイジ

「……ァァアアア!!」

071 サージェ

 私はただ呆気に取られていた。

 硬く掴んだ彼の手の内で足掻く暴君を、ただ呆然と眺めている。

 男を見下ろして彼はその手を離す。男は絞められていた喉を押さえて咳き込んだ。

 私が造り上げてしまったバケモノは、机の上にあった銃を手にして辺り一帯の破壊を始めた。自分を含めた室内を、手当たり次第。

072 サージェ

 それは私に目もくれずにいる。

 死に焦がれているようにも見えるのに、生きる事に執着しているようにさえ見えた。

同僚の少し抜けたところのある研究員の男は、引出しから銃を取り出しゆっくりと構えていた。撃ったところで意味がない事は分かっている。威嚇に過ぎない。

073 研究員

「止まれ……止まるんだ!」

074 アイザック

「サンプルを逃がすな! 奴を呼べ!」

075 研究員

「閣下、こんなところでですか? 彼では被害が半端ありません」

076 アイザック

「呼べと言っている。他に止められる奴などいない」

077 研究員

「は、はい! 了解しました」

 暴君が叫んだ。控えていた研究員が慌てた足音を立てる。折角の好機をこのままにしておくわけにはいかない。

078 サージェ

「おい……!」

 思わず暴走する青年の腕を掴んだ。その手を振り解き、即座に彼の手にしていた銃口が応答する。彼は流水だ。捕まえる事などできない。

 額に宛がわれた金属が静かに鳴く。

079 サージェ

 私を睨んだ白い悪魔の表情は、予想していたよりも遥かに冷静だった。しかしその瞳には狂気を孕んでいる。

080 サージェ

 主であった私さえ、今にも躊躇わずに殺しそうな狂気。

081 レイジ

「……お前もか」

 侮蔑の言葉を吐き捨て、青年は静かにこちらを見下ろした。

 銃を持つ手に力が入り、こめかみに当たる銃口が食い込む。

082 サージェ

「すまない、意味がよく……」

083 レイジ

「……チ、運がない」

 舌打ちと同時に青年の視線が揺らぐ。鋭利な眼光は後方へと向けられていた。

 気配に勘付いて振り向くと、そこに見えたのは見慣れた軍人の姿。彼の視線はそちらへと注がれている。

 発砲音が室内に響く。銃弾に応じて、金属音が発砲したと同じだけ鳴り響いた。

084 ブラッド

「随分な歓迎だなァ、姐さんも災難だ」

 気の抜けた声音で金髪の軍人は研究施設に割り入った。割られたガラスの破片が床に散らばる。

085 研究員

「お呼びしました、閣下」

086 アイザック

「ブラッド! そいつだ、そいつを捕えてシリンダーに押し込めろ」

087 ブラッド

「あいよ、了解しましたよ! っつっても、無傷かどうかまでは保障できないんですけどねェ」

088 アイザック

「少しくらいなら構わん。簡単には死なん」

 暴君の言葉に曖昧な笑みを浮かべながら、大剣を握って軍人ブラッドは一歩前へと踏み込んだ。青年の解け掛けの包帯から覗く特殊措置の施された肉体に気付いたのか、苦い表情を浮かべる。

089 ブラッド

「死に急ぐなよ、兄弟」

 カプセル外から繋がっていた赤いコードを引き抜いて、青年はブラッドの懐へと飛び込んだ。床を滑るように駆け込み、引き金を引く。銃弾の雨がブラッドの足下から降る。

090 レイジ

「ッくそ……」

091 サージェ

 私には止める事も逃がしてやる事も叶わず、ただ見ているしかなかった。

092 ブラッド

「おわっ」

 間一髪のところで避けた男を尻目に、青年は掛けられていた黒コートを奪って外に繋がる通路へと駆け出した。様子を見に来ていたらしい軍人らがざわつく。

 だが彼らは命じるだけで自ら動く事はできない――返り討ちにされると分かっているからだ。

093 ブラッド

「ああああ、あっぶねー! 銃撃戦に長けてる奴なら先に言っとけよ、人質取るのかと思えば!」

 悲鳴にも似たブラッドの叫びに、暴君は怒りの表情を露にした。

094 アイザック

「馬鹿者、さっさと追え!」

095 ブラッド

「閣下、人遣い荒ーい」

096 アイザック

「ウダウダするな、追えと言ってるだろう!」

097 ブラッド

「はーい、お言葉ですが閣下。今追ったら被害拡大するだけで、相手の思う壺だと思いまーす。……まあいいじゃねェの、指名手配にでもすりゃ公に追えるじゃないですか。そのための旅団でしょう?」

098 サージェ

 どこから来る自信か知らないが、ブラッドの陽気さに助けられた。

099 研究員

「女史、大丈夫ですか?」

100 サージェ

「ああ、大丈夫だ」

101 サージェ

 サンプルを逃して気になるのは、これから決まる今後の己の処遇についてだ。暴君の顔にもそう書いてあるように見える。

 降り注ぐ視線は冷たかった。

102 サージェ

 だが殺される、という感覚は不思議となかった。この男ならば殺しはしない。私が死んでしまえば、今までの研究は全て白紙に返る。

103 サージェ

 欲深いこの男は、それだけはどうしても避けたいはずだ。

104 アイザック

「まあ良い、よくやった。アルフロスト」

 浮かべていた曖昧な笑みも、一瞬凍ったように感じられた。ブラッドが苦々しく、だが冗談交じりのいつもの口調で吐き捨てる。

105 ブラッド

「……誰と間違えてんの?」

106 サージェ

 暴君は、私に自殺される事さえ恐れている。唯一喉を掻っ切れると思っていた筆記用品さえ奪われてしまった。床に散らばる破片では小さすぎて役に立たない。

107 サージェ

 情報を掴み出すまでは、どういう形であれ生かしておく事を選ぶだろう。

 だが、私は……。

108 アイザック

「サージェ・クライナ、只今をもってお前を軍から追放する」

109 サージェ

 当然の報いだ。そして、予想の範疇だ。それでも私は自分の決断に後悔する事はないだろう。

110 サージェ

 彼のような生き物をこの世に生み落としてしまった事以外は。