| No. | キャラ | 台詞、状況 |
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踵を鳴らし扉の前に立つと、いつものうだつの上がらない従者が顔を上げて応じる。ジャスカは視界に白服の男と、灰色の野戦服を纏った魔人を認めて、慌てた様子で主を呼んだ。 |
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| 001 | ジャスカ |
「姫様? 旅団の二名来ました」 |
| 002 | 藍羅 |
「通して。ジャスカも入っていいわよ」 |
| 003 | ジャスカ |
「――だってさ、入れ。ところでレイジ、団服ちゃんと渡したはずなのに、お前なんで支給された一般兵の服着てるんだよー」 |
| 004 | レイジ |
「時間がなかっただけだ」 |
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恨めしげに唸るジャスカの言葉を軽く受け流す。部屋に入ると、半ばやつれた様子の藍羅が苦笑交じりに迎えてくれた。ブラッドは生真面目に頭を下げた。しかしその口調は軽々しい。 |
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| 005 | ブラッド |
「ご機嫌麗しゅう、陛下」 |
| 006 | 藍羅 |
「座って座って。ブラッド、なんの冗談よそれ。アンタに陛下なんて言われたくないわよ。ほらレイジの様子がおかしいでしょ」 |
| 007 | レイジ |
「なんか寒気が……」 |
| 008 | ブラッド |
「ひでー。レイジもひでー。最近ずっと悩んでるみたいだから、ふざけてみたってのによー」 |
| 009 | 藍羅 |
「そうそう、クーデター前に追放だったのが納得いかないのよねえ。あの時死刑になってたら、今頃どうなってたのかしら」 |
| 010 | ブラッド |
「投獄すりゃ尋問しないといけなくなる、それを避けたかったんだろ。あんま深い事考えンなよ、専門家に任せとけ。で、そこのヘタレ従者連れてって役に立ったのか?」 |
| 011 | 藍羅 |
「……癒しくらいには?」 |
| 012 | ジャスカ |
「ちょっと姫様ァ!? ひどいや!」 |
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テーブルを叩いて割り込む少年を退けて、藍羅は笑う。どこからどう見てもからかっている以外には見えない。 |
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| 013 | 藍羅 |
「まあこの数年で分かった事なんて。どう頑張っても争いは、綺麗事にはなりえないって事くらいだわね。レイジ、多分少し聞いてると思うけど、人探しをしてもらえないかしら」 |
| 014 | レイジ |
「人探し……誰をだ」 |
| 015 | 藍羅 |
「サージェ・クライナ。あたしが最初にアンタに声を掛けた時に持ち出した、セロって薬覚えてる? アレに関わってた研究者よ」 |
| 016 | ブラッド |
「死刑執行の時に来てた女医だ。戴冠式の前にまたふらっとどっか消えたんでな。探すところからやり直しってワケだ」 |
| 017 | レイジ |
「探し出してどうする。その女と俺と、どういう関わりが……」 |
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吐き捨てた。繋がりがあるのかも分からない人間を探してどうするのか。一つ思い当たる節があって、言葉の途中で口を噤んだ。 |
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| 018 | ブラッド |
「思い当たったか? 赤い髪と金と緑のオッドアイのさ、黒衣の医者」 |
| 019 | レイジ |
「まさか、あの女か……地下研究棟の研究主任と、アルフィタの医者と……同じ女だったのか」 |
| 020 | ジャスカ |
「なーんかさー聞いてるとレイジもさー。何回も見てる人間を、別人と思ってたりして、案外間抜けだよね。ってそこ! いたいけな猫に銃口向けない! 本来ならここに武器持ち込むのだって禁止だぞ!」 |
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気の抜けた声が割り入る。撃鉄を鳴らすとすぐにジャスカは黙った。 |
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| 022 | ブラッド |
「アルフロストについても知りたくないか? フローズといい、お前といい、最近気にしてるようだったしな」 |
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何気ないブラッドの一言が虚を突いた。 |
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| 023 | レイジ |
「知ってたのか?」 |
| 024 | ブラッド |
「牢にぶち込まれた時に気にしてたろ。姐さんならアイツの事も知ってる」 |
| 025 | 藍羅 |
「問題なのは、彼女が姿を消した時に関連データ全部消されたってとこかしらね。ジャスカに探らせてたけど、目撃情報から先もないし」 |
| 026 | ブラッド |
「その辺はリブレに当たらせてるから、時間の問題だな」 |
| 027 | レイジ |
「探し出して、喋らせて、その後どうする。その後の俺は、どうすればいい。……俺は武器だ、武器以外にはなれない」 |
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所在無い不安は、唐突に居場所がなくなった気がしたためだとすぐに検討がついた。肩を竦めて、ブラッドは苦笑した。苦笑する他なかった。 己自身も同じものである事に、無意識に気がついた所為だ。 |
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| 028 | ブラッド |
「姐さん捕まえ次第、お前が決めればいい。旅団には空席がある。お前が望むなら、そこに座ればいい」 |
| 029 | 藍羅 |
「捜索を拒否する理由はないわね?」 |
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誰かに似て意地が悪い。レイジは溜め息混じりに、肩を落とした。 |
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| 030 | レイジ |
「これで最後だぞ」 |
| 031 | タイトルコール |
(タイトルコール) GUNBLAZE the 3rd chapter GUNBLAZE ACT2 - Venomous Deride |
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胸倉を掴み、力の限り壁に叩き付ける。反動で頭をぶつけて、ブラッドは顔を顰めた。 |
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| 032 | ブラッド |
「いてて、いきなり何すんだよ。八つ当たるなら、ちったあ手加減しろよ」 |
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気に入らない苦笑の前に銃口を突き出し、レイジは嘆息した。 |
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| 033 | レイジ |
「鋼鉄の意志、とは、お前のことか。俺がまだ培養槽の中にいた頃、アルフロストに向けられた通称だ」 |
| 034 | ブラッド |
「待て待て、その銃を下ろせ。その通称はアルフのだろ? 俺じゃない。大体、アルフはテナウ=ハサハの生まれだ。俺はレブナンス。そこからして違うだろ?」 |
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茶化した様子で答えるブラッドに、もう一度怒りを傾ける。鎌をかけたつもりだが、上手い具合に掛からなかった事に落胆した。 渋々銃を下ろし、手を離す。 |
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| 035 | レイジ |
「正直に答えろ、お前がアルフロストか。外見、年齢、共通点が多い」 |
| 036 | ブラッド |
「……違う。俺じゃあない」 |
| 037 | レイジ |
「じゃあ、封鎖されていたはずの研究棟にいた理由は。そこにアルフロストがいるのか。お前とアルフロストの繋がりは何だ」 |
| 038 | ブラッド |
「なんでそんなにアイツに執着する?」 |
| 039 | レイジ |
「答えろ!」 |
| 040 | ブラッド |
「アルフロストはな、馬鹿だったんだよ。騙されてるとも知らずに従ってたんだ。事実を知った時にスゲェ暴れてな、そいつを抑えるために俺がいる。何でそんな事に興味があるンだ?」 |
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ならば。半分安堵したようで、半分気落ちした。 レイジは内心期待していたのかもしれなかった。目の前の男がアルフロスト本人であれば良かったのに、などと。腹の底で蠢くどす黒い感覚は、例えるのであれば、得体の知れない恐怖だ。 |
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| 041 | レイジ |
「最近、寝れば夢に見る。記憶に纏わりついて離れない。その正体が知りたい」 |
| 042 | ブラッド |
「……そうか。運が良ければ、会えるかもな……残念だな。俺は結構今みたいにさ、のんびりしてるのも悪くないと思ってたンだけどよ――戻って、仕事すんぞ」 |
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惜しがる様子で呟く旅団長の背を見送り、レイジは強く拳を握った。苦々しく吐き捨てる。 |
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| 043 | レイジ |
「また振り出しだ」 |
| 044 | ヌクリア |
「ダンチョダンチョ、ヘイズがね、いってたの。おとなになったらみみとしっぽ、なくなっちゃうんだって。ヌクこのままがいいな」 |
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二本の尻尾を振りながら幼い蛮猫の子供が裾にしがみ付く。その頭を撫で回しながら、ブラッドは手元の書類を捲った。 |
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| 045 | ブラッド |
「ヌクはそのままがいいな。俺としても肉球がなくなるのは惜しい」 |
| 046 | ヌクリア |
「ヌクもこのままがいいな。ダンチョ、いまのままがいいな」 |
| 047 | ブラッド |
「俺があ? 俺はずっと今のままだぞヌク。おかしな事言うな、お前」 |
| 048 | ヌクリア |
「でもダンチョさいきん……ううん、なんでもない。ヌク、リキのおてつだい、してくる」 |
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言葉に詰まって頭を左右に振る。そのまま理紀の側へ駆け寄って、ヌクリアは会議室へと姿を消した。奇妙な違和感を感じながらも言い出せないでいる様子は、まるで近場で段ボールの山を切り崩しているフローズを見ているようだ。 レイジは居場所のなさを感じて、仕方なくその内の一つに手を伸ばした。 |
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| 049 | フローズ |
「子供の勘は鋭いって言いますからね。あの、手伝ってもらえるなら……それ書庫までお願い、できますか」 |
| 050 | レイジ |
「随分重たい物を運んでるんだな。あの連中にやらせればいい」 |
| 051 | フローズ |
「いいんです。散らかすのが得意な連中ですから、下手に手を出させたら悪化するだけです。第一、片付けを溜め込む方が悪いんです――レイジ、さん」 |
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呼び慣れない呼称に反応し、思わず抱えた段ボールを落としそうになる。 |
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| 052 | レイジ |
「……何だ。アルフロストの話なら、持ち掛けるだけ無駄だと思う。俺にも分からない事の方が多い」 |
| 053 | フローズ |
「いえ、違和感の原因が分かったような気がするんです。団長が、最近少し余所余所しくなってませんか? 調子がおかしいというか……」 |
| 054 | レイジ |
「答えかねる。元を知らない」 |
| 055 | フローズ |
「鬱陶しいのは元々ですけど、絡んでくる時も一定以上は踏み込んでこない人なんです。最近はもっとこう、なんていうんだろう……自分から避けてるような気がして」 |
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曖昧な言葉を懸命に置換えながら、途中で口を噤んだ。それ以上何を言えというのか。言いたい事は理解したが、それ以上言葉が浮かばず沈黙だけが過ぎようとした。 |
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| 056 | レイジ |
「よく、分からないな。本人に言わせてみれば、アルフロストとは別人らしい。懐かしい気はするが」 |
| 057 | 理紀 |
「あっ、レイジさん団服ー! 真っ白じゃないッスかー、髪も白くて綺麗だから丁度いいですね」 |
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理紀がひょいと顔を覗かせ、表情を明るくする。場を和ませるのが彼女の特技のようだ。髪、の一言にぎくりと肩を震わせた。 |
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| 058 | ヌクリア |
「レイジ、ゆきだるまみたい」 |
| 059 | レイジ |
「……変な奴だな、お前」 |
| 060 | 理紀 |
「僕ッスか? 何かおかしいとこあります?」 |
| 061 | レイジ |
「この色を見て、大抵の奴は驚く」 |
| 062 | 理紀 |
「いい色だと思いますけど……駄目なんですか?」 |
| 063 | レイジ |
「……いや、なんでもない。変な奴だ」 |
| 064 | 理紀 |
「そうそう、ちょっと目を離した隙に団長がどっか行っちゃって、探してるんスよー。なんか僕避けられてるしなあ」 |
| 065 | フローズ |
「それは同族嫌悪ってやつじゃないか? 尤も、最近の様子だとそれに限った事じゃないかもしれないけど」 |
| 066 | 理紀 |
「ああそっか、同族嫌悪かあ。あるかもなあ、団長のことだから」 |
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理紀は少し残念そうに答えて、苦笑する。 |
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| 067 | ヌクリア |
「どーぞくけんお、ってなあに?」 |
| 068 | フローズ |
「似た者同士、似すぎてて苦手って事ですよ」 |
| 069 | 理紀 |
「団長もだけど、リブレさんも見かけないなあ。クイーヴ先輩が怒ってたし」 |
| 070 | フローズ |
「……理紀、なんであいつに先輩なんてつけてるんだ?」 |
| 071 | ヘイズ |
「レイジ、ちょっと手伝え。薄ら馬鹿が消えやがった」 |
| 072 | 理紀 |
「あ、ヘイズさんは残ってたッスねえ」 |
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不意に呼ばれて背後を振り返る。頭に雪を乗せた大男が傍らに立っていた。外を一通り回ってきたような様子で、不機嫌を露わにする。 |
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| 073 | レイジ |
「またサボリじゃないのか」 |
| 074 | ヘイズ |
「だろうな。リブレが場所だけメモ寄越してきたんだが、来いってよ」 |
| 075 | レイジ |
「なんで俺がそんな事を」 |
| 076 | ヘイズ |
「さあな。アイツの考える事は俺には分からん。酒場か……厄介だな」 |
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いつになく投げ遣りだ。一人隅にぽつんと取り残された少年が虚しく呟いた。 |
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| 077 | クイーヴ |
「僕だけのけ者か」 |
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レブナンス中央広場から少し奥まった通りへ入ると、小さな居酒屋が静かに佇んでいる。昼の客層の少ない時間に尋ねてきたのは、派手な金髪の大男だった。 |
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| 078 | ブラッド |
「ようヴィヴィ。久しぶりのところ悪いが、ちょっと話あるんだ。いいか?」 |
| 079 | ヴィヴィ |
「なんだい。うちは酒しか出せないよ。軍人さんが私服でお忍びとは、いいご身分だね」 |
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ぶっきらぼうに答えて主人はボトルを置いた。不機嫌さが見て取れた。 |
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| 080 | ブラッド |
「まあそう言うなって。分かった分かった、客だ、客としてきた」 |
| 081 | リブレ |
「団長、仕事中に人目を忍んで逢瀬とは、やらかしてくれますね」 |
| 082 | ブラッド |
「うお! 何でお前ここにいんだ!?」 |
| 083 | リブレ |
「"何で"は僕の台詞ですよ、一人で来るなんて。ただでさえ悪名高い大佐が城下で噂になったら、流石に姫様が可哀想でしょう?」 |
| 084 | ブラッド |
「笑顔で言うな怖いから」 |
| 085 | ヴィヴィ |
「旅団の団服……アンタそこの馬鹿の部下の子かい? 丁度良い、連れ帰って頂戴よ。この薄らトンカチ、昔から厄介ごとばっかり持ち込むんだよ」 |
| 086 | リブレ |
「ええ、最初からそうするつもりで来たんですけど」 |
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ブラッドを指差して同情を誘うヴァージニアの半ば笑いながらの訴えに応え、リブレは苦笑した。時間が時間だけに他の客といえば、喫茶代わりにしている人間がぽつぽつと見られる程度だ。 カウンターに身を乗り出してブラッドは尋ねる。 |
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| 087 | ブラッド |
「ここ最近、この辺で女医を見かけなかったか? 赤髪にオッドアイ、背少し高めの」 |
| 088 | ヴィヴィ |
「お尋ね者? そんな人は知らないけど。ちょっとブラッド、冷やかしに来ただけなら営業妨害で上に報告するよ」 |
| 089 | リブレ |
「あ、マスター、一杯下さい」 |
| 090 | ブラッド |
「ヴィヴィ、そりゃないだろ。っておいリブレ、仕事中とか言ったのお前だろ」 |
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呆れた様子で肩を竦める。しかしヴァージニアが嘘をついている事は、ブラッドも気がついている。リブレに何か考えがあるのか、それとも何も考えなしの行動なのか読めず、諦めて座り直した。 |
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| 091 | ヘイズ |
「アイツら、バックレる度に手の込んだ真似しやがって」 |
| 092 | レイジ |
「先が思いやられるな」 |
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広場の喧騒から距離を取り、店の前にホバーを構えてレイジは団服のフードを被った。窓から伺える店内の様子は静かではあるが、カウンターの様子は和やかだ。 |
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| 093 | ヘイズ |
「すっかりデキ上がってるんじゃねえか? 大丈夫か? こんな街中で、殲滅だけはするなよ」 |
| 094 | レイジ |
「期待しない方が良さそうだ」 |
| 095 | ヘイズ |
「あ、おい、ミイラ取りがミイラにはなるなよ」 |
| 096 | レイジ |
「……それも期待するな」 |
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ブラッドに無理矢理巻き込まれれば、後どうなるかなど知れた事ではない。気が重いが他に人がいない。取っ手に手を置くと、隔離棟のそれより遥かに軽い扉は簡単に開いた。 奥の方から聞こえる談笑にレイジは脱力感を感じた。 |
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| 097 | リブレ |
「団長も、随分フローズに好かれたものですね。最近理紀よりも追い回されてませんか」 |
| 098 | ブラッド |
「ありゃ俺をいじるのだけが生き甲斐なんだよ。別の趣味を持ってくれると、俺としても嬉しいんだけど」 |
| 099 | レイジ |
「おい、お前ら。おい……こういう事になってるだろうとは思ったが」 |
| 100 | リブレ |
「やあ、レイジ君。奇遇ですね、こんなところで」 |
| 101 | レイジ |
「奇遇じゃない。くそ、離せ」 |
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腕を引かれ、席へと無理矢理座らされる。ヘイズが嫌がって役を押し付けた理由を、なんとなく理解した。 |
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| 102 | ブラッド |
「そんな嫌そうな顔すんなよ、傷付くだろ」 |
| 103 | レイジ |
「誰の所為だと思ってる、何しにここに来た」 |
| 104 | ヴィヴィ |
「あ、あらあらあら、キミ、死刑執行の! まあ座って座って」 |
| 105 | レイジ |
「人違いだ。そこの二人を連れて帰ってもいいか」 |
| 106 | ブラッド |
「なあリブレ君よー。レイジ君が俺の名前だけ覚えてくれないのは、俺への当て付けだと思うんだけど。これどう思いますー」 |
| 107 | リブレ |
「団長は代名詞沢山持ってますからね。もうここまできたらいっその事、誰かに『ご主人様』って言わせて見ればいいじゃないですか。きっといい見ものに」 |
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完全に面白がっている様子に辟易し、吐き捨てる。言葉も通じているのかそうでないのか、敢えて無視されているのか最早区別がつかない。 |
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| 108 | レイジ |
「……酔っ払いどもを公安の前に突き出す、話は後だ」 |
| 109 | リブレ |
「やだなあ、酔ってませんてば」 |
| 110 | ブラッド |
「おっし、面白い光景見せて貰ったし、真面目に仕事しますかー。ヴィヴィ、正直な事言っとけよ」 |
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立ち上がりながら声をかけるブラッドに、女主人は相変わらず苦い表情を浮かべていた。手にしていた皿を置いて、毅然として答える。 |
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| 111 | ヴィヴィ |
「知らないね。兄さん方の期待には応えられない」 |
| 112 | ブラッド |
「目撃情報が出てンだってよ、リブレの情報なら確かだ。別に処分しようって事じゃねンだよ」 |
| 113 | ヴィヴィ |
「……分かったよ。正確な事を言えば、数日前にここを出てから先は私は何も知らない。どこへ行ったのかも聞かされてない」 |
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ヴァージニアは溜め息交じりに肩を竦めて見せた。それが偽りのない言葉だと伺って、流石のブラッドも腕を組んだ。 |
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| 114 | ブラッド |
「だってよ、リブレ。お前の情報網もここまでか、ここから先は地道に探すかね」 |
| 115 | リブレ |
「まあ仕方ないですね。――レイジ君、団長から目を離さないで下さい。様子が少しおかしい気がします。あとこれを。探す対象の情報が全部入ってます」 |
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肩を掴まれ振り返れば、小声の忠告が響いた。リブレも既に気が付いているとすれば、他に知らない人間がどれくらいいるのだろうか。渡されたディスクのスクリーンを展開し、情報を探った。 |
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| 116 | レイジ |
「サージェ・クライナ……この近辺にいるのか」 |
| 117 | ヴィヴィ |
「次来る時は、客として来て欲しいもんだね。迷惑もいいところだよ」 |
| 118 | ブラッド |
「悪ィ悪ィ、また今度な。次来る時はそうするつもりだって、あんま怒んなよ」 |
| 119 | ヴィヴィ |
「信用していいのかねえ、その言葉。破壊魔のあだ名にしたって、伊達じゃないんでしょう?」 |
| 120 | ブラッド |
「呼ばれたくて呼ばれてるわけでもないんだけどな。とにかく、見かけたら連絡くれ。サージェ・クライナって女だ」 |
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無言で苦笑するヴァージニアに告げる。先に外へ出れば、ヘイズが仏頂面で待ち構えていた。 |
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| 121 | ヘイズ |
「呑まれなかったかレイジ、そこの馬鹿二人相手によくやった。お前ら、これに関する弁解は」 |
| 122 | リブレ |
「人探しですよー、結果は惨敗でしたけど。丁度良いんで、僕とヘイズで周辺の聞き込みしますか。レイジ君は団長の指示に従って下さい」 |
| 123 | ヘイズ |
「兵舎の方はどうするんだ、クイーヴ一人じゃ心許ないぞ。戻ったら余計散らかってたなんて事になったら、誰が後始末するんだ」 |
| 124 | レイジ |
「アイツ一人でなんとかするだろう」 |
| 125 | リブレ |
「散らかす前提なんですね……それじゃあ、先に失礼。くれぐれも気をつけて」 |
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手を振るリブレらを見送って、残されたレイジは店の方へ向き直った。一対一の重圧が襲う。旅団員が揃いも揃っていう何かが、万が一起こらないとも限らない。 暴力沙汰では、相手の方に分がある。 |
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| 126 | ブラッド |
「待たせたなーレイジ、姐さん探しといくかー」 |
| 127 | レイジ |
「……お前、誰だ」 |
| 128 | ブラッド |
「変な事聞くんだな、どういうこった。俺は俺だろ?」 |
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頭上に疑問符を浮かべながら答えるブラッドの様子は素っ気無い。 |
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| 129 | レイジ |
「俺が知るブラッド・バーン・ブレイズは、褐色の目をしていた。今のお前の目は緑だ。そいつの殻に入ってるお前は、何者だ」 |
| 130 | ブラッド |
「……は、余計な事に気付きやがって。やっぱアイツの『振り』は、難しいや」 |
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緑目のブラッドは、凶悪な笑みを浮かべて黒いカードを手に取った。 |
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| 131 | クイーヴ |
「フローズ、どこに行くんだ。お前までサボる気か?」 |
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半ば不貞腐れた様子で問うクイーヴに、フローズは落ち着かない様子で答える。 |
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| 132 | フローズ |
「埋め合わせは後でする。ちょっと出てくる、やな予感がするんだ」 |
| 133 | クイーヴ |
「……どいつもこいつも」 |